認知症による食欲の変化|異食・過食・拒食・食欲低下への対策、余命などを解説

認知症になると、記憶障害から被害妄想まで、様々な症状があることを皆さんはご存じだと思います。

 

その中でも、「食欲の変化」は認知症の典型的な行動・心理症状だとされています。

 

時には身体に良くないものを口にするようになったり、食事の量が減ったり増えたりと、人によって食欲の症状は異なると言われています。

 

この記事では、認知症による食欲の変化やその症状が寿命に与える影響などについて解説します。

 

 

認知症と食欲の関係

認知症は、記憶力、思考力、意識、行動など、日常生活を営む上で重要な認知機能を徐々に奪う疾患とされています。

 

認知症は二種類の症状、すなわち中核症状と行動・心理症状(BPSD)を引き起こします。食欲の変化は行動・心理症状の一つとして見られます。

 

脳の特定の領域は食事に対する欲求や満足感を制御します。認知症による認知機能の低下がこの脳の領域に影響を及ぼすと、過食、異食、拒食といった食欲の変化が引き起こされる可能性があるとされています。

 

認知症が進行するにつれ、患者は食事を全く取らなくなる場合が多く見られると言われています。

 

認知症による異食

異食は、食物以外のものを食べる行動を指します。認知症患者が異食を示す原因は、認知的な混乱や感覚の異常によるものである可能性があります。

 

特に、後期の認知症患者は、食物と非食物を区別する能力が失われることがあるとされており、異食行動が見られることがあります。

異食のサイン

認知症による異食には以下のようなサインが見られます。

 

・食べ物以外のものを食べようとする

・以前は好んでいたものを嫌がるようになる(逆もあり得る)

・食物の形状や質感に対するこだわりが増える

・異質な組み合わせの食べ物を好む(例:ご飯にジャムをかける)

 

異食への対策

異食行動がみられる認知症患者は食べ物の異常な選択に限りがないため、洗剤、薬品、殺虫剤など危険性のあるものを摂取してしまう可能性があります。

 

このような危険な状況を避けるために、以下の対策を実践することが推奨されています。

 

・危険物を目や手の届かない場所に置く

・本人に反論しない

・異食しても、本人に怒らない

・食事回数を増やす

 

認知症による過食

過食は、食事に対する欲求が高まることです。認知症による過食の原因は多岐に渡ります。一部の患者では、脳の満腹感を感じる部位が損傷を受け、食事を止めるタイミングを見失うことがあります。

 

また、食事で安心感を感じることから過度に食べることを求めたり、そもそも食事をしたこと自体を忘れたため、食べるのをやめない場合もあるとされています。

 

過食のサイン

認知症による過食には以下のようなサインが見られるとされています。

 

・食事をとる時間の間隔が短い

・特定の食べ物への嗜好が増している

・以前より活発になる

・排便する回数が増える

・食べ物を探し回る

 

過食への対策

過食への対処は難しいですが、個々の患者の食事環境を評価し、適切な食事の提供や環境の改善を行うことで過食を抑制することが可能とされています。以下のような対策を実践してみてはいかがでしょうか。

 

・食事の量を減らすようにする

・間食の回数を増やす

・食器を置いたままにする

・本人を否定しない

・健康的な食べ物を用意する

・本人が関心のあることに注意をそらす

 

認知症による拒食

拒食は、食事をすることを拒むことを指します。認知症の末期になると、食事や水分を摂らなくなり、食べ物や飲み物を飲み込むことが困難になる「嚥下障害」を発症する可能性が高くなります。

 

アメリカ国立衛生研究所によると、84%~93%の認知症患者が嚥下障害の症状があると報告されています。

 

認知症患者が拒食する理由はいくつか考えられます。認知症が進行すると、ほとんどの人が活動量が減少し、それに伴い必要なカロリーも少なくなります。これにより、適切な栄養や水分を摂取できない状況が生じることが原因であることが考えられています。

 

また、脳の食事の摂取を調整する領域の損傷が拡大し、物が食べ物であるという認識がなくなってしまったり、食事のことを忘れてしまうこともあります。

 

年齢も影響を及ぼす要因で、嚥下に関与する筋肉が萎縮し、食物を飲み込む際に窒息するような感じを覚えたり、口から食物を出すことができないと感じることがあります。

 

出典:Prevalence, Risk Factors, and Complications of Oropharyngeal Dysphagia in Older Patients with Dementia

 

拒食のサイン

認知症による拒食には以下のようなサインが見られるとされています。

 

・食べると咳をしてむせる

・飲み込むのを拒否する

・過剰に舌を動かす

・つばを飲み込む

・咳払いをする

・よだれを垂らす

・食べ物に唾を吐く

 

拒食への対策

認知症による拒食への対策は、身近にいる方や介護者に責任が伴います。以下のような対策を実践してみてはいかがでしょうか:

 

・食事の量を少なめに用意する

・写真を使って本人にどれが食べたいかを選んでもらう

・疲れを感じにくい時に食事を勧める

・バランスのいい食事より、本人が好きな食べ物を優先する

・食事の味を濃くする

・食事の支度に手伝ってもらう

・嚥下症状がみられる場合、やわらかい食べ物を用意する

・一緒に会話をしながら食事する

 

認知症による食欲の変化が余命に与える影響

認知症は根本的な治療法がなく、発症すると症状が徐々に進行するため、死に至りやすい疾患だと言われています。そして、食欲の変化は認知症の進行に伴い見られる一方で、食欲の変化そのものが余命に影響を与える可能性があるとされています。

 

特に認知症の後期にみられる拒食は、食べ物や飲み物を間違えて吸い込む恐れがあるため、肺感染症を引き起こす可能性も指摘されています。

 

その上、認知症による嚥下障害が進行すると、末期の始まりを示している可能性が高いと考えられています。

 

しかし、飲食をせずにどれくらい長く生きられるかは、多くの要素が関与しているため、正確に予測することは不可能だとされています。

 

これらの要素には、患者一人一人の年齢、全体的な健康状態、そして免疫力が寿命に影響すると言われています。

 

出典:Prevalence, Risk Factors, and Complications of Oropharyngeal Dysphagia in Older Patients with Dementia

 

出典:End-of-Life Care for People With Dementia

 

認知症の末期に突入した方への食事対策

認知症末期に突入し、食事の自然摂取が困難になった場合、人工栄養補給(ANH)という対策が一つの選択肢になるとされています。

 

人工栄養補給は、医師がチューブを通じて栄養素と液体を静脈内に投与する処置です。このチューブは、鼻から胃へ、あるいは胃に取り付けられた装置から体内へと通じています。

 

しかし、これらの治療は医療機関で行う必要があり、多くの認知症患者はその経験を苦痛に感じるとされています。一部の患者はチューブを取り除こうと試みることもあるようです。

 

医師たちは、人工栄養補給が全体的な症状の改善もたらすかどうか明らかではないため、認知症末期の患者に対して、この方法を推奨することについては意見が一致していないようです。

 

一部は、チューブを使った栄養給養が認知症患者の生活の質を低下するという意見があります。さらに、人工栄養補給は肺感染症のリスクを低減しないことも示唆されているようです。

 

そのため、認知症を抱える方々は、自分で意思を表明し、決断を下せる間に末期のケアを計画することが推奨されています。これには、人工栄養補給を受け入れるかどうかの選択も含まれます。

出典:Importance of quality of life in people with dementia treated with enteral nutrition: the role of the nurse

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

 

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