認知症を予防するための食事法や予防効果のある食材を解説します。極力控えた方がよいとされる食材についても紹介するので、日々の料理レシピの参考にしてみてください。
認知症予防のための食事のポイント
認知症予防に重要だとされる「食事」において、日頃から気をつけておきたいポイントを4つ挙げてみましょう。
色々な食材をバランスよく食べる
認知症に限らず、多くの生活習慣病にも当てはまりますが、肉や炭水化物ばかりといった特定の食材に偏らず、野菜・魚・豆・果物などの食材も日々の食事の中で意識しながら摂取することが大切です。
例えば、青魚やアマニ・えごま油に多く含まれるDHAやEPAなどの「オメガ3脂肪酸」や、ほうれんそうや枝豆、レバーなどに豊富に含まれる「葉酸」、野菜・果物・ナッツ類などから摂れる「ビタミンA・C・E」、ファイトケミカルと呼ばれる抗酸化作用を持つポリフェノールやカロテノイドを含んだ緑黄色野菜や赤ワイン、緑茶等となりますが、こうして見ると極端に意識した食事をしないと摂れない栄養素という訳ではないことが分かります。ビタミン・ミネラル・タンパク質・脂質・炭水化物など、栄養のバランスにさえ気をつけた食事をすれば、結果的に脳の健康を維持するための栄養素も取得できるのです。
MIND食(マインド食)を取り入れる
MIND食とは、心臓病に対する予防効果やダイエット効果が確認された地中海沿岸の国々で親しまれてきた「地中海食」と呼ばれる伝統的な食事法と、高血圧を予防する「DASH(ダッシュ)食」という、2つの優れた食事法をベースとして新たに米国で考案された「認知症の予防を目的とした」食事法です。
具体的には、10種類の食品(ナッツ類・ベリー類・豆類・玄米・全粒穀物・魚・鶏肉・オリーブオイル・ワイン)を毎日摂取し、一方で5種類の食品(赤身の肉・バター・チーズ・お菓子・ファストフード)を控えるというとてもシンプルな食事法です。
およそ1000人の健常な高齢者(平均80歳前後)を対象にした米国での大規模調査では、「DASH食」の実践度合いによってアルツハイマー型認知症の発症リスクに変化があるかを約5年間追跡しました。すると、DASH食で定義された計15種類(10種の推奨食品と5種の禁止食品)の食事ルールに対して、9つ以上達成できたグループは5つ以下しか達成できなかったグループよりも発症リスクが53%低下し、7〜8つ達成した中間グループでも5つ以下のグループより発症リスクが25%低下したとの報告がなされました。完璧に実践することが難しくても、日々の食事で緩やかに意識するだけでも効果がありそうです。
一日の摂取カロリーを意識する
2019年に発表された英国でのある大規模調査による研究結果によると、50代の中年期に「肥満(BMI評価による)」だった人は健康な体重の女性と比較して、それから15年後以降に認知症と診断されるリスクが約21%高かったということです。
肥満による高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は結果的に認知症を引き起こす要因にもなります。日頃の食事でも1日3食での合計摂取カロリーを意識するのが大切です。
低糖質・低塩分な食事を心がける
糖尿病の患者はそうでない人と比べると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが約1.5倍高く、また脳血管性認知症のリスクも約2.5倍高いと報告されています。また日本人は醤油や味噌、漬物といった発酵食品による食文化を通じて塩分を過剰摂取する傾向にあると言われています。これは体の健康を考えた場合には、高血圧による動脈硬化を招きやすく、血管性認知症のリスクを高めます。糖質・塩分を控えめにした食生活を意識することが生活習慣病、ひいては認知症予防にも繋がります。
認知症予防に効果的な食材
ここでは認知症予防に効果が期待できる6つの食材を紹介します。認知症予防のためにも日頃の食事のレシピとして取り入れてみてください。
魚
特に青魚には、オメガ3脂肪酸の代表格であるDHAやEPAが多く含まれています。DHAはアルツハイマー型認知症の原因と見られている「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質の脳内での蓄積を防いでくれると期待されています。また、EPAには悪玉コレステロールや中性脂肪を低下させて血行をよくする働きがあり、脳梗塞や動脈硬化、高血圧などを防ぐため、脳血管性認知症の予防に繋がることも期待できます。
一方で、DHA・EPA共に体内ではほとんど生成することが出来ず、食事による外部からの摂取が必要なため、自ら意識して食事に取り入れる必要があります。魚が苦手だったり、毎日の食事に取り入れることが困難だと感じる場合には、手軽にサプリメントによって摂取するということも一つの賢い方法だと言えます。
参考までに、魚の種類とそれぞれで摂取できるDHA・EPAの量がこちらです。1日の必要摂取量はDHA・EPA共に1000mgと言われています。
可食100gあたり | DHA(mg) | EPA(mg) |
---|---|---|
