年齢を重ねるにつれて物忘れが増えると、自分の脳に何か問題が起こっているではないか、あるいは認知症ではないかと心配になったことはありませんか?
物忘れが増えることは加齢の一般的な過程ですが、重大な記憶力の低下は正常な老化の一部ではないとされています。
この記事では、物忘れの自己チェック方法を紹介し、物忘れと関連する病気やその対策についても詳しく解説します。
物忘れとは
物忘れとは、日常生活の中で以前は覚えていた情報を思い出せなくなる現象を指します。
これは、加齢に伴う自然な現象としても知られており、多くの人が経験することです。
物忘れの症状には、特定の人や場所の名前を忘れること、言葉を思い出すのに時間がかかること、日常の会話で曖昧な表現が増えることなどが含まれます。これらの症状が頻繁に見られる場合は、医師に相談することが推奨されます。
重大な記憶障害が発生する場合、単なる加齢によるものではなく、認知症や軽度認知障害(MCI)などの疾患が原因である可能性があるとされています。その他の原因として、うつ病、ストレス、睡眠不足、脳外傷、薬物の副作用、アルコールの過剰摂取などが挙げられます。
物忘れは加齢とともに避けられない現象ではありますが、早期に適切な対策を講じることで、生活の質を維持することが可能です。症状が進行する場合は、専門医の診断を受けることが重要です。
物忘れの自己チェックシート
物忘れが気になる方のために、自分で簡単に診断できる自己チェックシートをご紹介します。
以下のチェックシートは、日常的な物忘れのパターンを評価するために設計されています。
当てはまる項目を数え、自分の記憶力の状態を確認してみましょう。
【物忘れの自己チェックリスト】
1. 最近、曜日を忘れることが増えた。
2. 探し物をしている途中で、何を探しているのか忘れることがある。
3. 家族や友人から、以前よりも物忘れが多いと言われる。
4. 友人の名前を思い出せないことがある。
5. 二桁の数字を足すときに、書かないとできない。
6. 約束を忘れてしまうことが頻繁にある。
7. 気力がないと感じることが多い。
8. 小さな問題に過度に悩むことが増えた。
9. 一時間も集中するのが難しい。
10. 鍵をよくなくし、見つけてもどこに置いたか思い出せないことがある。
11. 同じことを何度も繰り返して話すことがある。
12. 知っている場所でも迷ってしまうことがある。
13. 話の要点を忘れてしまうことがある。
14. 集中力を持続するためにカフェインに頼ることが多い。
15. 新しいことを学ぶのに以前よりも時間がかかる。
出典:Alzheimer’s Research & Prevention Foundation
このチェックリストで当てはまる項目が5~8個であれば、あなたの脳は比較的良好に機能していると考えられます。健康的な生活を維持することで、認知機能のさらなる向上が期待できます。
当てはまる項目が9~12個の場合、脳の機能が危険な状態にある可能性があります。食生活や運動などの生活習慣を見直し、ビタミン、脳に良い食べ物、場合によっては適切な薬物療法を取り入れ、脳の負担を軽減することが推奨されます。
当てはまる項目が12~15個の場合、脳の機能がかなり低下していると思われます。この場合、軽度認知障害や認知症を発症している可能性があるため、医師の診察を受けることが強く推奨されます。非薬物療法だけではなく、薬物療法を活用して、さらなる記憶力の低下を防ぐ必要があるかもしれません。
物忘れが気になる方のために、他にも東京都福祉局が提供する「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」も有効です。これは高齢者やその家族向けに設計されており、日常生活の中での物忘れや混乱の程度を評価します。
詳細はこちらをご覧ください。
これらのチェックリストはあくまで自己診断のためのものであり、物忘れの症状が気になる場合は専門医やかかりつけ医に相談することが重要です。物忘れの早期の診断と治療が、生活の質を維持するためには不可欠です。自分の認知機能の状態を把握し、必要な対策を講じることで、健康な脳を保ちましょう。
物忘れと関係のある病気と状態
物忘れには加齢による自然な現象と、病気による症状の二種類があります。
ここでは、物忘れの症状がある病気や、関係のある状態について解説します。
認知症
認知症は、記憶力や他の認知機能が徐々に低下する進行性の疾患です。
認知症の中でも最も一般的なタイプはアルツハイマー型認知症で、これは全認知症ケースの60-80%を占めます。
認知症は通常、初期には軽度の記憶喪失として現れますが、次第に日常生活のさまざまな側面に影響を与えます。
例えば、物を置き忘れる、知っている道で迷子になる、日常的な会話で言葉を思い出せなくなるなどの症状があります。
進行すると、食事や入浴などの基本的な日常活動も困難になります。
生活習慣病
生活習慣病も物忘れの一因となります。
特に、過度なアルコール摂取や不健康な食生活は脳に悪影響を及ぼします。
長期間にわたる過度の飲酒はアルコール関連脳障害(ARBD)を引き起こし、神経細胞の損傷やビタミンB1(チアミン)不足による記憶力の低下を招くことが知られています。
また、栄養バランスの悪い食事も脳機能に影響を与え、記憶力の低下を引き起こします。
甲状腺、腎臓、肝臓の病気
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの不足により代謝が低下し、記憶力や集中力の低下を引き起こします。
腎臓や肝臓の病気も同様に、体内の毒素が十分に排出されないことで脳機能に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、慢性腎臓病は尿毒症を引き起こし、これが脳にダメージを与え記憶力の低下を招くことがあります。
