認知症は治療できるの?
認知症の多くの場合は治療が難しいのが現状
一言で認知症といっても、実は認知症を引き起こす疾患は様々なものがあります。認知症患者全体の約7割を占める「アルツハイマー型」と「レビー小体型」は神経そのものが変性してしまう器質的な疾患の為に治療が困難だとされていますが、一方で、脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まってしまう「慢性硬膜下血腫」や、頭蓋内を循環して脳や脊髄を保護している脳脊髄液が異常に増える「水頭症」による認知機能障害の場合は、溜まった血腫や髄液を抜くことで改善すると言われています。
病院で医師から「認知症」と診断された場合、こうした一部の例外を除いて、認知症を根本的に治すための治療方法や、認知症の進行を完全に止める方法は残念ながら現時点では見つかっていません。では実際に認知症と診断された初期段階ではどのような治療が行われるのでしょうか。
どんな治療法があるの?
例えば、アルツハイマー型認知症と診断された場合は、基本的には薬物療法と音楽・運動・回想と知った非薬物療法を組み合わせながら、症状の進行を抑制する事と、患者本人が快適に暮らし、その家族あるいは介護者の負担を軽くすることを主眼に治療が行われます。従って、現時点では「(例外を除き)認知症と診断されると完治することはない」という認識をあらかじめ持った上で認知症に向き合うことが大切です。
認知症の初期症状への対応方法とは?
上述の通り、認知症と診断されると、進行を抑制するための薬が処方されます。この薬は認知症を治すためのものではなく、あくまで進行を抑制させるためのものです。薬を服薬していても最終的には認知症は進行していきますので、認知症を治す目的で服薬するものではないということは覚えておく必要があります。
認知症の初期には、物事に取り組む意欲が湧き上がらない場合や、感情のコントロールがうまくできない場合があります。抗認知症薬は、こういった脳の活動を穏やかにする効果や、感情の起伏を抑えるために、神経活動をコントロールする効果があると言われています。
薬物治療で実際に使わていれる薬
現在、日本で実際に使われている認知症治療薬は、主に以下の4種類です。
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- アリセプト
1999年にエーザイ株式会社から発売され、認知症の薬としては最も古くから使われています。通常、アルツハイマー型およびレビー小体型における認知症症状の進行抑制に用いられます。現在レビー小体型の治療薬として認められているのはアリセプトのみです。意欲低下、無関心、抑うつといった症状への改善効果が報告されており、認知症軽度から高度まで幅広く適応されています。
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- レミニールチ
2011年にヤンセンファーマ株式会社から発売され、アルツハイマー病の治療薬として使用されています。アルツハイマー型の軽度から中等度にかけて適応があるとされ、もの忘れや見当識障害などの認知症の症状進行を遅らせます。
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- メマリーチ
2011年に第一三共株式会社から中等度および高度のアルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制する薬として発売されました。初期のアルツハイマー型への効果は薄いと言われおり、医師の判断となりますが、初期にアリセプト、中等度以上に進行してからメマリーを併用していく形をとる場合もあります。脳内における記憶や学習に関わる神経伝達物質グルタミン酸の過剰放出を抑える効果があります。
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- イクセロン/リバスタッチ
これら2つは発売元がノバルティスファーマ株式会社と小野薬品工業株式会社で違いますが、有効成分は同じです。抗認知症薬では唯一の貼り薬タイプで、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。
認知症初期なら薬で治る?薬による進行抑制や副作用についても解説。
治療を始めるならMCI段階での早期発見が大切
認知症を発症する前には、健康な状態と認知症の中間の状態である軽度認知障害(MCI)という状態があります。認知症の症状が一部診られるものの、日常生活を送るにあたって直ちに影響を及ぼさない状態です。
例えば、アルツハイマー型認知症と診断されるまで症状が進行してしまうと治療で完全に治すことはできませんが、その前段階であるMCIで早期発見し、適切な治療を行えば、認知機能が正常な状態まで回復する可能性は14%〜44%あるとの研究報告があります。
一方で、MCIの状態を見過ごしそのまま放置してしまうと、その中の約1割の方が1年以内に認知症に移行してしまうとの報告があります。よって、健常なうちから認知機能の低下をいかに早期に発見できるかが認知症予防には大切になってくるのです。