「知人の名前が思い出せない」
「待ち合わせ場所を忘れる」
物忘れは、年齢に関係なく誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。
しかし、高齢になると物忘れが顕著になる傾向があり、認知症の前段階である「軽度認知障害」や、認知症の発症に疑いが懸念されます。
そのため、自分自身や周囲の人々の健康年齢を維持するために、物忘れへの対処が重要です。
物忘れの主な原因とされるのは、現代社会特有の「ストレス」です。
本記事では、物忘れとストレスの関係、そしてストレスによる物忘れへの対処法について詳しく解説します。
物忘れとは
物忘れとは、日常的な物事や情報を忘れる記憶障害の一種です。
外出時に財布や携帯電話などの私物を忘れる、よく行く道で迷うなどの症状が含まれます。
物忘れは年齢に関係なく起こり得ますが、高齢になるほどその発生率は高くなる傾向があります。
認知症とは異なり、物忘れは日常生活に大きな支障をきたすことは少ないとされています。
ハーバード大学医学大学院の研究によると、物忘れの主要な原因として、ストレス、うつ病、睡眠不足、不安感が挙げられています。
以下では、ストレスと物忘れの関係に焦点を当てて説明します。
出典:Memory Problems, Forgetfulness, and Aging
出典:The four horsemen of forgetfulness
ストレスと物忘れの関係
ストレスと物忘れには因果関係があることが多数の研究で報告されています。
ストレスが継続すると、集中力の低下が起こり、新しい情報やスキルの習得が難しくなると考えられています。
このストレスによる能力の低下が、物忘れの原因となることがあります。
さらに、ストレスが長期にわたるほど、物忘れが起こりやすくなり、全体的な認知機能の低下にも関連していることが研究で示されています。
例えば、適応障害、急性ストレス障害(ASD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、慢性的なストレス状態にある患者には、これらの症状がよく見られると言われています。
出典:Association of Stress With Cognitive Function Among Older Black and White US Adults
ストレスによる物忘れの対処法
ストレスが要因の物忘れは、ストレスへの対処法を意識的に取り入れることで効果的に改善できると言われています。
ストレスによる物忘れに対する対処法として、以下の方法を試してみてはいかがでしょうか。
1.ストレスの原因を把握する
まず、自身のストレスにおける原因を把握することが大切です。
自分自身の経験や感情を言語化し、どのようなことがストレスの原因となっているのかを自己理解を通して深めることが重要です。
この際に、周囲の人々や家族に相談しながら、自分自身を客観的に見ることも有効です。
ストレスの原因が明確になれば、その原因に対する具体的な対処法を検討することが可能になります。
例えば、ストレスの原因がどこから派生した事象なのか、どのような感情を抱いているのか等を言葉にして分析してみることをお薦めします。
2.十分な睡眠を確保する
睡眠不足は、物忘れをしやすくなるだけでなく、ストレスをより感じやすくなると考えられています。
十分な睡眠時間は人それぞれ異なりますが、一般的には7~8時間とされています。
もし夜間に十分な睡眠時間を確保できなかった場合、昼寝や仮眠を取ることで、一時的に脳を回復させることができるとされています。
ただし、昼寝や仮眠は1時間未満が望ましいとされています。この時間を超過すると、睡眠バランスが不安定になる可能性があり、結果として夜間に眠りにくくなる恐れがあるとされています。
3.日光を浴びる機会を増やす
日光を浴びる機会を増やすことはストレス解消に効果的な方法の一つとされています。
日光にあたることで、「セロトニン」と「ビタミンD」が体内で増加し、ストレスを軽減する効果があることが研究で示されています。
セロトニンは幸せホルモンとしても知られており、ビタミンDは全体的な健康維持に重要な役割を果たします。
さらに、起床直後に日光を浴びることは体内時計をリセットし、スッキリとした目覚めが期待できる効果があると言われています。
4.瞑想をする
瞑想とは、心と身体を落ち着かせて「今」に集中する訓練を指します。
日常生活で経験するネガティブな出来事や不安に起因するストレスを感じている人々には特に効果的であるとされています。
また、瞑想はリラクゼーション効果が高く、ストレスの軽減と記憶力の向上に対する有効性が示されています。
実践方法は多様ですが、一般的な方法としてはリラックスした姿勢で座り、ゆっくりと呼吸を繰り返すことです。
このとき、呼吸に集中し、お腹の膨らみや体の感覚に意識を向けて行います。
5.自己流でストレスを発散する
ストレスの解消法は、人によってその方法、効果の程度は異なるとされていますが、以下のストレス解消法を参考にして、自分に合った方法を見つけましょう。
・趣味に時間を費やす
・自分の感情を日記に綴る
・友人や家族との交流
・外出や旅行を楽しむ
・部屋を整理整頓する
これらの方法を試して、自分に合ったストレス解消法を試してみてください。
逆効果なストレス対処法
一部の解消法は効果を一時的に発揮することがありますが、ストレスの対処法としては逆効果とされています。
・過度な飲酒
・過度な買い物
・喫煙
・暴飲暴食
これらは、長期的に見ると、自分自身の健康問題や財政的な問題を引き起こすだけでなく、家族や周囲の人たちを問題に巻き込む可能性もあるといえるでしょう。
これらを解消法とするのはできるだけ避け、より健康的な方法に重点を置くことが重要です。
重度な物忘れの症状
どの年齢においても、軽度な物忘れは誰にでも経験し得る通常の状態とされていますが、重度な場合は日常生活に支障をきたす可能性があるとされています。
重度な物忘れの症状としては、以下のようなものがあります。
・同じ質問を何度も繰り返す
・よく知っている場所で道に迷う
・レシピや指示に従うのが難しい
・時間、人、場所などの情報に混乱する
・食事や入浴などの自己管理ができない
これらに似た症状が見られる場合、認知症などの認知機能の低下リスクが潜んでいる可能性があるため注意が必要です。
出典:Memory Problems, Forgetfulness, and Aging
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
重度な物忘れは認知症のサインである可能性があるとされています。
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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認知症はMCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。