アルコール性認知症とは、アルコールの多量摂取によって引き起こされる認知機能の障害です。
この病気は、脳内のビタミンB1が不足して起こるウェルニッケ・コルサコフ症候群が代表的なものですが、他にも脳血管障害や頭部外傷などが原因となる場合もあります。
アルコール性認知症は、早期発見・早期治療が重要ですが、自覚症状が少なく診断が遅れることも多いのです。
本記事をご覧の方の中には自分や身近な人がアルコール性認知症になっているかもしれないと心配されたことはないでしょうか?
今回の記事では、アルコール性認知症の原因や症状、治療法について詳しく解説します。
この記事を読むことで、アルコール性認知症について正しく理解し、自分や大切な人の健康を守ることの一助になればと思います。
アルコール性認知症とは
アルコール性認知症とは、長期間にわたる過度な飲酒によって引き起こされる脳の機能障害です。
アルコール性認知症には、ウェルニッケ・コルサコフ症候群とアルコール性認知障害の2つのタイプがあります。
ウェルニッケ・コルサコフ症候群は、ビタミンB1の欠乏によって生じる急性の状態で、視覚障害や歩行困難などの神経学的症状を伴います。
アルコール性認知障害は、記憶力や判断力などの認知機能の低下を特徴とする慢性の状態です。
アルコール性認知症の発症率は、飲酒量や飲酒期間、栄養状態などによって異なりますが、一般的には飲酒者の約10%が罹患すると言われています。
アルコール性認知症は、早期に発見されれば治療が可能な場合もありますが、放置すると不可逆的な脳の損傷を引き起こす可能性があります。
アルコール性認知症を予防するためには、適度な飲酒や栄養バランスの良い食事を心がけることが重要だとされています。
アルコール性認知症の初期症状
アルコール性認知症の特徴的な初期症状を挙げると、以下のようなものがあります。
注意力や記憶力の低下
アルコールによって前頭葉の働きが鈍くなり、物忘れや集中力の欠如が見られます。
新しいことを覚えられなかったり、さっきの出来事を忘れてしまったりします。
感情のコントロールができない
アルコールによって感情の抑制が効かなくなり、怒りや興奮が過剰になったり、場にそぐわない言動をしたりすることがあります。
暴力や暴言をふるうこともあるとされています。
歩行時のふらつきや手の震え
アルコールによって脳幹や小脳に障害が起こり、平衡感覚や運動協調能力が低下しやすくなります。
歩くときにふらついたり、手足が震えたりすることもあるようです。
作話(辻褄を合わせるための無意識の作り話)
アルコールによって記憶障害が起こり、忘れてしまった部分を自分で埋め合わせようとして作話をすることがあります。
嘘をつこうとしているわけではありませんが、事実と異なる話をしてしまうこともあるようです。
自分がいる場所や現在の時間が分からなくなる
アルコールによって見当識障害が起こり、自分がどこにいるかや今何時かなどがわからなくなることがあります。
日付や季節も把握できなくなるとされています。
これらの初期症状は、ウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼ばれる栄養障害や脳血管障害などによって引き起こされます。
また、これらの初期症状は、他の認知症と似ているため、見分けるのが難しい場合があります。
しかし、アルコール性認知症の場合は、飲酒歴や飲酒量が重要な手がかりになります。
アルコール性認知症は、飲酒をやめれば改善する可能性があるという点も特徴的です。
したがって、初期症状に気づいたら、早めに医師に相談し、飲酒を控えることが大切です。
早期に発見して治療すれば改善する可能性がありますが、放置すると重篤な認知症に進行する危険性があります。
アルコール性認知症の平均余命、寿命
アルコール性認知症の平均余命については、明確なデータはありませんが、一般的には3年から10年程度と言われています。
しかし、これはあくまで目安であり、個人差や合併症の有無などによって異なるとされています。
また、アルコール性認知症は他の認知症と合併することもあります。
例えば、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と合併すると、余命はさらに短くなる可能性があるといわれています。
アルコール依存症との関連性
アルコール依存症の人はアルコール性認知症になりやすいのでしょうか?
