「もの忘れ」と認知症の違いについて徹底解説

認知症は、高齢者を中心に増加している一連の症状を示す用語で、脳機能の低下によって引き起こされる記憶力、思考力、判断力などの障害を指します。

 

この記事では、認知症の原因、症状、種類、診断、治療法について解説します。

 

 

そもそも認知症ってなに?

認知症とは?

認知症とは「病名」ではなく、様々な疾患が原因となって引き起こされる「症状」の総称であるということをご存知でしたでしょうか。

 

疾患による影響で脳の神経細胞が壊されたり、脳活動が低下することで様々な障害が起こり、社会生活や日常生活に支障が出てきた時点でそれらの症状を総合的に診た上で「認知症」と判断される可能性が出てきます。

 

例えば、もの忘れが酷くなってきたと感じて、「もしかすると認知症かもしれない」と考える方がいますが、すぐにそう捉えてしまうのは早計です。

 

加齢による脳の老化は誰にでもあることで、これによる「もの忘れ」と上記のように脳の細胞や活動に障害が起きることによる「もの忘れ」は根本的にその症状の性質が違うのです。

 

普通のもの忘れと何が違うの?

では「加齢」によるもの忘れと、「認知症による機能障害」としてのもの忘れが症状として具体的にどのように違うのかを見てみましょう。

 

加齢によるもの忘れ

人は誰でも加齢と共に脳の機能が衰え、年相応の自然なもの忘れがみられるようになります。

 

脳の生理的な老化を原因とするもの忘れの場合は、例えば人の名前や財布の置き場所などをうっかり忘れてしまったということを本人が自覚しており、少しのヒントがあれば思い出すことができます

 

こうした症状は自然な老化現象だと考えられています。

 

認知症の機能障害によるもの忘れ

脳の神経細胞の破壊や脳活動の低下によるもの忘れの場合は、物事全体がすっぽりと抜け落ち、たとえヒントを与えても思い出すことができません。本人にとっては忘れたことすら自覚がない状態です。

 

例えば、11時に駅前で待ち合わせをする約束をしたのに、約束自体忘れてしまい本人もそんな約束はしたことがないと言い張るケースや、財布を机にしまったという記憶自体が無くなり、誰かに盗られた隠されたと思い込んで怒り出すといったケースはこれにあたります。

 

より専門的に言えば、人間の記憶は「学習して覚える」→「記憶して蓄える」→「思い出す」という3段階から成り立っていると言われており、前者の加齢によるもの忘れは3つ目の「思い出す」力が低下している状態です。

 

後者の認知症によるもの忘れは、1つ目の「学習して覚える」機能が低下している状態ですが、一方で3つ目の思い出す力自体は影響を受けていないため、子供の頃の記憶はしっかりと思い出せるというのはそうした理由があります。

 

先ほどの財布の例で言えば、前者が「しまったことは覚えて記憶していたのにどこにしまったかを思い出すのに時間が掛かる状態」と、後者が「しまったことすら覚えていない状態」だと言い換えることができます。

 

上記のように症状の内容に明らかな差がある為、病院やクリニックでの医師による問診においても、認知症を鑑別するにあたって以下の2つは重点的に確認する事項だと言われています。

 

もの忘れの「自覚」

もし、もの忘れを自覚して一人で外来を受診したのであれば、認知症の可能性は低い考えられ、逆にもの忘れ自体は軽くても、家族に無理に連れてこられて本人は嫌がっているといった場合は認知症の可能性を疑います。

 

もの忘れの「質」

認知症を発症している場合は、起こった出来事自体をすっぽりと忘れている場合が多い為、その症状を客観的に指摘しても本人が強く否定してきます。

 

その他にも本人以外の家族や周囲の人の声として「古い事は良く覚えているが、新しい事はすぐに忘れてしまう」といった発言は参考になります。

 

認知症 加齢によるもの忘れ
経験自体を忘れる 経験の一部を忘れる
自覚がない 自覚がある
怒りっぽくなる・やる気がなくなる 性格の変化なし
日常生活に支障あり 日常生活に支障なし

 

認知症の種類

先述の通り、認知症は症状の総称であり、認知症の分類は数多く存在しています。

 

主な認知症の種類として、アルツハイマー型認知症脳血管型認知症レビー小体型認知症の3つを挙げます。

 

アルツハイマー型認知症

日本における認知症患者全体のおよそ7割を占め、最もよく見られる認知症です。

 

主に60歳以上の高齢者に多く、年齢が高くなるほど発症するケースが高くなっています。

 

脳にアミロイドベータやタウタンパクというタンパク質が異常に溜まり、それによって脳細胞が損傷したり神経伝達物質が減少することで、脳の海馬という部分から萎縮が始まり、徐々に脳全体へと萎縮が広がっていくと考えられています。

 

一方でそうしたタンパク質がなぜ脳内から排出されずに蓄積してしまうのかについてははっきりと理由が分かっておらず、確実に治せる治療薬も開発されていないのが現状です。

 

脳血管型認知症

認知症患者全体のおよそ2割はこの脳血管性認知症です。

 

脳の血管が詰まる脳梗塞や血管が破れる脳出血によって、その発生箇所の周りの脳細胞がダメージを受けることにより認知症の症状が出てくるものを呼びます。

 

