補聴器が認知症のリスク低下や予防になる?嫌がる難聴の方を説得する方法も解説

 

認知症と難聴は、現代の超高齢化社会における重要な健康問題となっています。

 

高齢者によく見られる認知症と難聴が、実は密接に関係しているといわれていることはご存じでしょうか?

 

難聴になると認知機能が低下し、認知症を発症する可能性が高まることが様々な研究で示唆されています。

 

そして、難聴を補助する補聴器が認知症の発症リスクを低下させる可能性についても最近の研究により発表されています。

 

この記事では、補聴器が難聴による認知症の予防になる可能性や、身近な人に補聴器の使用を説得する方法などを解説します。

 

 

難聴と認知症の関係

難聴とは、一部またはすべての音域で聞こえにくさを経験する状態を指します。一方、認知症は、記憶、思考、行動に影響を及ぼす一連の症状で、日常生活に支障をきたす病態です。

 

認知症の症状は通常、高齢で現れることが多い疾患になりますが、脳の変化は中年期に始まる傾向があるとされています。同様に、40歳を過ぎると難聴の発生率も増加し始めるといわれています。

 

これらのことから、ある研究者たちは難聴が認知症のリスクを高める可能性を調査することになりました。

 

最近の研究では、難聴は認知機能を低下や社会的孤立を引き起こし、認知症のリスクを高める可能性があるとされています。

難聴の方は日常の聞き取りに多大な労力を必要とします。音を理解しようとする過程で、脳が余計に働き、この過度の認知負荷が他に使用する労力を奪う可能性があると考えられています。

 

これにより、記憶力や理解力などの認知機能が衰え、長期的には認知症のリスクが高まるとされています。

 

また、難聴は社会的孤立につながることがあるともされています。コミュニケーションが困難になると、人間は社会活動から遠ざかる傾向があり、これが孤立感を生み出すという理由からです。

 

孤立感と社会的な刺激の欠如は、認知機能の低下と認知症の発症につながる可能性があると言われています。

 

補聴器が認知症のリスク低下や予防につながる可能性

これまで、いくつかの研究で難聴と認知症のリスクとの関連が示され、補聴器の使用による難聴の緩和は、認知症発症のリスクを減らす可能性があると考えられてきました。

 

一方、難聴と認知症には関連性がないという研究結果も存在します。研究の結果が一貫していない理由は、調査した人数が少ないからだと言われています。

 

また、補聴器の使用と特定のタイプの認知症との関連性については、広範な研究がされておりませんでした。

 

しかし、今年の4月に公開された最新研究では、ある研究者たちは大規模な研究サンプルを用いて、補聴器の使用と認知症リスクとの関連性を調査しました。

 

また、補聴器の使用が特定のタイプの認知症リスクに及ぼす影響も評価しました。

 

研究の内容

この研究では、UKバイオバンクという大規模なバイオメディカルデータベースから収集された437,704人分のデータを使用しました。

 

UKバイオバンクは、参加者から遺伝子、健康、環境情報のデータを収集します。参加者は研究開始時に認知症の症状がなく、基準時点での平均年齢は56歳でした。

 

研究者達は、基準時点での自己申告による難聴のデータを得て、認知症の診断情報は医療記録と死亡登録から取得しました。

 

また、教育年数、所得水準、医療状況、社会的孤立など、認知症や難聴のリスクに影響を及ぼす可能性がある他の変数のデータも平均12.1年間の追跡期間中に収集しました。

 

研究の結果

研究者達は、難聴が男性参加者よりも女性や心血管疾患、肥満、うつ病、孤独感のある人々の中で、より一般的であることを発見しました。

 

難聴のあるグループは、聴力が損なわれていないグループよりも追跡期間中に認知症を発症する可能性が42%高いことも示唆されました。

 

そして、補聴器を使用している難聴のグループは、難聴のないグループと比較して認知症のリスクが同様であったとのことでした。

 

また、補聴器を使用しない難聴の方々は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症などを発症するリスクが高まることも示されました。

 

これらの研究結果は、未治療の難聴が認知症のリスクを増加させる可能性があることを示唆しています。

 

出典:Association between hearing aid use and all-cause and cause-specific dementia: an analysis of the UK Biobank cohort

 

補聴器はどれくらい使用されているのか

難聴を持つ人々が、補聴器を使用している割合は低いと言われています。2022年の日本補聴器工業会の調査によると、補聴器を所有する人は全国の難聴者の15.2%だと示唆されています。

 

補聴器を使用しない理由は主に、補聴器支給制度の認識の低さや使用面のわずわらしさ周りの目などがあると考えられています。

 

また、補聴器の価格が購入の判断の最も影響がある要素だと分析しています。

 

