5. 認知機能検査って何をするの?
口頭と筆記による対面式のテストが主流
認知機能検査とは、認知機能を構成するとされている記憶力や注意力、判断力等の低下があるかどうかを、比較的短時間で判定できる簡易スクリーニング検査のことを言います。2017年3月に改正された道路交通法において、運転免許証を更新する75歳以上の方はこの「認知機能検査」の受験が必須になったというニュースを見てこの言葉を覚えている方も多いかもしれません。一方で、この検査は認知症や軽度認知障害(MCI)の診断を目的としたものではなく、あくまでもスクリーニングテストとして認知機能の状態把握あるいは機能低下を早期発見する役割があるものです。
世の中にはいわゆる「認知機能検査」と呼ばれるテストが多く存在していますが、そんな中でも医療機関で働く医師や臨床心理士だけでなく、介護現場の看護師なども含めて幅広く利用されている有名なテストをいくつかご紹介します。検査方法は、質問に対して口頭や筆記で回答する方法が主流となっています。
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- 長谷川式認知症スケール(HDS-R)
日本における認知症医療の第一人者と言われる医学者・精神科医の長谷川和夫氏によって1974年に公表されたテストを元に、1991年に質問項目や採点基準等の一部改定されたものがこのテストです。
設問内容は見当識や記憶、計算などの9項目で構成されており、例えば「今日は何月何日ですか?」「今いるところはどこですか?」「100から7を順番に引き算してください」といった問いに対して口頭のみで答えていくので比較的容易に実施できます。30点満点のテストで20点以下だった場合は認知症の疑いが高いとしています。テストの所要時間は10分〜15分程度です。
テスト内容に関して詳しくはこちら。
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- ミニメンタルステート検査(MMSE)
テスト名称であるMini Mental State Examinatinの頭文字をとってMMSEと一般的に呼ばれています。元々は米国で1975年に開発され、世界的に最も広く使用されている認知症のスクリーニング検査で、2006年に新たに日本版であるMMSE-Jが作成されました。設問内容は見当識や、計算、言語理解、空間認知等の全11項目で構成されており、
例えば、「今日は何年何月何日何曜日ですか?」「(時計を見せながら)これは何ですか?」「(「目を閉じてください」という文章を見せながら)この通りにしてみてください」「(図形を見せながら)これを正確に書き写してください」といった問いに対して、口頭と筆記で答えていきます。30点満点で認知症あるいはその前段階と言われる軽度認知障害の疑いを判断します。所要時間は10〜15分程度です。
テスト内容に関して詳しくはこちら。
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- モントリオール・コグニティブ・アセスメント日本版(MoCA-J)
このテストは、Montreal Cognitive Assessmentと呼ばれる1996年にカナダで開発された認知機能スクリーニングテストの日本版で、頭文字を取ってMoCA-J(モカジェー)と呼ばれています。軽度認知機能障害(MCI)を検出するのに有効だと言われており、30点満点の検査で25点以下の場合はMCIの疑いがあると判断します。
設問項目としては、視空間・遂行機能、命名、記憶、注意、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識を測定します。例えば、「(ラクダの絵を見せながら)これの名前は何ですか?」、「バナナとみかんの共通点は何ですか?」「11時10分を指す時計を描いてください」といった内容で、口頭と筆記によって回答していきます。所要時間は10〜15分程度です。
上記3つのテストは日本の診療報酬制度にも組み込まれており(2021年現在)、保険適用される診療として医療機関の窓口での費用負担は基本的に診療費用の1〜3割を支払えば良いものとなっています。
尚、「認知機能テスト」の結果は検査を受ける人の教育歴やその日の気分等にも影響するため、あくまでも目安として利用されます。実際の認知症診断では、医師による問診(本人と同伴者も含む)と、血液検査や心電図等の一般的な身体検査、「認知機能テスト」に加えて、CTやMRI等の医療機器を利用して取得した画像データの全てが出揃った上で、医師による総合的な判断が下されます。