認知症とアルコール。お酒の飲みすぎによるビタミンB1の可能性。

 

「お酒が好きな父が最近暴言を吐くようになった」

「毎日お酒を飲んでいて、最近もの忘れが増えてきた」

 

ご家族や近親者に対して、このような悩みを持たれている方はいらっしゃるのではないでしょうか。

アルコールの過度な摂取は、急性アルコール中毒や肝臓病を引き起こすことはよく知られています。

 

しかし、長期的な過度のアルコール摂取は、脳の萎縮を引き起こし、「アルコール性認知症」を引き起こすこともあるとされています。

アルコール性認知症を発症すると、もの忘れなどの認知症によく見られる症状に加えて、暴言を吐くといった特徴があるといわれています。

 

本記事では、アルコール性認知症になると暴言を吐く理由や初期症状から末期症状について詳しく解説します。

記事を読むことで、アルコール性認知症の適切な治療と予防に役立てて頂ければ幸いです。

 

 

アルコール性認知症とは

アルコール性認知症とは、長期的なアルコールの大量摂取が原因と考えられる認知症のことを指します。

アルコール性認知症の原因には、アルコールの大量摂取による脳血管障害やビタミンB1の欠乏による栄養障害があるとされています。

また、若い方であっても過度の飲酒によりアルコール性認知症を発症することもあります。

お酒の飲みすぎによるビタミンB1の不足

アルコール性認知症の原因の1つとして考えられているビタミンB1の欠乏ですが、なぜアルコールの多量摂取によって不足してしまうのでしょうか。

 

アルコールは摂取すると、肝臓で分解されて、強い毒性を持つ「アセトアルデヒド」になります。そして、アセトアルデヒドはさらに体内で分解されて、無害な「酢酸」になります。

一般的に、お酒に強い・弱いは、このアセトアルデヒドから酢酸に分解する力に違いがあるといわれています。

 

通常、アセトアルデヒドはALDH2という物質によって分解されますが、お酒を飲みすぎるとALDH2の分解だけでは追いつかなくなります。

そこで、代わりにビタミンB1を使うことでアセトアルデヒドの分解をおこない、ビタミンB1の不足を招くのです。

 

アルコール性認知症の初期~末期症状

アルコール性認知症を発症すると、初期から末期にかけて他の認知症と同様の症状が現れるといわれています。

 

  • 歩行時のふらつき、手の震え
  • 注意力や記憶力の低下
  • 見当識障害(自分が今いる場所や日付が分からない)
  • 作話(実際には起きていないことを、あたかも体験したかのように話す)
  • 暴言を吐く

 

アルコール性認知症になると暴言を吐く理由

 

特に「暴言を吐く」という症状は、認知症とアルコール摂取による脳機能の低下によって悪化することがあるとされています。

アルコール性認知症の特徴的な症状である「暴言を吐く」という行為はなぜ起こるのでしょうか?

このような行為を起こしてしまう原因には以下の3つが考えられます。

不安や恐怖を感じ、苦しんでいる

認知症の見当識障害や記憶力の低下により、自分の身の回りの状況を的確に判断することが難しくなるため、不安や恐怖を覚えやすくなります。

 

また、自分自身の能力低下を、他の人に指摘されたり、逆に同情的な声をかけられることにより不安が高まり、暴言につながることもあるようです。

 

感情のコントロールが難しい

脳の前頭葉は、物事の判断や行動・感情の制御などを司っています。

 

アルコール性認知症を発症すると、脳の感情をコントロールする前頭葉部分が萎縮してしまい、これまでは何とも思わなかったことに対しても怒りの感情がでてくることがあります。

 

アルコール依存症が併存している場合、アルコールが切れたときに離脱症状が生じて、本人の意思とは関係なくイライラや焦燥感などがあらわれることがあるとされています。

 

妄想を抱く

アルコール性認知症では、脳機能の低下により強い妄想を抱くことがあるとされています。

この強い妄想により、誰かに悪口を言われた、叱られたと勘違いをしてしまい、周囲の人に暴言を吐いてしまうことがあるようです。

 

アルコール性認知症の診断基準

アルコールが関係する認知症の原因には多発性脳梗塞などの脳血管障害、頭部外傷、肝硬変、糖尿病、ウェルニッケ・コルサコフ症候群を含む栄養障害など様々なものが考えられるとされています。

 

そのため、認知機能の低下を引き起こしている原因について総合的な観点から検査をして、アルコール以外に認知症の原因が特定できない場合に、「アルコール性認知症」と診断されます。

 

(参照)厚生労働省『アルコール性認知症』

 

アルコール性認知症の暴力への対処

アルコール性認知症の暴力を抑えるには、まずは「断酒」が大切であるとされています。

 

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などは一度発症すると、完治させることは困難であるとされていますが、アルコール依存症にともなう認知症の場合は、長期的な断酒によって認知機能に一定の改善効果がみられることもあるようです。

 

断酒を成功させるためには、規則正しい生活を送って、居酒屋には行かない、家にはお酒を置かないなどの対策が有効であるとされています。

自分の意思のみでお酒を断つことが難しい場合は、アルコール依存症治療のための施設や専門医療機関での治療も検討してみてください。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

今回のアルコール性認知症に関しては、認知機能の低下に早期に気づいて、アルコールの摂取を控えることで、認知機能の低下が改善するともいわれています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

 

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