【肝臓と認知症の意外な関係】見逃されがちな肝硬変の兆候とは?

 

肝臓の病気は、肝臓自体の健康問題に留まらず、心筋梗塞やがんなど、他の重大な健康リスクを高めることが知られています。

 

しかし、最近の研究では、これらのリスクに加えて、肝臓の病気が認知症と関連性があることが示唆されています。

 

この記事では、認知症と肝臓の病気との間の意外なつながりや、特に肝硬変が認知機能にどのように影響を及ぼすかについて詳しく解説します。

 

 

認知症とは

認知症は、記憶力、思考力、判断力、言語力などの認知機能が持続的に低下する病気です。

 

世界保健機関(WHO)によると、全世界で約5,500万人が認知症を患っており、高齢化が進むにつれてこの数は2030年には7,800万人、2050年には1億3,900万人に増加すると推定されています。

 

認知症にはいくつかの主要な種類がありますが、その中でもアルツハイマー型認知症が全認知症患者の60~70%を占めており、次いで多いのが血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症です。

 

これらの認知症はそれぞれ異なる原因により発症し、症状や進行速度にも違いがあるとされています。

 

認知症の原因は多岐にわたりますが、最も顕著な要因は加齢と考えられています。

 

その他にも遺伝的要因生活習慣病心血管疾患、長期にわたるアルコールの過剰摂取脳疾患などが関与しているとされています。

 

現在のところ、認知症を完治させる治療方法は存在しませんが、薬物療法や生活習慣の改善、認知トレーニングなどにより症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を向上させる取り組みが行われています。

 

出典:World Health Organization: Dementia

 

【肝臓の病気について】脂肪肝、肝炎、肝硬変、肝がんなど

肝臓は、私たちの体で非常に重要な役割を担っています。

 

これには、有害物質の解毒、栄養素の代謝と貯蔵、薬物の処理などが含まれます。

 

しかし、肝臓疾患になると、これらの機能が大きく損なわれ、私たちの健康状態に深刻な影響を及ぼすとされています。

 

以下に肝臓の代表的な疾患とされる脂肪肝肝炎肝硬変肝がんについて解説します。

 

脂肪肝

脂肪肝は、肝臓の細胞に異常な脂肪が蓄積する状態です。

 

主にアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の二つの種類があります。

 

アルコール性脂肪肝は過度の飲酒が直接的な原因ですが、NAFLDは肥満、2型糖尿病、高脂血症といった代謝症候群と関連が深いとされています。

 

これらの状態は治療されない限り、より深刻な肝疾患へと進行する可能性があると注目されています。

 

肝炎

肝炎は肝臓の炎症を指し、その中でもウイルス性肝炎(特にB型およびC型)が広く知られています。

 

これらのウイルスは長期間にわたって肝臓に損傷を与え続けることで、肝硬変や肝がんのリスクを高めるとされています。

 

肝硬変

肝硬変は、肝臓に長期間ダメージが蓄積して起こる病態で、肝臓が硬くなり、肝臓の機能が低下する病気とされています。

 

この状態は正常な肝組織が瘢痕組織に置き換わることで起こり、重大な合併症を引き起こす原因となるようです。

 

肝硬変は、心筋梗塞や様々ながん、特に肝がんへと進行するリスクを高めることが知られています。

 

肝がん

肝がんは肝臓病の最も深刻な形態の一つで、肝硬変の末期に発生することが多いとされています。

 

肝がんは早期に発見されない場合、治療が困難であり、日本では年間約3万人がこの病気で亡くなっています。

 

発症要因には、B型およびC型の肝炎ウイルス、長期のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。

 

出典:肝がん白書 - 日本肝臓学会

 

認知機能を低下させる肝硬変、認知症と間違われやすい?

 

肝硬変の進行は、重大な合併症である肝性脳症を引き起こし、認知機能の低下につながると考えられています。

 

肝性脳症は、肝臓の有害物質の解毒機能が損なわれた結果発生するとされています。

 

この状態で、アンモニアなどの毒素が適切に処理されず、これらが血流を通じて脳に達し、脳機能に悪影響を及ぼします。

 

この状態は、記憶力の低下、判断力の欠如、注意力の散漫、精神運動機能の低下などの症状を引き起こし、重度の場合には意識の混濁に至ることもあるとされています。

 

これらの症状は、日常生活において重要な影響を及ぼし、患者の自立性や生活の質を著しく低下させる可能性があるようです。

 

肝性脳症の発生原因は、主に肝硬変による肝機能の低下ですが、感染症、腸内細菌の異常増殖、たんぱく質の過剰摂取、腎機能障害なども関与することが知られています。

 

肝硬変による肝性脳症と認知症の関係

さらに、肝性脳症と認知症は症状が重なるため、診断が複雑になることがあります。

 

2024年1月に公開されたバージニア・コモンウェルス大学の報告によると、診断された認知症患者の約10%が、誤って認知症と診断された肝性脳症であることが明らかになりました。

 

特に高齢者においては、肝硬変による認知機能の低下が見逃されがちであり、適切なスクリーニングが行われないことが多いと指摘されています。

 

肝性脳症の診断には、通常の認知評価テストに加えて肝機能テスト、アンモニアレベルの測定、腹部の画像診断が必要だといわれています。

 

これらの検査により、肝性脳症が原因である場合の治療方針が決定され、認知症と異なり、適切な医療介入で症状の改善が見込めるとされています。

 

