WHO認知症予防ガイドラインとは。 認知症予防に役立つ情報をまとめて解説

WHO(世界保健機関)では、2019年に認知症予防ガイドラインを発表しました。

 

このガイドラインには認知症予防に役立つ情報がたくさん掲載されています。

 

また、認知症予防効果があるとは断言できない情報についても紹介されており、認知症予防を目指す方が知っておくべき内容を簡潔にまとめましたので、ぜひご覧ください。

 

 

アイキャッチ

 

 

WHOの認知症予防ガイドラインとは

日本では高齢化が進むとともに認知症患者が増え続けていて、厚生労働省では2025年には65歳以上の高齢者のうち5人に1人は認知症を発症すると試算しています。

 

認知症患者が増えているのは日本だけではありません。世界中でも認知症が問題になっており、約5,000万人の生活に影響を与えていると言われています。

 

高まる認知症への不安の中、WHOでは、2019年に認知症予防ガイドラインを作成し、どのような行動が認知症予防につながるのか、また認知症予防への効果を認めるにはエビデンス不足と言える要素についてまとめました。

 

正式名称は「認知機能低下および認知症のリスク低減〔Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia〕 WHOガイドライン」で、医療関係者や行政だけでなく、認知症患者や認知症を予防したい方すべてが利用できるようにWEBで無料公開されています。

 

「認知機能低下および認知症のリスク低減」のためのガイドラインとして日本語訳

日本では、厚生労働省老人保健健康増進等事業の中で、WHO認知症予防ガイドラインの邦訳検討委員会を設置し、多くの人々が日本語で読めるように翻訳しています。

 

また、翻訳したものを無料公開し、医療従事者や介護従事者、認知症の方や健常者の方を含めすべての方々が閲覧できるようになっています。

 

WHOでは、このガイドラインが世界中で活用されることを期待していますが、もちろん、それぞれの国や地域の文化的・社会的な状況に合わせて適用することが必要です。

 

とりわけ食習慣においては、文化的・社会的に慣れ親しんだ食事も考慮し、取り入れやすい方法で実践していくようにしなくてはいけません。

 

12項目についてエビデンスを検証し推奨レベルを解説

WHO認知症予防ガイドラインでは、以下の12の項目に分け、それぞれについて一般的に「認知症予防に良い」と言われている事柄のエビデンスを検証し、推奨レベルを紹介しています。

 

<WHO認知症予防ガイドラインの12の項目>

  • 身体活動
  • 禁煙
  • 栄養
  • アルコール
  • 認知的介入
  • 社会活動
  • 体重管理
  • 高血圧の管理
  • 糖尿病の管理
  • 脂質異常症の管理
  • うつ病への対応
  • 難聴の管理

 

推奨レベルが高い事柄については、認知症予防を目指すすべての人が可能な限り実践するほうが良いでしょう。

 

WHOの認知症予防ガイドラインの12項目

では、WHO認知症予防ガイドラインで紹介している12の項目について見ていきましょう。

推奨レベルが高いアクションは、できる限り実践するように心がけてください。

 

1.身体活動(推奨レベル:強)

身体活動は、認知機能に問題がない人が認知機能の低下を予防するために高いレベルで推奨されています。

ここでいう身体活動とは、日常生活や仕事、家事、ゲーム、スポーツ、徒歩、自転車などによる移動などを含む身体を動かすことすべてを指しています。

 

具体的には、1週間あたり150分の中強度の有酸素運動もしくは75分の高強度の有酸素運動、週2回以上の筋力トレーニングを含むことが望ましいとされています。

なお、有酸素運動は、1回につき少なくとも10分以上続けることも大切です

 

ただし、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の人に関しては、身体活動は認知機能の低下予防につながるかどうかのエビデンスの質は低く、推奨するレベルにはないと判断されています。

とはいえ、健康増進のためにも身体活動は欠かせないので、無理のない範囲で運動を続けるようにしましょう。

 

2.禁煙(推奨レベル:強)

禁煙は、認知機能の低下と認知症発症リスクを低減する可能性があり、WHO認知症予防ガイドラインでも推奨されています

 

また、健康増進が望めるだけでなく、あらゆる側面において喫煙よりも有益なため、すぐにでも禁煙を実行することが望ましいです。

 

3.栄養的介入(推奨レベル:強)

健康的でバランスの取れた食事は、認知症予防も含め健康増進活動においても推奨されています。

なお、健康的でバランスの取れた食事とは、1日あたり最低400gの野菜と果物を含み、糖類と脂肪類を抑え、食塩を1日5g未満に控えた食事のことです。

 

一方、認知症予防のためにビタミンBやE、多価不飽和脂肪、複合サプリメントを服用することは、エビデンスが不足しており、推奨されてはいません

サプリメントではなく食事から栄養素を摂取するようにしましょう。

 

4.アルコールの使用障害への介入(推奨レベル:条件による)

認知機能が正常な人や軽度認知障害(MCI)の人のアルコールの飲用は、認知機能の低下や認知症発症リスクの低減につながるとは断言できません。

ただし、過度のアルコール摂取が心身に良い影響を及ぼさないことは明らかなので、普段から飲用習慣がある方は一度医師に相談してみましょう。

 

