物忘れとは、記憶した出来事や情報を一時的または恒久的に思い出せなくなる状態を指します。
加齢に伴う自然な現象であることが多い一方で、認知症などの根治が難しい疾患の可能性もあります。特に頻度が増えたり、日常生活に支障をきたす場合は、注意が必要です。
本記事では、若年層、中年層、高齢層に分けて物忘れと関連する病気について解説します。
物忘れが気になる場合は、かかりつけ医や物忘れ外来など、医療機関に相談することが重要です。
激しい物忘れは病気?
物忘れは誰もが経験する現象ですが、頻度が増したり、他人と比べて明らかにひどい場合、病気の可能性があります。
例えば、日常生活に支障をきたすほどの物忘れが頻発する場合、それは単なる加齢によるものではなく、医療的な介入が必要な状態かもしれません。認知症はその代表例であり、早期に診断し治療することが重要です。また、物忘れの原因には、ストレス、うつ病、睡眠不足、薬の副作用なども含まれます。
これらの要因は、適切な治療を受けることで改善されることが多いです。頻繁な物忘れが生活の質を低下させている場合は、専門医に相談することが推奨されます。
出典:National Institute on Aging: Memory Problems, Forgetfulness, and Aging
出典:Harvard Health Publishing: 7 Common Causes of Forgetfulness
物忘れと関連性が高い病気
物忘れと関連性が高い病気には、認知症、うつ病、睡眠障害、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症などがあります。
認知症は特に高齢者に多く見られ、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症などの種類があります。うつ病や睡眠障害は若年層や中年層に多く、これらの症状が物忘れを引き起こすことがあります。甲状腺機能低下症やビタミンB12の欠乏は、中年層に多く見られる原因で、適切な治療を受けることで改善が期待できます。
次に、年齢別に物忘れと関連性が高い病気について詳しく見ていきましょう。
【若年層】10代、20代、30代の若者における物忘れの病気
10代、20代、30代の若者にとって、物忘れは珍しい現象ではありません。特に現代社会においては、学業、仕事、家庭など多くのプレッシャーがあり、その結果として物忘れが頻繁に起こることがあります。
若年層における物忘れは、多くの場合、一時的なものであり、生活習慣の改善やストレス管理によって改善されることが多いですが、一部のケースでは潜在的な病気が原因である可能性もあります。
10代、20代、30代の若者における物忘れの原因には、以下のようなものがあります。
・ストレス
・睡眠不足
・ネット依存
・栄養不足
・過剰な飲酒
若年層における物忘れは、単なる生活習慣や一時的なストレスが原因であることが多いですが、以下のような病気が潜んでいる可能性もあります。うつ病は、集中力の低下や物忘れが症状として現れることがあります。持続的な悲しみや無気力感を伴う場合は、専門医に相談することが推奨されます。
また、睡眠不足や不規則な睡眠は、記憶力に直接影響を与えることがあり、特に慢性的な睡眠不足は、認知機能全般に悪影響を及ぼします。甲状腺機能低下症も全身の活力を低下させるだけでなく、記憶力にも影響を与えることがあり、血液検査で簡単に診断できます。さらに、ビタミンB12の不足も記憶力に影響を与えることがあり、バランスの取れた食事が重要です。
そして、若者がなりやすいネット依存は、集中力を奪い、注意力を散漫にするため、重要な情報を記憶に留めることが難しくなります。
このように、若年層における物忘れは多くの場合一時的なものですが、ストレスや睡眠不足、栄養不足などの生活習慣が大きく影響しています。
【中年層】40代、50代の中年における物忘れの病気
40代、50代の中年層においても物忘れは一般的な現象ですが、その原因や特徴は若年層とは異なることがあります。中年層は仕事や家庭、健康の問題など多くのプレッシャーにさらされるため、これらの要因が記憶力に影響を与えることがあります。物忘れが日常生活に影響を与えるようになった場合は、潜在的な健康問題を考慮し、適切な対応をとることが重要です。
40代、50代の中年層における物忘れの原因には、以下のようなものがあります。
・ストレス
・睡眠不足
・ホルモンバランスの変化(特に更年期を迎える女性)
・健康管理の怠り
・薬の副作用(高血圧や高コレステロールの治療薬など)
