認知症は、脳の機能が徐々に奪われる深刻な疾患です。身近な病気である認知症には多様な予防方法が存在します。
WHOの認知症リスク低減ガイドラインによると、栄養バランスがとれた食事習慣が認知症の予防に効果的な対策の一つとされています。
その中で、料理によく使われている「食用油」にも認知症の発症を左右する可能性があることが様々な研究で示唆されているようです。
この記事では、認知症の予防に効果的とされている食用油や、逆に認知症が進行する可能性がある食用油、適切に摂取する方法などについて解説します。
出典:WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」
認知症の予防に効果的な食用油
食用油は、常温で液状の食べられる動植物性油脂と定義づけられています。
料理や調理において、炒め物や揚げ物、ドレッシング作りなど色んな場面で使用されます。
そして、特定の食用油が認知機能の低下のリスクを低減させる可能性が示唆されています。
認知症予防に効果的な食用油は、オリーブオイル、ココナッツオイル、魚の油があります。
認知症予防に効果的な食用油① オリーブオイル
オリーブオイルは、食用油認知症予防に効果的だと近年の研究で報告されています。
2023年に研究によると、毎日大さじ半のオリーブオイルを摂取している人は、オリーブオイルをまったく摂取していない人に比べて、認知症で亡くなるリスクが28%低減することが示されています。
オリーブオイルが認知症の予防に効果的な理由は、不飽和脂肪酸を豊富に含むことから考えられています。
不飽和脂肪酸は、認知機能に良い影響を与え、神経の成長を促進する効果があるため、認知症の予防に効果的だといわれています。
また、オリーブオイルには抗酸化作用を持つビタミンEやポリフェノールも含まれています。
ビタミンEやポリフェノールなどの抗酸化物質は、細胞の損傷を防ぐ効果があるため、認知症の進行を遅らせる効果があるようです。
出典:Opting for olive oil could boost brain health
出典:Higher Antioxidant Levels Linked to Lower Dementia Risk
認知症予防に効果的な食用油② ココナッツオイル
ココナッツオイルはアルツハイマー型認知症の予防に効果がある可能性が研究で示されています。
しかし、現時点では証拠が不十分で研究が小規模なため、ココナッツオイルが認知症の予防になるかは断言できない状態です。
2018年のパイロット研究では、アルツハイマー型認知症を持つ44人の認知機能に対するココナッツオイルを強化した食事の効果を調査しました。
結果として、認知機能の改善は、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症を持つ女性で顕著に見られました。
そして、男性の参加者や病状がより重度なグループにおいても一部の改善がみられたようです。
ココナッツオイルがアルツハイマー型認知症に有効であるという主な理論の一つは、ココナッツオイルに含まれているカプリル酸が、脳の細胞にエネルギーを供給する可能性があるということです。
カプリル酸が脳のエネルギー源として機能し、記憶障害を持っている方、または認知症を発症しつつある方々の認知機能に利益をもたらす可能性があると言われています。
認知症予防に効果的な食用油③ 魚の油
魚の油はサバや鮭、マグロなど、脂質が多い魚の油を抽出したものです。アメリカの国立医学図書館によると、魚の油はオメガ3という体内で生成できない栄養素が含まれています。
魚の油に含まれているオメガ3には、ALA(アミノレブリン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が主にあるとされています。
オメガ3は、脳の能力を向上する効果があるとともに、認知症の発症リスクを低減させる可能性が高いと研究で示されています。
出典:Omega-3 fatty acids and dementia
認知症を発症する恐れがある食用油
食用油には、認知症の予防にに効果があるものだけではなく、逆に発症のきっかけになる油もあるとされています。
認知症を発症する恐れがある食用油には以下のようなものがあります。
認知症を発症する恐れがある食用油① サラダ油
揚げ物、加工品、マヨネーズ、ドレッシングなど色んな食べ物にサラダ油が取り入られています。
便利な食用油である一方、高熱で加熱されたサラダ油を過剰に摂取すると脳が委縮し、認知症の発症要因になる可能性が高いと言われています。
金沢大学の研究者たちによると、リノール酸が多く含まれているサラダ油が高熱で加熱されると、脳細胞を破壊するヒドロキシノネナールが大量に発生するとされています。
ヒドロキシノネナールを含むサラダ油を多くとることで、認知機能が低下すると示唆されています。
出典:Vegetable Oil: The Real Culprit behind Alzheimer’s Disease
認知症を発症する恐れがある食用油② キャノーラ油
健康に良いとされているキャノーラ油も、認知症の進行を加速させる可能性があると研究で示唆されています。
テンプル大学が行った2017年のマウス研究では、6カ月間マウスをキャノーラ油抱負の食事を与え、認知機能への影響を検証しました。
結果的に、アルツハイマー型認知症の発症要因の一つであるアミロイドベータの増加がみられ、記憶力と学習能力を悪化させたと示されています。
キャノーラ油が認知機能を悪化させ、アルツハイマー型認知症の発症要因になる可能性があると結論付けられているようです。
食用油を摂取する際に注意すべきこと
認知症を予防するために、適切に食用油を摂取することが大切です。食用油を摂取する際には、特に以下の2点に注意が必要だとされています。
過度な油の摂取は病気のもと
まず、過度な油の摂取は健康を害する原因になるとされています。
栄養バランスが崩れ、肥満のリスクが増大するだけでなく、心筋梗塞などの心疾患を発症する可能性も高くなるといわれています。
適切な量の摂取を心掛け、脂質による健康への悪影響を最小限に抑えることが大切です。
一日に摂取するべき食用油の適量は種類によって異なるとされています。
以下が専門家が推奨する一日の適切な食用油の摂取量です。
オリーブオイル:大さじ1~3杯
ココナッツオイル:大さじ1~2杯
サラダ油:大さじ一杯
キャノーラ油:大さじ一杯
油の製法に気をつける
次に、油の製法にも目を向ける必要があります。加工油や過度に精製された油は、多くの有益な成分が失われるといわれています。
特にオリーブオイルは、冷たい機械プレスで製造されたエキストラバージンオリーブオイルが一番健康的だとされています。
また、調理の際の高温や油の再利用は、油が酸化する可能性があるため、新鮮な油を使用し、適切な温度で調理することを推奨します。
食事に食用油を取り入れる方法
毎日の食事に認知症の予防になるとされているオリーブオイル、ココナッツオイル、魚の油などの食用油を簡単に取り入れることができます。
以下の方法を実践してみてください。
食材を炒める
食材を炒める際によく使われるサラダ油などを、認知症予防に効果的とされるオリーブオイルとココナッツオイルに代用することができます。
油を使用することで、食材の風味を引き立てることができますが、過度な使用は控えるように心掛けましょう。
また、高熱に熱することを避けながら、必要最低限の油で炒めることで、カロリーや脂質の摂取を控えめにすることが可能です。
料理の味付け
料理の味付けに油を使用することが、最も健康的な油の取り入れ方とされています。
ドレッシングや炒め物のタレとして、オリーブオイルを適量加えることで、料理に深みや風味を加えることができます。
しかし、油の量に注意しながら、他の調味料とのバランスを取ることが大切です。
魚肉を主食にする
魚は食肉より認知症の予防になる脂質が豊富に含まれているといわれています。
魚を主食にすることで、体に良い脂質を効果的に摂取することができるとされています。
例えば、1週間の半分の食事は魚を取り入れ、残りの半分を牛肉や豚肉などの食肉にするといった工夫が可能です。
魚肉を適度に摂取することで、認知症の予防に繋がるでしょう。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。