なお、軽度認知障害とは認知症と健常な状態の中間の状態で、認知機能の低下が見られることがあります。

軽度認知障害から認知症に進むこともありますが、適切な治療や対応によって健常な状態に回復したり、認知症の発症が遅くなったりすることもあります。

 

5.認知的介入(推奨レベル:条件による)

認知機能が正常な人や軽度認知障害の人が認知トレーニングを行うことは、かならずしも認知機能の低下や認知症発症リスクの低減につながるとは限りません。

 

WHOでは認知トレーニングのエビデンスがまだ充分ではないと判断されており、条件によっては推奨されることがありますが、すべての人に当てはまるとは言えないと結論付けられています。

 

6.社会活動(推奨レベル:支援されるべき)

地域活動や家族との関わりといった社会的な活動が、認知機能の低下や認知症発症リスクの低減に有意な影響を及ぼすというエビデンスはありません。

 

しかし、社会活動を通して社会に参加することは、人の幸福や健康と密接な関係があるため、認知症の予防とは関係なく一生涯にわたって支援されるべきと判断されています。

 

7.体重管理(推奨レベル:条件による)

条件によっては、肥満回避のための体重管理は、認知機能の低下や認知症発症リスクの低減のために実行しても良いとWHOでは判断されています。

 

しかし、日本では肥満というよりも痩せすぎが気になる高齢者も少なくありません。

痩せすぎは認知症発症の危険因子であるという研究結果もあるため、必要以上に体重を落とさないことも大切です。

 

8.高血圧の管理(推奨レベル:条件による)

高血圧の管理は高血圧症の患者には行う必要がありますが、認知機能の低下や認知症発症リスクの低減にかならずしもつながるとは言えません。

 

とはいえ、健康維持のためには高血圧症を予防することが有用です。健康的な食事と健康的な体重の維持に努め、高血圧の予防に努めましょう。

 

9.糖尿病の管理(推奨レベル:条件による)

糖質の管理も糖尿病患者には不可欠ですが、認知機能の低下や認知症発症リスクの低減につながるとは断言されていません。

 

認知症予防とは関係なく、健康維持のためにも健康な食事と生活習慣を心がけ、糖尿病の予防に努めましょう。

 

10.脂質異常症の管理(推奨レベル:条件による)

脂質異常症のある成人においては、条件によっては、脂質異常症の管理が認知機能の低下と認知症発症リスクの低減につながることがあります。

 

具体的には体重を健康な水準に落とし、食事中の飽和脂肪酸を減らすことが推奨されています。

 

11.うつ病への対応(エビデンスが不十分)

うつ病と認知症、軽度認知障害の関係についての研究は多数実施されています。

 

しかし、抗うつ薬が認知機能の低下や認知症発症リスクの低減につながることを示すエビデンスは不十分のため、抗うつ薬は認知症予防のためではなくうつ病治療のために用いられるべきと言われています。

 

12.難聴の管理(エビデンスが不十分)

難聴を発症すると社会活動に影響を及ぼし、幸福感を減退させる可能性があります。

また、難聴が認知機能の低下や認知症発症リスクの増加に影響を及ぼすという研究結果もあります。

 

しかし、補聴器をつけることで認知機能の低下や認知症発症リスクの低減を目指せることを示すエビデンスは不十分です。

認知症予防とは関係なく、難聴であることを正確に診断した後で補聴器をつけることが望ましいと言えるでしょう。

 

認知機能の変化を早期に察知して予防につなげる

認知機能の衰えを早期に察知することで、認知症の予防につながることがあります。

早期に察知することが望ましい理由と、早期察知の方法について見ていきましょう。

 

早期発見が必要な理由

認知機能は徐々に低下していきます。

認知症を発症する前段階を軽度認知障害と呼びますが、軽度認知障害の時点で気付き、適切な治療や日常生活の改善を行うことで、認知症の発症を回避したり遅らせたりできることもあります。

 

一旦認知症を発症すると、脳梗塞などの特定の原因による認知症でない限り、完治は見込めません。

認知症になる前の段階で気付き、適切な介入を行うようにしましょう。

日々の生活の見直しと早めの認知症対策をしましょう

WHOのガイドラインでは、認知症予防に身体活動や禁煙、バランスの良い食事が強く推奨されています。

いずれもすぐに改善できる内容なので、ぜひ日常生活に取り入れて、認知症予防を目指して頂ければと思います。

 

また、認知機能の衰えを早期に察知することでも、認知症予防につなげることができます。ご自身の今の状態を定期的に把握しておきましょう。

 

※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。

『認知機能セルフチェッカー』は「自分ひとりで、早く、簡単に」をコンセプトに認知機能低下のリスク評価ができるヘルスケアサービスです。40代以上の健康な方たちを対象に、これまでにない新しい認知機能検査サービスを提供しています。お近くの医療機関でぜひご体験ください。

-認知症予防について

関連記事

アイキャッチ
認知症の進行は予防できる? 発症する前にしておくことや、遅らせる方法を解説

2025年には、65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症患者になると予想されている中、認知症発症後に病状の進行を予防できるのかという点が気になる方も多いのではないでしょうか。   認知症 ...

学会
日本認知症予防学会とは? 活動内容や認知症予防に個人ができることを解説

日本には認知症予防に関する学会がいくつかありますが、どのような活動を行っているのでしょうか。   65歳以上の方の約6人に1人が認知症を発症し、認知症予備軍と呼ばれる軽度認知障害の方も400 ...