前頭側頭型認知症は、神経変性疾患の一種であり、言語障害、行動の変化、および認知機能の低下といった症状を伴います。
前頭側頭型認知症は、個々の患者の状況や病気の進行によって様々な形で現れるため、進行速度や症状の進行に関する一般的なルールはありません。
しかし、それでも前頭側頭型認知症の進行について知っておくことは重要です。
なぜなら、患者と家族が病気と上手く向き合い、適切なサポートとケアを受けるためには、病気の進行に関する情報が不可欠だからです。
本記事では、前頭側頭型認知症の進行に関する基本的な知識を提供し、進行速度についても解説します。
この記事を通じて、患者とその家族が病気の進行に対処し、最善の治療とケアを受けることができるようになることを目指します。
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉に局在した神経細胞の変性によって引き起こされる一群の神経疾患です。
アルツハイマー病とは異なり、主に50〜60代の比較的若い年齢で発症することが多いとされ、認知機能の低下や行動・性格の変化が特徴です。
前頭側頭型認知症の原因は、タウタンパク質やTDP-43タンパク質の異常蓄積などの神経細胞内での異常タンパク質の蓄積が関与しているとされています。
遺伝的要素も一部の患者に影響しており、家族歴がある場合もあります。
前頭側頭型認知症の進行・経過
主に前頭側頭型認知症の進行・経過は、初期・中期・末期の3段階に分けることができます。
初期症状
初期から、人格の変化や脱抑制・反社会的行動が強く現れます。
しかし、初期段階では記憶障害はそれほど顕著ではなく、軽度であることが多いです。
常同・脅迫行動
・常同行為(常に同じ場所に座る、毎回同じ料理を作る)
・常同的周遊(毎日決まったコースを何度も散歩する)
・時刻表的生活(決まった時間に、決まった行動をする)
・強迫的音読
・滞続言語(同じ言葉を繰り返す)
共感性の喪失・易怒
・他者の思考、感情を推察できない
・同情できない
・すぐ怒り出す
食行動変化
・過食
・食の嗜好性変化
脱抑制・反社会的行動
・行為・注意の持続困難
・考え不精
・立ち去り行動
・万引き、無銭飲食
・病的浪費、賭博
・アルコール多飲
・性的亢進
環境依存症候群
・強制把握(手を握られると、強く握り返す)
・使用行為(人のものを勝手にとり、使う)
・模倣行為(相手の動きを無意識にまねる)
・鏡像動作(鏡合わせのように左右対称に手を動かす)
中期症状
中期になると、言語障害と自発性の低下が現れます。
言語障害の中でも、滞続言語がさらに悪化することが特徴的である。
・滞続言語の悪化
・反響言語(他者が話した言語を繰り返して発声する)
・錯誤
・健忘失語(物の名前が出てこず、回りくどい話し方をする)
・自発性低下
末期症状
末期になると、認知機能の低下に加えて、身体機能の低下も現れ、最終的に衰弱死に至ります。
・精神荒廃
・無言
・不潔
・拘縮(関節のこわばりによる運動機能の低下)
・るい痩(食欲低下による体重減少)
以上のような前頭側頭型認知症の初期から末期にかけての進行の仕方は、個人差があり、他の認知症においても同様の症状が現れることがあります。
前頭側頭型認知症の進行速度
前頭側頭型認知症の初期から末期にかけての進行速度は平均で6年といわれています。
前頭側頭型認知症の進行速度は個人差が大きく、その速度は患者の年齢、遺伝的要素、早期診断と治療、生活習慣などの様々な要因によって影響を受けます。
前頭側頭型認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行速度を遅らせることが可能であるとされている病気です。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
前頭側頭型認知症に関しては以下の記事もご覧ください。