軽度認知障害(MCI)の症状と発症しやすい方のチェックシート、診断方法や治療までの流れまで解説

 

軽度認知障害についてご存知ですか?

 

軽度認知障害(MCI)は、正常な認知機能と認知症の間に位置する状態です。放置すると認知症を発症するリスクが高まりますが、適切な対策を継続することで予防が可能です。

 

この記事では、軽度認知障害のチェックシートから診断、治療までの流れを詳しく解説します。

 

 

軽度認知障害とは

軽度認知障害(MCI)は、普通の老化による物忘れとは異なり、認知症の手前の状態です。日常生活には大きな支障はありませんが、放っておくと認知症になるリスクが高まります。

 

MCIは、自分でも気づく記憶力の低下や、他の認知機能の低下が見られます。例えば、同じことを何度も聞いたり、物の名前が出てこなかったりします。日常生活には問題がないことが多いですが、これらの症状が認知症とは診断されません。

 

日本の高齢者の約31.1%がMCIに該当し、欧米では3~19%の高齢者がMCIに該当されるとされています。また、MCIの人は、2年間で11~33%の確率で認知症を発症するリスクがあるとされています。

 

MCIの診断には、自覚的な記憶の衰え、日常生活に支障がないこと、年齢に比べて低下した記憶力が含まれます。例えば、Petersenらが提唱した基準には、以下が含まれます:

 

・自分や周りが気づく記憶力の低下

・日常生活はほぼ問題なく送れる

・年齢に比べて低い記憶力

・認知症ではないこと

 

MCIは記憶障害の有無に基づいて、記憶障害型(amnestic MCI)と非記憶障害型(non-amnestic MCI)に分類されています。

 

軽度認知障害の疑わしい症状がある場合は、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けることが大切です。これにより、日常生活の質を維持し、認知症への進行を防ぐことができます。

 

軽度認知障害について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

 

 

軽度認知障害を発症しやすい方のチェックシート

軽度認知障害の原因はまだ解明されていませんが、罹りやすい人の特徴は様々な研究で示唆されています。以下では、軽度認知障害を発症しやすい方のチェックシートを紹介します。

 

1. 年齢が高い

高齢であることは、MCIの最も強いリスクファクターです。年齢が進むと、脳の認知機能が自然と低下しやすくなります。これは生理的な老化過程の一部として考えられています。

 

2. 男性である

研究によると、男性は女性に比べてMCIを発症しやすい傾向があります。この違いの原因はまだ明確ではありませんが、ホルモンや生活習慣の違いが影響している可能性があります。

 

3. 家族歴がある

認知機能障害の家族歴がある場合、MCIのリスクが高くなります。特に、アルツハイマー病の家族歴があると、MCIからアルツハイマー病への進行リスクが高まります。

 

4. APOE ε4アレルの保有者

APOE ε4アレルを持っている人は、MCIからアルツハイマー病への進行リスクが高いとされています。ただし、全ての研究で一致した結果が出ているわけではないため、APOE遺伝子型の臨床的な利用は限定的です。

 

5. 高血圧や高脂血症、冠動脈疾患、脳卒中などの慢性疾患を持っている

これらの血管リスク因子はMCIと関連が深く、複数の慢性疾患を持っている場合、MCIのリスクがさらに高まります。

 

6. 多剤併用(ポリファーマシー)

複数の薬を使用している場合、特に抗コリン薬やベンゾジアゼピンなどが認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。薬物相互作用による認知障害も考慮する必要があります。

 

7. うつ病や不安障害などの精神疾患がある

うつ病はMCIを悪化させる要因となり得ます。適切な治療を受けることで、認知機能の改善が期待できます。

 

8. 睡眠障害がある

睡眠時無呼吸症候群は日中の疲労や認知機能の低下を引き起こす可能性があります。適切な治療を受けることで、認知機能の改善が見込まれます。

 

9. 教育レベルが低い

高い教育レベルは認知症の発症リスクを低減する要因とされています。教育や知的活動が脳の認知機能を保護する効果があると考えられています。

 

10. 社会的な孤立や低い活動レベル

社会的な交流や活動に積極的でない人は、認知機能の低下リスクが高まります。社会活動は脳の健康を維持するために重要です。

出典:National Library of Medicine "Mild Cognitive Impairment"

 

以上のチェック項目に該当する方は、軽度認知障害(MCI)を発症するリスクが高くなるとされています。

 

定期的な健康チェックや生活習慣の改善を通じて、リスクを軽減することが大切です。疑わしい症状がある場合は、早めに専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。

 

軽度認知障害における症状のチェックシート

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階ともいわれる状態で、記憶力や認知機能が正常老化の範囲を超えて低下しているものです。国立長寿医療研究センターが提供するチェックシートは、自分の認知機能を簡単に自己評価できます。

 

このチェックシートは以下の項目から成り立っています。

 