肝性脳症が確認されれば、その治療によって認知機能の改善が期待できるため、肝硬変と認知症の診断及び管理は、患者の生活の質を向上させるために非常に重要です。

 

出典:Undiagnosed Cirrhosis and Hepatic Encephalopathy in a National Cohort of Veterans With Dementia

 

肝臓の病気・肝硬変の予防対策とは

肝性脳症の治療には、まず原因となる肝硬変の管理が必要です。

 

そして、肝硬変が原因で発生する認知症のリスクを減少させるためには、肝臓の健康を積極的に管理することが不可欠です。

 

肝硬変とそれに伴う認知機能障害の理解と管理は、患者さんの生活の質を維持し、さらなる健康悪化を防ぐために重要とされています。

 

肝硬変による認知症を予防するための基本的な対策は、以下の通りです。

 

① 定期的な健康診断  

肝機能の定期的な検査は、肝硬変の早期発見とその進行の監視に不可欠です。

 

血液検査(肝機能試験)では、ALT、AST、アルカリホスファターゼ、ビリルビンのレベルが測定され、肝細胞の損傷や肝臓の総合的な機能が評価されます。

 

超音波検査を通じて、肝臓の構造的な変化や異常が早期に確認されることが可能です。

 

定期的な肝機能の検査により、肝性脳症の早期兆候を捉え、速やかに対応することが可能になります。

 

② アルコール摂取の制限 

アルコールは肝臓に直接的な毒性を持ち、肝硬変の一般的な原因の一つです。

 

アルコールの摂取を減らすことは、肝臓の負担を軽減し、肝硬変のリスクを低下させる効果があります。

 

また、適切な水分補給と電解質のバランスの維持も重要であり、定期的な医療チェックと綿密なケアが必要とされます。

 

③ 健康的な食生活の維持  

肝臓の健康を支えるためには、バランスの取れた食事が必要です。

 

特に、脂肪の過剰な摂取を避け、野菜や果物を豊富に含む食事を心がけることが推奨されます。

 

脂肪肝を予防することは、肝硬変進行の抑制に直結します。

 

これに加えて、食事療法によるたんぱく質の摂取制限や、ラクツロースといった腸内細菌を調整する薬剤の使用が一般的とされています。

 

これらの治療により、腸内で生成されるアンモニアの量を減少させ、脳への影響を軽減することができるといわれています。

 

④ 適切な体重管理と運動 

肥満は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)のリスクを高め、肝硬変へと進行する可能性があると考えられています。

 

定期的な運動と健康的な体重の維持は、これを防ぐために重要です。

 

適度な運動と体重管理を行うことで、肝臓への脂肪蓄積が減少し、肝細胞の損傷が抑えられます。

 

これにより、肝臓の炎症が減少し、肝硬変の進行を遅らせることができるため、間接的に認知機能の低下リスクを減らす効果が期待できます。

 


 

肝硬変による認知症は、肝臓の健康を維持することで大きく予防することが可能です。

 

健康診断の利用、生活習慣の改善、そして早期介入が鍵となります。

 

認知症の予防対策

認知症の発症を予防するためには、健康的な生活習慣の維持が非常に重要です。

 

日常生活の中で取り入れることができる習慣や活動が多数存在し、それらは認知機能の低下を防ぐだけでなく、全体的な健康状態の向上にも繋がります。

 

以下の予防対策を参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

① 定期的な身体活動の実施

運動は血流を促進し、脳に酸素と栄養を供給する役割を果たします。

 

週に数回、中程度の運動(歩行、水泳、サイクリングなど)を30分程度行うことで、認知症のリスクを低減できると報告されています。

 

② 社交活動の維持

社交的な活動は、脳を刺激し、ストレスを軽減する効果があるとされています。

 

親しい友人や家族との交流は、孤独感を減少させ、認知機能の維持になると推奨されています。

 

③ 栄養豊富な食事の摂取

特にオメガ3脂肪酸やビタミンEが豊富な食品は、認知機能の維持に役立つと言われています。

 

オメガ3脂肪酸は、魚類(鮭、鮪、鯖など)、ビタミンEは、ナッツ類や種子類、緑葉野菜などに多く含まれています。

 

④ 十分な睡眠の確保

良質な睡眠は脳の健康を保つ上で不可欠です。

 

睡眠中には、脳内の有害な廃棄物が清掃され、記憶の定着が行われます。

 

一晩に7〜9時間の睡眠を取ることが、認知症予防に効果的とされています。

 

⑤ ストレス管理

長期にわたるストレスは、認知症のリスクを高める可能性があると考えられています。

 

リラクゼーション技術の習得(瞑想、深呼吸、ヨガなど)や、趣味の時間を設けることで、心の健康を保ち、認知症予防に効果的です。

 


 

これらの予防策は、個々の生活環境や健康状態に応じて適応することが推奨されています。

 

定期的な医療機関での認知機能検査を受け、個別のリスクや病状に応じた具体的な対策を立てることも重要です。

 

まとめ

これまで、認知症と肝臓の健康に関連する重要な情報を詳細に解説しました。

 

肝臓疾患が認知機能に及ぼす影響は意外と知られていないかもしれませんが、肝硬変や肝性脳症が認知症様の症状を引き起こすことがあるとされています。

 

健康的な生活習慣の維持と定期的な健康診断が、これらの疾患の予防になります。

 

認知症や肝臓病のリスクを減らすためにも、バランスの取れた食事、適度な運動、適切なアルコール摂取量の管理を心がけましょう。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

 

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MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも

 

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

 

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。

 

一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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