中年層における物忘れは、以下のような病気と関連している可能性があります。まず、更年期障害です。特に女性は40代後半から50代にかけて、更年期を迎えることでエストロゲンなどのホルモンバランスが大きく変化します。このホルモンバランスの変動が、記憶力に影響を与えることがあります。更年期障害の症状として、ホットフラッシュや不眠、気分の変動があり、これらが間接的に物忘れを引き起こすと言われています。
次に、高血圧です。高血圧は脳の血流を減少させることがあり、これが記憶力の低下を招く可能性があります。特に長期間にわたる高血圧は、脳へのダメージを蓄積し、物忘れや認知機能の低下を引き起こすことが知られています。適切な血圧管理が重要です。
また、糖尿病も中年層の物忘れに関連しています。糖尿病は血糖値のコントロールが不十分な場合、神経系に影響を与えることがあります。特に長期間の高血糖は、脳の機能に悪影響を及ぼし、記憶力の低下を引き起こす可能性があるとされています。糖尿病の管理と適切な治療が必要です。
最後に、慢性的なストレスやうつ病も中年層の物忘れの原因となり得ます。中年層は仕事や家庭のプレッシャーが増し、それに伴うストレスが記憶力に悪影響を与えることがあります。持続的なストレスや気分の落ち込みがある場合は、専門家のサポートを受けることが重要です。
中年層における物忘れは、生活習慣や健康状態の影響を大きく受けるため、日常生活の見直しや健康管理が非常に重要です。物忘れが頻繁に発生し、生活に支障をきたす場合は、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが必要です。生活習慣の改善と医療的な介入により、記憶力の改善が期待でき、中年期の健康維持にもつながります。
【高齢層】60代以上の高齢者における物忘れの病気
60代以上の高齢者における物忘れは、一般的な加齢現象であることが多いですが、認知症のリスクが高まることも事実です。高齢者の場合、物忘れが頻繁に発生し、日常生活に支障をきたすようになると、認知症の初期症状である可能性が高くなります。早期発見と適切な対応が、生活の質を維持するために重要です。
60代以上の高齢者における物忘れの特徴には、以下のようなものがあります。
・短期記憶の障害
・空間認識の低下(道に迷ったり、よく知っている場所で混乱する)
・時間感覚の乱れ
・日常生活の困難(料理や買い物、掃除など)
・言語障害
高齢者における物忘れは、以下のような病気と関連している可能性があります。
まず、認知症です。認知症は60代以上の高齢者において特にリスクが高く、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症などの種類があります。認知症は進行性の病気であり、初期段階では軽度の物忘れとして現れることが多いです。例えば、家族との会話を思い出せない、重要な予定を忘れてしまうなどの症状が見られます。早期に専門医を受診し、診断を受けることで、進行を遅らせるための治療が可能になります。
次に、軽度認知障害(MCI)です。MCIは認知症の前段階とされ、記憶力の低下が見られるものの、日常生活にはまだ大きな支障をきたさない状態です。しかし、MCIの段階で適切な介入を行うことで、認知症への進行を防ぐことができます。定期的な医療チェックと健康管理が重要です。
また、うつ病や不安障害も高齢者の物忘れの原因となり得ます。これらの精神的健康問題は、記憶力に直接的な影響を与え、物忘れを引き起こすことがあります。高齢者は孤独感や社会的な孤立感を感じやすく、これがうつ病や不安障害の引き金となることがあります。心理的なサポートやカウンセリングが有効とされています。
さらに、慢性的な健康問題も物忘れの原因となります。例えば、高血圧や糖尿病、心臓病などの慢性的な疾患は、脳への血流を減少させ、記憶力の低下を招くことがあるようです。これらの健康問題を適切に管理することで、物忘れの進行を抑えることが可能だと考えられています。
高齢者における物忘れは、認知症のリスクが高まるため、早期発見と適切な対応が重要です。物忘れが頻繁に発生し、生活に支障をきたす場合は、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが必要です。定期的な健康診断や生活習慣の改善を通じて、記憶力の維持と高齢期の生活の質の向上を目指しましょう。
激しい物忘れや軽度認知障害、認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。