前頭側頭型認知症は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などに対して、認知症の中でも比較的知名度が低く、多くの人がこの病気について十分に理解できていません。
本記事では、前頭側頭型認知症の症状や原因、治療法について詳しく解説し、より多くの人がこの病気について知識を深めるきっかけを提供します。
適切な対処法やケアができるようになることで、患者とその家族の生活の質を向上させることができます。
前頭側頭型認知症の特徴
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉および側頭葉の機能低下によって引き起こされる認知症の一種です。
この病態は、行動・性格の変化や言語能力の低下といった症状が特徴的で、アルツハイマー病とは異なる原因と進行パターンを持ちます。
前頭側頭型認知症は、一般的に中年期から発症し、早期発症型の認知症とされることが多いです。
前頭側頭型認知症と前頭側頭葉変性症
前頭側頭型認知症(FTD)と前頭側頭葉変性症(FTLD)は、しばしば混同されることがありますが、両者は異なる概念を指します。
前頭側頭葉変性症(FTLD)は、脳の前頭葉・側頭葉が障害される認知症の総称であり、症状によって3つに分類されます。
そして、前頭側頭型認知症(FTD)はその3分類の内の1つです。
前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭側頭葉変性症(FTLD)の中で最も多い症状であり、他の症状には、「意味性認知症」「進行性非流暢性認知症」が含まれます。
前頭側頭型認知症とピック病
ピック病も前頭側頭葉変性症と同様、前頭側頭型認知症と混同されることが多いですが、同じ概念ではありません。
ピック病は、前頭側頭型認知症の一部として考えられる神経変性疾患です。
しかし、前頭側頭型認知症の95%以上をピック病が占めるため、一般的にほぼ同義として考えられています。
前頭側頭型認知症の症状
行動・性格の変化
前頭側頭型認知症患者は、しばしば行動や性格に顕著な変化を示します。
具体的には、適切な判断力や自制心の喪失、社会的ルールや他者の感情への無関心、衝動的な行動、過剰な食欲、繰り返しの行動などが挙げられます。
言語障害
前頭側頭型認知症では、患者の言語能力が徐々に低下します。
意味性認知症では、言語の意味理解が失われ、単語の意味が理解できなくなることが特徴です。
進行性非流暢性認知症では、発話や文法に問題が生じ、会話が困難になります。
記憶障害と認識の問題
前頭側頭型認知症の初期段階では、記憶障害はそれほど顕著ではないことが多いです。
しかし、病気が進行するにつれて、短期記憶や長期記憶の喪失が起こります。
また、顔や物の認識が困難になることもあります。
前頭側頭型認知症の原因
前頭側頭型認知症(FTD)の原因は、脳の前頭葉と側頭葉にある神経細胞が変性し、機能が低下することによります。
しかし、その詳細なメカニズムは完全には解明されていません。
いくつかの要因がFTDの発症に関与しているとされています。
遺伝的要因
FTDの発症には遺伝が関与していることが知られています。
約40%のFTD患者に家族歴があり、特定の遺伝子変異が関連していることが示されています。
代表的な遺伝子には、C9orf72、タウ遺伝子、プログラニュリン遺伝子などがあります。
神経細胞内のタンパク質異常蓄積
前頭側頭型認知症の発症には、神経細胞内にタンパク質が異常に蓄積することが関係しているとされています。
例えば、タウタンパク質、TDP-43 タンパク質、FUSタンパク質などが関与していることが分かっています。
前頭側頭型認知症の治療法
現在、前頭側頭型認知症に対する根本的な治療法は確立されていません。
ただし、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が行動異常の緩和に有効であるという報告があります。
前頭側頭型認知症は早期発見と定期的な検査が重要
前頭側頭型認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
前頭側頭型認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
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