マグロ・とろ(生) | 3200 | 1400 |
サバ(生) | 3100 | 2200 |
サンマ(生) | 2800 | 1500 |
ブリ(生) | 1700 | 940 |
カツオ(生) | 970 | 400 |
マアジ(生) | 950 | 400 |
マイワシ(生) | 870 | 780 |
ニシン(生) | 770 | 880 |
マグロ・赤身(生) | 120 | 27 |
参考資料:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)脂肪酸成分表編」 |

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緑黄色野菜
脳は体内で一番酸素の消費量が多い臓器と言われおり、重さとしては大人でもわずか1200~1500グラム程度と体重の2~3%にも関わらず、酸素消費量は全身の約20パーセントを占めています。体を動かすためのエネルギー生成にはその酸素と食事による栄養素を燃やすことになりますが、その結果発生してしまう「活性酸素」は酸素を多く消費する脳内でも多く発生します。これが脂質と結び付くと過酸化脂質となって脳血管を傷つけたり、脳神経細胞を破壊する可能性があると言われています。
その活性酸素の発生やその働きを抑制する役割を持つのが「抗酸化物質」です。抗酸化物質として有名な栄養素が「カロテノイド」と「ポリフェノール」で、特に人参・かぼちゃ・トマト・ほうれん草といった緑黄色野菜やミカンやスイカなどの果物にはβカロテンやリコピンなどが多く含まれており、これらを総称して「カロテノイド」と呼ばれています。
大豆や大豆製品
納豆や味噌、豆腐などの大豆製品には、「大豆サポニン」や「大豆レシチン」という成分が多く含まれています。大豆サポニンにはコレステロールを低下させて高血圧や動脈硬化を予防する効果が、大豆レシチンには脂質の代謝を高めて肥満や糖尿病を予防する効果があると言われています。
高血圧や肥満といった生活習慣病は認知症発症のリスクを高めるともいわれているため、比較的日本人に馴染みのある大豆製品はぜひ意識して摂りたいところです。
コーヒー・緑茶・紅茶
国内外のいくつもの論文でコーヒー・緑茶・紅茶の認知症予防への有効性は指摘されています。緑茶や紅茶には、カテキンやテアフラビンと呼ばれるポリフェノールの一種が含まれており、コーヒーにもクロロゲン酸類と呼ばれるポリフェノールが含まれます。これらには抗酸化作用があり、活性酸素への働きかけが結果として認知機能の低下に役立っていると考えられています。ただし、カフェインの取り過ぎは睡眠の質を低下させることもあのでその点は注意が必要です。
オリーブオイル
オリーブオイルに含まれるオレイン酸は、悪玉コレステロールの濃度を下げる働きがあり、生活習慣病への効果が知られています。更に、エクストラバージンオイルには特に抗酸化作用が高いとされるオレオカンタールが含まれており、こちらはアルツハイマー型認知症を引き起こす原因とされているアミロイドβというタンパク質を脳内から減らす効果があると言われています。
赤ワイン
赤ワインには主に「アントシアニン」「リスベラトロール」「タンニン」と呼ばれるポリフェノールが含まれており、ポリフェノールの含有量としては先述のコーヒーや緑茶と比べても更に多くの量を含んでいます。フランスで行われた研究では、1日に250ml〜500ml(グラス3〜4杯)の摂取は、認知症の発症リスクを抑えるといった報告もあります。毎日この量を摂取することは一方でアルコール性認知症の発症リスクを高める可能性もあるため、適量を守りながら適度にポリフェノールを摂取するというのが良い目安かもしれません。
摂りすぎに注意したい食材
認知症予防が期待できる食材がある一方で、リスクを高める可能性がある食材もあります。以下は、認知症予防のために控えめに摂取するのがよい食材です。
- ファーストフード
- スナック菓子、ケーキ類、マーガリン、ショートニング
- 肉類、バター
ファーストフードやスナック菓子などトランス脂肪酸を多く含む食材の過剰摂取は、血中の悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を引き起こす原因となり、結果的に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を発症しやすくなります。肉の脂身やバターもトランス脂肪酸を多く含んでおり、こちらも過剰な摂取は、血中の悪玉コレステロールを上昇・善玉コレステロールを低下させるため、認知症予防を踏まえると過剰な摂取は気をつけた方が良いと言えます。
認知症予防のために食生活を充実させましょう
認知症予防のための食事法や食材を解説しました。認知症を予防するためには、食材をバランス良く食べることが大切です。認知症のリスクを高める食材についても紹介しましたので、参考にした上で食材を取捨選択し、カロリーや糖分、塩分などの摂取量にも注意しながら日々の献立を考えましょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。