【軽度認知障害のチェックシート】

◻ 同じことを何度も言ったり聞いたりする

◻ 物の名前が出てこなくなった

◻ 置き忘れやしまい忘れが目立ってきた

◻ 以前はあった関心や興味が失われた

◻ だらしなくなった

◻ 日課をしなくなった

◻ 時間や場所の感覚が不確かになった

◻ 慣れた場所で道に迷った

◻ 財布などを盗まれたと思い込む

◻ 些細なことで怒りっぽくなった

◻ 蛇口やガス栓の締め忘れがある

◻ 複雑なテレビドラマが理解できない

◻ 夜中に急に起き出して騒ぐ

出典:国立長寿医療研究センター「認知症チェックリスト」

 

以上のチェックシートの項目のうち、3つ以上が当てはまる場合は、軽度認知障害の可能性があるとされています。

 

チェックシートはあくまで自己判断のためのツールであり、専門医による診断が重要です。疑わしい場合は、できるだけ早く医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切になります。

 

次に、軽度認知障害の診断や治療の方法について紹介します。

 

軽度認知障害の診断方法

軽度認知障害(MCI)の診断は、患者の自覚症状や日常生活の変化を観察し、専門的な検査を通じて行われます。ここでは、MCIの診断方法について詳しく説明します。

 

MCIの診断は、以下の基準に基づいて行われます。まず、患者自身や家族からの詳細な病歴聴取を行い、自覚的な記憶障害の訴えを確認します。その後、日常生活動作(ADL)や全般的な認知機能の評価を行います。さらに、年齢に対して記憶力が低下しているかどうかを神経心理検査で確認し、認知症ではないことを排除します。診断基準には、PetersenらによるMCIの診断基準が用いられ、記憶力の低下、日常生活動作の保たれ、認知症ではないことなどが含まれます。

 

【軽度認知障害の診断の流れ】

病歴聴取: 患者自身や家族からの詳細な病歴を聴取し、自覚的な記憶障害の訴えを確認します。

日常生活動作の評価: 基本的な日常生活動作(ADL)が保たれているかを評価し、複雑な手段的日常生活動作に障害がないかを確認します。

神経心理検査: 記憶力や他の認知機能を評価するための神経心理検査を実施します。例えば、MMSE(Mini-Mental State Examination)やMoCA(Montreal Cognitive Assessment)などが使用されます。

画像検査: 必要に応じて、MRIやCTなどの画像検査を行い、脳の形態変化を確認します。特に、前部帯状回や側頭葉、海馬などの萎縮がMCIに関連していることが報告されています。

バイオマーカー検査: 脳脊髄液中のタウタンパク質やアミロイドβなどのバイオマーカーの検査を行い、認知機能低下の原因を特定します。

 

軽度認知障害(MCI)の診断は、詳細な病歴聴取と日常生活動作の評価、神経心理検査、画像検査、バイオマーカー検査など、複数の検査を組み合わせて行われます。MCIは早期発見と早期介入が重要であり、疑わしい症状がある場合は、早めに専門医に相談することが推奨されます。適切な診断と治療を受けることで、MCIの進行を遅らせることができる場合があります。

 

出典:日本医事新報社「軽度認知障害(MCI)」

出典:内科医に必要な軽度認知障害・認知症と診方

 

軽度認知障害の治療

軽度認知障害(MCI)の治療には、生活習慣の改善や薬物療法など、複数の治療が組み合わされます。ここでは、MCIの治療方法について詳しく説明します。

 

【生活習慣の改善】

軽度認知障害の治療には、まず生活習慣の見直しが重要です。具体的には、定期的な運動やバランスの取れた食事、社会活動の参加が推奨されます。これらの生活習慣は、認知機能の維持や改善に効果があるとされています。

 

運動: 週に2回以上、1回20分以上の有酸素運動が認知機能の維持に効果的です。

食事: 野菜や果物、魚、オリーブオイルを多く含む地中海式ダイエットが推奨されます。

社会活動: 社会的な交流や趣味を通じて、精神的な刺激を受けることが重要です。

 

【薬物療法】

軽度認知障害に対する薬物療法には、アルツハイマー型認知症の治療薬が用いられることがあります。以下の薬は、認知機能の低下を遅らせる効果が期待されています。ただし、薬物療法は医師の指示に従い、慎重に行う必要があります。

 

コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)

NMDA受容体拮抗薬(メマンチンなど)

レケンビ(レカネマブ)

 

【社会的支援】

MCIの患者には、心理社会的な支援も重要です。家族や介護者のサポートを受けながら、適切な医療機関でのフォローアップを行うことが必要です。認知機能の評価やリハビリテーションを通じて、日常生活の質を向上させる取り組みが求められます。

 

軽度認知障害(MCI)の治療は、生活習慣の改善、薬物療法、心理社会的支援など、総合的なアプローチが必要です。早期に適切な治療を受けることで、認知機能の維持や改善が期待されます。疑わしい症状がある場合は、専門医に相談し、適切な治療を受けることが大切です。

 

軽度認知障害は早期の発見と対策が重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

 

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MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも

軽度とはいえMCI(軽度認知障害)を放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。

 

一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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-自己チェック, 軽度認知障害(MCI)

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