高齢者が転倒を繰り返すのはなぜ?認知症になると転倒しやすくなる?原因や予防対策について解説

高齢者の方の中には、最近つまずいたり、転んだりすることが増えて、認知症との関係が気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

結論から述べると、認知症の患者の方は、健常な高齢者と比べて転倒しやすいといわれています

 

この記事では、なぜ転倒しやすいのか、そして、予防のための対策について解説します。

ご自身やご家族が認知症を発症したときに備えて今からできることについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

 

転倒

 

 

認知症の方が転倒しやすい理由

一般的に、認知症の方は、認知症ではない高齢の方よりも転倒しやすいと言われています。

その理由としては、次の4つが挙げられます。

 

  • 歩行、バランス能力を含めた運動機能の低下
  • 認知機能の低下
  • 焦燥や妄想、幻覚
  • 薬物による副作用

 

歩行、バランス能力を含めた運動機能の低下

認知症には一般的によく知られているアルツハイマー認知症以外にもさまざまな種類があり、それぞれ原因や特徴が異なります。

しかし、いくつかの部分に関しては類似点もあり、運動機能の低下については、さまざまな認知症に共通する特徴です。

 

例えば、認知症の中でも患者数が多いアルツハイマー型認知症に罹患すると、運動障害が生じ、スムーズな歩行が難しくなることがあります。

 

また、非アルツハイマー型認知症の中にも、歩行障害やバランス能力の低下などが発現し、転倒を引き起こすことがあります。

 

認知機能の低下

認知症は認知機能が低下する病気です。

例えば、認知機能の中でも記憶力に障害が起こると、今まで経験したことを忘れてしまい、長らく生活する同じ場所の段差等で、転倒を繰り返すこともあるといわれています。

 

また、見当識障害が発生すると、場所の感覚を捉えることが困難になります。

段差の急な階段にも関わらず、足をあまり上げずに転んでしまったり、坂があることに気付かずによろめいたりするケースも報告されています。

ケガや病気で歩行できない状態であることを忘れて、無理な歩行により転倒を招くこともあります。

 

焦燥や妄想、幻覚

認知症を発症すると、運動機能や認知機能だけでなく心理状態にも変化が表れます。

認知症患者の方によくある心理として「不安」が挙げられるでしょう。

 

具体的に何が不安というよりは、漠然としたもので、気持ちが落ち着かず焦燥感を覚えることもあるといわれています。

そのような心理状態で行動すると、周囲への注意が疎かになることで転倒につながることがあるようです。

 

また、”妄想”を現実と思い込むことも認知症特有の症状といわれています。

レビー小体型認知症などでは幻覚が見られたりすることもあると言われており、

認知錯誤を起こして転倒したり、視界に存在しないはずの人が見えてしまうようなことで、驚いて転倒したりすることもあるようです。

 

薬物による副作用

認知症の治療のために服用する薬物の副作用で、転倒しやすくなることもあるようです。

 

例えば、心理的な不安を強く訴える患者さんに抗不安薬が処方されることがありますが、眠気やふらつきなどの副作用を生じることもあり、転倒につながる可能性があります。

 

認知症以外の疾患を抱えている場合は、さらに薬剤が増え、副作用が見られるケースも増える可能性があります。

例えば高血圧症治療薬や糖尿病治療薬の中には、副作用としてめまいが生じるものがあると言われています。

 

また、抗うつ薬や排尿障害治療薬の中には起立性低血圧を引き起こすものもあり、立ち上がった際にふらついて転倒する恐れもあると言われています。

 

認知症の方が転倒予防に努めるべき理由

転倒2

誰しも転倒は避けたいものです。その中でも認知症の方や、それを介護する方においては、より一層転倒予防に努めるべき理由について解説します。

要介護状態を回避する

認知症は高齢の方に多い疾病です。

そのため、転倒して骨や筋を損傷すると治りが遅く、また、転倒後も痛み等の症状が長引き、そのまま要介護状態になってしまうことも少なくありません。

 

認知症は高齢の方に多い疾病ですが、そのために転倒して骨や筋を損傷すると回復が遅く、また、転倒後も痛み等の症状が長引き、そのまま要介護状態になってしまうことも少なくないと言われています。 

 

高齢社会白書(令和2年版)によりますと、要介護状態の方のうちおよそ12.5%が、転倒や骨折をきっかけとして要介護状態になっていると報告されています。日常的に転倒予防を意識して行動することは、高齢者にとっては健康寿命を長く維持する上でも重要だと言えるのではないでしょうか。

