50歳、60歳と年齢を重ねていくと、認知症がより現実的な問題として感じられるようになってきます。認知症予防のためにできることはないかと探している方も多いでしょう。実は、認知症予防のために何か特別なことをする必要はありません。いつも楽しんでいる趣味活動を通して認知症の予防を目指すこともできるのです。認知症の予防になぜ趣味活動が役立つのか、どのような趣味が効果的とされるのかについて解説します。
認知症予防に趣味が効果的?
認知症にはさまざまな種類があり、それぞれ発症する原因も異なります。
例えば、認知症の1つであるアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβなどの物質が蓄積することで発症することが分かっていますが、なぜ加齢とともにアミロイドβが蓄積するのか、アミロイドβの蓄積量に個人差があるのかなどは明確には分かっていません。そのため、原因が分かったとしてもアルツハイマー型認知症を完全に予防することは現時点では難しいと言えます。
しかし、趣味を楽しむといった日常的な活動によって認知症予防を目指せるということは分かってきています。国立長寿医療研究センターが実施した実証実験では、休日や余暇に「家でごろ寝」をすることに多くの時間を使っている人や「買い物、外食」といった日常生活の延長上にある事柄に多くの時間を使っている人に比べて、以下でオススメする様な「趣味」活動に時間を使っている人は、2年後に認知機能を維持できている確率が高いことが示されました。認知機能を保ち、健康で自立した生活を続けるためにも、趣味に時間を使うことは有意義だと言えるでしょう。
認知症予防には「続けること」が大切
国立長寿医療研究センターの実験では、余暇に趣味活動をすることが多い人は認知機能を維持しやすいことが示されています。つまり、時折趣味活動をするだけでは、認知機能を健常なままで維持できるとは限らないのです。
認知症を予防するためにも、継続的に趣味活動に取り組むようにしましょう。もちろん趣味を1つに絞る必要はありません。気になることや好きなこと、友人と楽しめることなどに興味を示し、休日や余暇の時間を趣味に使っていきましょう。
認知症改善ではなく認知症発症を遅らせる効果を期待できる
国立長寿医療研究センターの実験は、認知機能に問題がない方を対象に実施されました。つまり、認知症を発症した場合に関しては、認知機能が改善されるとは証明されていません。
しかし、趣味活動によって認知機能を維持することが可能ということは、認知症を発症する時期を遅らせることが可能ということを意味しています。できる限り長く脳の健康を維持したい方は、休日や余暇はごろ寝や買い物などで大半の時間を使ってしまうのではなく、興味を持って取り組める趣味活動に充てるようにしましょう。
認知症予防に効果を期待できる趣味
休日や余暇を趣味に費やすことで、認知症発症を遅らせる効果を期待することができます。どのような趣味であっても、本人が興味を持って取り組むならばある程度の効果は期待できますが、せっかくなら「より効果を期待できる趣味を選びたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
ここでは、認知症予防に効果を期待しやすい趣味を5つ紹介します。熱中できる趣味をお持ちでない方は、ぜひ参考にしてみてください。また、すでに趣味をお持ちの方も、新たな趣味としていくつか加えてみてはいかがでしょうか。
1.ウォーキングなどの軽い運動
認知機能に衰えが見られてはいるものの、日常生活にはあまり影響を及ぼさない状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。軽度認知障害は認知症の前段階となることがあり、軽度認知障害から認知症に進行することもあれば、適切な治療やさまざまな予防活動によって健常な状態に戻ることもあります。
平成22年に実施された介護予防実態調査分析支援事業では、軽度認知障害の方にウォーキングなどの有酸素運動やストレッチ、筋トレなどの運動プログラムを定期的に実施したところ、認知機能の維持や記憶機能の向上が見られました。このことから、ウォーキングなどの適度な運動は、認知症予防の効果を期待できることが分かります。
運動を続けることは、筋力アップ・体力アップにもつながります。脳も身体も健康に生活していくためにも、趣味の1つに軽い運動を加えてみましょう。
2.手芸などの手先を使う作業