更年期
更年期におけるホルモンの変動は、記憶力や集中力に影響を与えることがあります。
エストロゲンの減少は脳機能の低下に関与しており、更年期の女性において物忘れの原因となることがあります。
この時期の物忘れは、一時的なものである場合が多く、ホルモン補充療法などの対策が有効であるとされています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
睡眠障害
睡眠不足や不規則な睡眠パターンは、記憶の形成や情報の整理を妨げることがあります。
睡眠中、脳は情報を整理し、記憶を強化するため、質の良い睡眠が不可欠です。
慢性的な睡眠不足は、短期記憶や長期記憶の双方に悪影響を及ぼし、日常生活での物忘れが増える原因となります。
精神疾患
うつ病や不安障害も物忘れの原因となることがあります。
これらの精神疾患は、脳内の神経伝達物質のバランスを崩し、集中力や記憶力の低下を引き起こします。
例えば、うつ病患者の約60%が何らかの形で記憶障害を経験するとされています。
精神疾患による物忘れは、治療を受けることで改善する可能性が高いです。
詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
脳の外損傷、脳震盪など
外傷性脳損傷(TBI)は、交通事故、転倒、スポーツによる衝撃などが原因で発生します。
TBIは脳の構造的な損傷を引き起こし、記憶力や認知機能の低下を招きます。
特に、複数回の軽度の脳震盪が繰り返されると、慢性的な神経変性を引き起こすことが知られています。
ストレス
慢性的なストレスは、脳の記憶に関与する領域に悪影響を与えます。
ストレスホルモンであるコルチゾールの過剰分泌は、記憶の形成や取り出しに影響を与え、情報を忘れやすくなります。
また、ストレスが高まると注意力が散漫になり、新しい情報を効果的に記憶することが難しくなります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
物忘れの対策
物忘れを予防・改善するためには、生活習慣の改善、ストレスの緩和、持病の管理、そして定期的な医療機関での認知機能チェックが重要です。
以下に、これらの対策について詳しく説明します。
生活習慣の改善
生活習慣を見直すことは、記憶力の維持・向上に非常に効果的です。適切な食事、十分な睡眠、そして定期的な運動は、脳の健康を保つために欠かせません。
まず、食事についてですが、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。特に、抗酸化物質を含む果物や野菜、オメガ3脂肪酸を含む魚、そして全粒穀物は、脳の健康を促進する効果があります。例えば、地中海式食事法が認知症予防に効果的であるとされています。また、アルコールの摂取は適度に抑え、過度の飲酒は避けるようにしましょう 。
睡眠については、7〜8時間の質の良い睡眠が推奨されています。睡眠不足は記憶力の低下を招くだけでなく、全体的な認知機能にも悪影響を及ぼす可能性があります 。
運動に関しては、定期的な身体活動が脳の血流を促進し、新しい神経細胞の生成を助けるとされています。特に有酸素運動は、脳の健康維持に効果的です。例えば、週に3回以上の適度な運動が推奨されています。
出典:National Institute on Aging: Memory Problems, Forgetfulness, and Aging
ストレスの緩和
ストレスは、記憶力に対して大きな影響を与える要因の一つです。
慢性的なストレスは、記憶力や認知機能に悪影響を及ぼすことが研究で示されています。
ストレスを緩和するための方法としては、瞑想や深呼吸、趣味に没頭する時間を作ることが効果的です。また、友人や家族との交流も、ストレスを軽減し、心の健康を保つのに役立ちます 。
自分に合った方法で、ストレスを発散することを心がけましょう。
持病の管理
持病の管理も、記憶力を維持するために重要です。
例えば、高血圧や糖尿病は、放置すると脳に悪影響を及ぼす可能性があります。
定期的な医療チェックを受け、持病がある場合は適切な治療を行うことが必要です。
また、薬の副作用として記憶力が低下する場合もあるため、服用している薬について医師と相談することも大切です 。
定期的に医療機関で認知機能をチェック
定期的に医療機関で認知機能をチェックすることは、物忘れや認知症の早期発見に繋がります。
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の兆候が見られる場合、早めに医師に相談することが推奨されています。
🔰 認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、「認知機能セルフチェッカー」を導入している医療機関リストからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
まとめ
これまで、物忘れのチェックリストの紹介とその症状について詳しく解説しましたが、いかがでしょうか。
物忘れは多岐にわたる疾患と関与していますが、適切な対策を持続的に講じることで、症状を和らげることが可能とされています。
日常生活の中で少しでも気になる物忘れの症状がある場合は、紹介したチェックリストを活用し、早期に医師の診断を受けることが重要です。また、生活習慣の改善やストレス管理、定期的な医療機関での認知機能チェックを怠らないようにしましょう。
これらの対策を実行することで、物忘れの進行を遅らせ、健康な脳を維持することが期待できます。
ぜひ物忘れの対策を実行してみてください。