 

なお、認知症を理由に要介護状態になる方も18.7%と多く、認知症の方は要介護状態になりやすいことが分かります。

 

患者さんのQOLを守る

転倒すると、要介護状態は回避できたとしても、QOL(生活の質)が低くなり、充実した日々を実感しにくくなるかもしれません。

 

また、転倒を経験することで外出することが億劫になり、家に引きこもることが多くなるような可能性もあるでしょう。

 

外出を避けるようになると社会とのつながりや友人・知人との関係も希薄になり、さらにQOLが低くなることがあります。

日々のQOLを維持するためにも、日常的に転倒予防に努めることをお奨めします。

 

転倒予防の具体的な方法

認知症の方は、運動機能や認知機能、また心理的条件や薬物の副作用から転倒しやすくなることを解説してきました。

 

同時に介護に携わる方々においては、患者さんの日々の生活環境を整えてあげたり、転倒事故防止対策を含めた看護計画を立てる等、事前の備えを共に行って頂くこともお奨め致します。

予防①:居住環境の改善

認知症の方は見当識障害や記憶障害が起こることが多いため、健常な方に比べて転倒しやすいと言えます。

 

「この程度で転倒するわけはない」と思うような居住空間における小さな段差においても、つまずきによる転倒の可能性が予測できるような障害物に関しては、改修なり、取り除くことをお勧めします。 

 

<転倒の原因となりうるもの>

  • 床に置いているものすべて。床には家具以外は置かないようにする
  • カーペットやマット
  • スリッパ
  • 布団

 

また、居住空間のリフォームや簡単な補修を施すことで、転倒予防に繋がる環境を整えることができます。

 

<転倒予防のためのリフォームポイント>

  • 廊下や浴室、トイレ、玄関には手すりをつける
  • 引き戸のレールは取り外し、吊り下げ型の扉に変更
  • 浴室の床は滑りにくい速乾素材に変更
  • 門から玄関まではなるべく段差をなくす。屋内もオールバリアフリーに

 

予防②:転倒を誘発する状況の回避

「急いで」「早くして」等といった言葉を認知症の方にかけると、焦燥感がつのり、慌てて行動して転倒につながることがあります。

たとえ行動・動作が悠長であっても、急がせるような声かけや態度は避けましょう。

 

病院や電車などの時間が決まった予定があるときは、時間に余裕をもって外出する等、事前の準備・心がけが大切です。

 

予防③:運動習慣をつける

つまずいたり、ふらついたりしたときでも、一定の筋力があれば姿勢を維持し、転倒を避けることができるため、普段から定期的な運動を行い、筋力の維持・強化に努めましょう。

 

ウォーキングや水泳などの全身運動や、スクワットやラジオ体操などの家の中でできる軽い運動などを始めてみてはいかがでしょうか。

 

以下ではバランス機能を維持・強化するトレーニング方法を1つご紹介します。

<片足立ち>

※転倒しないように、必ず机などの手でつかまるものがある側に立ってください

  1. どこにもつかまらずに、少し片足を上げます
  2. そのまま1分間体勢を保ちます
  3. 次は逆の足で同じことを行います

この1~3を1セットとして、1日3セット行います。

片足だけで立つのが困難な方は、机につかまって行います。

 

転倒した時の対応方法

転倒を予防・対策していても、転倒事故が起きることがあります。

高齢者や認知症の方が、万が一転倒してしまった時の対応・処置方法を紹介します。

 

まずは、負傷箇所や出血がないかなどの確認をします。

もし、腫れていたり、出血がある場合は、すぐに医療機関で受診しましょう。

 

転倒時に頭部を打って出血等が無い場合でも、吐き気がある、ろれつが回っていない、歩行状態がおかしいなどの症状がある場合はすぐに医療機関で受診して下さい。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。

 

そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

 

転倒予防のためにできることを早い段階で実施しましょう

認知症の方は健常の方に比べ、転倒しやすいと言われているため、より転倒予防に努めなくてはいけないといえるでしょう。

 

居住環境におけるリスクの把握、見直し、転倒につながる要素の改善と排除を行うようにしましょう。

 

また、習慣的な運動により、筋力の維持・改善に務めることも、転倒予防に繋がるといえるでしょう。

 

※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。

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