ダメージを受けた脳の場所やその程度によって、障害を受ける機能がはっきりと分かれることが多いため「まだら認知症」と呼ばれることもあります。

 

脳梗塞や脳出血の発作が繰り返される度に認知症の症状が段階的に進行していくのも特徴です。

 

ダメージを受けた脳神経細胞を回復させることは難しい為、治療は生活習慣改善や投薬による脳血管障害の再発予防が基本となります。

 

レビー小体型認知症

脳にレビ-小体という特殊なたんぱく質が広い範囲で溜まっていき、脳の神経細胞が破壊されておこるものを言います。

 

レビー小体が発生する明確な理由は分かっていません。

 

レビー小体は他の認知症に比べて進行が早いと言われています。

 

現実にはないものが見える幻視や、手足が震えたり筋肉が固くなって動作が遅くなるといったパーキンソン症状が現れるのが特徴です。

 

現時点では、脳内に溜まったレビー小体を排除させる治療薬は無く、根本的な治療はアルツハイマー型同様難しいのが現状です。

 

認知症と間違われやすい疾患

認知症と間違われやすい疾患についても紹介します。

 

これらは適切な治療を施すことで治すことができるものです。

 

特発性正常圧水頭症

頭蓋内を循環して脳や脊髄を保護している脳脊髄液が異常に増える疾患です。

 

典型的には歩行障害、認知症、尿失禁といった症状が出ると言われており、手術による治療によって歩行障害を中心に症状が改善されます。

 

慢性硬膜下血腫

転倒などで頭をぶつけたりしたときに頭蓋骨と脳の間に血の固まりができ、それが脳を圧迫します。

 

血腫による脳圧迫で、物忘れや歩行障害、尿失禁などの認知症とよく似た症状が現れるのが特徴です。

手術で血腫除去を行うか、手術が難しい場合は漢方薬等で治療するのが通例です。

 

甲状腺機能低下症

血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態をいい、その状態が続くと徐々に物忘れがひどくなったり、認知機能が低下したり、人格が変化したりしてきます。

 

この疾患は血液検査によって調べることができ、甲状腺ホルモンの補充療法によって治療し、2〜3ヶ月かけて投与量を徐々に増やしていくことでホルモン量を正常に戻すようにします。

 

認知症の症状は2つに分けられる

認知症の種類によっても症状は様々ですが、基本的な理解として「中核症状」とそれによって生じる「周辺症状(あるいは、行動・心理症状)」という2つに大きく分けることができます。

 

中核症状

中核症状とは、脳の神経細胞の損傷することによって直接的に引き起こされる症状のことを指します。

 

具体的には新しい物事が覚えられなくなる記憶障害や今いる場所や時間が分からなくなる見当識障害、言葉を理解できなくなったり意味がない言葉を発したりする失語、物事を正しく認識したり対処できなくなる判断力障害、買い物や料理のような物事を順序良く行えなくなる実行機能障害などがあります。

 

記憶障害・・・新しい物事が覚えられなくなる

見当識障害・・・今いる場所や時間が分からなくなる

失語・・・言葉を理解できなくなったり、意味がない言葉を発する

判断力障害・・・物事を正しく認識したり対処できなくなる

実行機能障害・・・物事を順序良く行えなくなる

 

周辺症状(行動・心理症状)

一方で周辺症状とは、中核症状をきっかけにして副次的に生じる行動異常や心理症状のことを言います。

 

英語でBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)と表現することもあります。

 

具体的には、行動異常では徘徊や暴言・暴力、不眠、不潔行動などがあり、心理症状では幻聴・幻覚や妄想、抑うつ、不安などの症状が現れます。

 

また、これら症状は人それぞれの性格や周りの環境、日頃の人間関係などが複合的に重なり合って起こるため、症状の出方にも個人差があります。

 

<行動>

徘徊、暴言・暴力、不眠、不潔行動

<心理>

幻聴・幻覚、妄想、抑うつ、不安

 

認知症の有病者数について

厚生労働省が2015年に発表した調査データによると、65歳以上の高齢者で認知症を発症している人は2012年時点で約462万人いることが明らかになりました。

 

加えて認知症の前段階と言われる軽度認知障害(MCI)の高齢者もおよそ400万人程度いると推計されており、これは5歳以上の高齢者の4人に1人が認知症あるいはその予備群となる計算です。

 

同調査では、2020年にはおよそ600万人、2025年には700万人の認知症発症者数が推計されるとのデータもあり、超高齢化社会に突入した日本では患者数も年々増加傾向となることは必然かもしれません。

 

また、MCI患者数に関しても認知症患者数と同程度の数がいると推計されていますが、実は診断が行われていないだけで潜在的にはもっと多くの方がいると見る専門医もいます。

 

高齢者にとっては三大疾病と共に将来心配な症状の一つでもあり、働き盛りの若い世代にとっても親世代の老後を考えるという面では一つの大きな社会問題であると言えます。

 

軽度認知障害(MCI)とは

軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)とは、認知機能の低下が起こっているものの、日常生活にはまだ大きな支障をきたしていない状態を指します。

 

MCIは、正常な加齢による認知機能の低下と認知症(例えばアルツハイマー病)の間の段階とされています。

 

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

軽度認知障害(MCI)の段階で適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

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