アルコール依存症とは、アルコールをやめることができない状態で、長期的に大量のアルコールを摂取し続けます。
これにより、脳の細胞が死んだり、脳の血管が詰まったりして、脳が萎縮することがあります。
脳の萎縮は認知機能の低下を引き起こし、記憶障害や見当識障害などの認知症の症状を生じさせることがあります。
アルコール依存症や大量飲酒者には脳萎縮が高い割合で見られ、認知症になる人が多いという疫学調査結果があります 。
フランスのある研究では、アルコール依存症の人はそうでない人の3倍以上も認知症になりやすいことが示されています。
アルコール性認知症の治療方法
アルコール性認知症の治療方法としては、まずはお酒を断つことが最も重要です。
また、薬物療法や食事療法なども行われます。
断酒・適度の飲酒
アルコール性認知症の治療方法は、まず断酒することが必要です。
断酒によって、脳の損傷の進行を遅らせることができます。
また、適切な飲酒量を守ることも重要です。
適切な飲酒量とは、一日に男性は20g以下、女性は10g以下の純アルコール量を摂取することとされています。
食事療法
特にビタミンB1の不足がアルコール性認知症の原因の一つと考えられているので、ビタミンB1を多く含む食品を摂ることがおすすめです。
ビタミンB1が豊富に含まれる豚肉やレバー、ビタミンB2やB12が含まれる乳製品や卵、葉酸が含まれるホウレン草やブロッコリーなどを積極的に取り入れることが望ましいです。
また、適度な運動や生活リズムの改善も大切です。
薬物療法
アルコール性認知症の薬物療法は、主にアルコール依存症の治療と認知機能の改善を目的としています。
アルコール依存症の治療には、アルコール摂取量を減らすためにニコチン酸やジスルフィラムなどの薬剤が用いられます。
認知機能の改善には、神経伝達物質のバランスを調整するためにドネペジルやメマンチンなどの薬剤が用いられます。
しかし、これらの薬物療法には副作用があります。
ニコチン酸は肝障害や高尿酸血症を引き起こす可能性があります。
そして、ジスルフィラムはアルコールと併用すると重篤な反応を起こす可能性があります。
また、ドネペジルは吐き気や下痢などの消化器系の副作用、メマンチンは頭痛やめまいなどの中枢神経系の副作用を引き起こす可能性があります。
したがって、アルコール性認知症の薬物療法は、医師の指示に従って慎重に行う必要があります。
アルコール性認知症は、年齢に関係なく発症する可能性がありますが、高齢者にも多く見られます。
高齢者の場合、他の認知症と合併することもあり、治療が難しくなることもあります。
アルコール性認知症は予防が可能な認知症ですので、適量の飲酒や栄養バランスの良い食事、ストレスの発散などを心がけましょう。
アルコール性認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
アルコール性認知症は、自覚症状が少ないことも多いので、自分では気づかないうちに進行してしまうこともあります。
また、早期発見により断酒や適切な治療を施すことで回復する可能性が高い疾患でもあります。
そのため、日常的にお酒を飲まれる方は定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
まとめ
- アルコール性認知症とは、長期間にわたる過度な飲酒によって引き起こされる脳の障害です。
- アルコール性認知症の初期症状は、以下のようにまとめられます。
- 物忘れや集中力の低下
- 感情のコントロールができない
- 歩行時のふらつきや手の震え
- 作話(事実と異なる話)
- 自分がいる場所や時間が分からなくなる
- アルコール性認知症は、大量飲酒による脳の萎縮が原因で、3年から10年ほどの余命とされる。
- アルコール依存症の人はそうでない人に比べてアルコール性認知症になる可能性が高い
- アルコール性認知症の治療方法は、断酒や適度な飲酒、ビタミンB1を含む食事、薬物療法などがある。