難聴は身近な人の説得とともに、未治療の難聴の影響についての認識を高めることや、補聴器を入手しやすい手頃な価格にするといったことも重要だと考えられています。

 

出典:JapanTrak 2022 調査報告

 

補聴器の使用を嫌がる難聴の人を説得する方法

補聴器の使用に対して抵抗感を示す方を説得するための方法はいくつかあるとされています。以下に、補聴器を嫌がる難聴の方への3つのアプローチをご紹介します。

 

理解と共感を示す

補聴器の使用を初めて考える方にとって、新しい器具を身に付けることによるは恐怖感を伴うものとされています。

 

その根底には、自己の聴覚能力の問題を認識することへの恐怖や、補聴器による生活の変化への不安があるかもしれません。

 

これらの感情を無視するのではなく、理解し、共感してあげることで、相手が自己の立場を受け入れてくれることがあるとされています。

 

具体的なメリットを伝える

補聴器が生活の質を改善する具体的な方法について説明してあげることが効果的とされています。

 

例えば、テレビの音量を下げられる、会話を聞き取りやすくなる、社会活動に積極的に参加できるようになる等のメリットに加え、補聴器が認知症の将来発症リスクを低減する可能性についての最新の研究結果を共有するのも良い方法かもしれません。

 

補聴器の試しに使ってみることを提案する

多くの補聴器を販売する販売店では、試用期間を設けているケースが多いとされています。

 

その使用期間を通じて、その使用感や機能性を直接体験することを提案すると良いでしょう。

 

実際に補聴器を試してみることで、そのメリットを実感でき、不安を克服する手助けとなることも多いようです。

 

認知症と難聴を予防する他の方法は?

認知症と難聴は、補聴器を着用すること以外にも予防法がいくつかあります。一つの予防法に固執することだけではなく、いくつかの予防法を頭に入れ、実践することがより効果的であるとされています。

 

認知症を予防する方法

以下の方法が認知症の予防に効果的であるとされています。

 

人と交流する

運動習慣をつける

バランスのいい食事を心掛ける

脳を活性化する(読書、モノづくり、パズルなど)

タバコを避ける

飲酒を控える、もしくは断酒する

健康的な血圧と体重を維持する

 

認知症を予防する具体的な方法について、詳しく知りたい方は以下をご参考になさってください。

 

認知症の予防に関する記事一覧

 

難聴を予防する方法

以下が難聴を予防するのに適した方法だとされています。

 

テレビやスマートフォンなどの電子機器の音量を下げる

綿棒などを使って耳の奥を掃除することを控える

耳垢が気になる場合は、医師に相談する

定期的に聴力検査を行う

タバコやアルコールを控える

 

難聴と認知症の治療法について

難聴と認知症は適切な予防または治療を施すことを怠ると、生活の質の低下や他の健康問題の発症にもつながるとされています。

 

難聴の治療法

難聴の治療はその原因と程度によります。最も一般的な治療法は以下の通りです:

 

補聴器: 補聴器は、難聴の程度に応じて音を増幅し、聴覚を改善します。多くの種類の補聴器から最適なものを選択できます。補聴器の種類には、耳あな型、耳かけ型、ポケット型、メガネ型、特殊型などがあります。

 

薬物療法一部の難聴は抗生物質、ステロイドなどの薬物で治療できるとされています。この治療法は通常、感染症や特定の自己免疫疾患による難聴に対して用いられます。

 

人工内耳:重度の難聴や全く聞こえない場合、内耳に直接電気信号を送る装置になり、難聴の治療に効果的だといわれています。

 

手術:難聴の原因が感染症や腫瘍など物理的なものであれば、手術が適応となる場合もあります。

 

認知症の治療法(薬物、非薬物)

認知症の治療には、薬物療法と非薬物療法の二つの主要なアプローチがあります。

 

薬物療法:薬物療法は認知症の症状を軽減し、進行を遅らせることを目指します。主にアルツハイマー型認知症に対して有効な薬として、コリンエステラーゼ阻害剤やNMDA受容体拮抗剤があります。これらの薬は、脳内の化学物質のバランスを調整して記憶や認知能力を改善するのに一部効果的であるとされています。

 

非薬物療法:非薬物療法は生活の質を改善し、日常生活能力を維持することに焦点を当てています。具体的には、生活習慣の改善(適度な運動、健康的な食事、十分な睡眠)、認知症ケアの専門家からの心理的サポートや社会的な活動などが含まれます。

 

難聴と認知症に様々な治療法がありますが、これらの病態には根本的な治療法は存在しません。特に認知症は、発症すると症状が徐々に悪化する場合が多いと疾患とされています。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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