手先を使う作業は脳を刺激するため、認知症予防の効果を期待できます。手芸や塗り絵、ジグソーパズルなどを趣味で楽しんでみてはいかがでしょうか。また、パソコンで作業をすることも、手先を使うため脳の活性化を期待できます。
3.嗅覚を刺激するアロマ
アロマで嗅覚を刺激することで、アルツハイマー型認知症の患者に認知機能の改善が見られたという鳥取大学の研究からも、認知症予防や認知機能の改善を目指してアロマを生活に取り入れることを検討できるでしょう。
例えば、アロマオイルを入れたペンダントやディフューザーを使えば、火を使わずにアロマを香らせることができ、安全にアロマを楽しめます。次の記事ではアロマの効果や認知症予防に良いとされる種類、楽しみ方について詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
4.グッズを使った指体操
手指を動かすだけでも脳に刺激を与え、認知症予防の効果を期待できます。しかし、単に指を動かすだけでは、面白みに欠け、短期間で飽きてしまうかもしれません。
お手玉や知恵の輪などのグッズを使い、空いた時間に指を動かしてみてはいかがでしょうか。慣れてきたら難易度を上げ、飽きないように工夫していきましょう。
5.デートやダンス
老いていくに従い、ドキドキしたり、何かを期待してソワソワしたりする機会が減り、ポジティブな意味での感情の起伏は少なくなってくるかもしれません。夫婦でデートやキスをしたり、ダンス教室に通ったりすることでときめきを生活に加え、脳を刺激し、気持ちも若々しく保っていきましょう。
趣味を続けるポイント
趣味活動は認知症の特効薬ではありませんが、定期的に続けていくことで、認知症を予防する効果が期待できるようになります。趣味を続けていくためのポイントを紹介していきますので、ぜひ実践して、継続していきましょう。
サークルや教室に参加する
一人で楽しむ趣味も良いですが、余程強い意志がないと続けることは難しいかもしれません。同じ趣味の人が集まるサークルや教室に参加し、続けやすい環境を作っておきましょう。
また、サークル等で知り合えた仲間と積極的にコミュニケーションを取ることも、認知症予防に効果があります。親しい友人ができれば、続けるモチベーションにもなるでしょう。
絶妙な距離感を大切にする
趣味に没頭することは悪いことではありませんが、あまりにも必死になり過ぎると仲間との関係に影響を及ぼすこともあります。例えば、友人と麻雀を楽しむことは認知症予防にもつながる趣味活動ですが、勝敗にこだわって喧嘩になるのでは意味がありません。
反対に「勝ち負けなんかどうでも良い」といい加減な気持ちで取り組むのも、面白みが半減してしまいます。趣味活動を行うときは真剣に取り組み、終わった後は頭を切り替える等、趣味との距離感を大切にしてください。
複数の趣味を楽しむ
仕事や育児に忙しいときは1つの趣味でもなかなか取り組めませんが、退職後や育児終了後の余裕があるときには1つの趣味だけでは時間が持ちません。運動系を1つ、手先系を1つ、頭脳系を1つ等、複数の趣味を楽しんでみてはいかがでしょうか。それぞれの趣味を週に1、2回行えば、飽きずに長く楽しめます。
認知機能の衰えは定期的な測定で早期察知が可能
認知機能の衰えはゆっくりと進行します。そのため、家族や本人でさえもが初期の段階で察知することは困難かもしれません。とはいえ、認知症を予防するためには、認知機能の衰えをできるだけ初期の段階で知る必要があります。ここでは、認知機能の衰えを早期に知る意義と具体的な方法について解説します。
早期発見が機能低下を遅らせることにつながる
認知症の中には治療によって治癒を目指せるものもあります。しかし、認知症全体の約6割を占めるアルツハイマー型認知症は治療が難しく、一旦発症すると長期にわたって治療や介護が必要な状態になってしまいます。
一方で、認知症を発症する前段階である軽度認知障害(MCI)の状態で気付くことができれば、適切な治療やトレーニング等によって認知症発症を遅らせたり、健常な状態に回復したりするケースもあります。つまり、認知症を予防するためにも、認知機能の衰えを早期に察知することが有用だと考えられます。
趣味を楽しむことで認知症予防を目指しましょう
趣味を楽しむことで、認知症予防を目指すことが可能です。すでにお持ちの趣味を極めたり、新たな趣味を開発したりすることで、充実した余暇を送るようにしましょう。
また、ご自身の認知機能を測定することも有用です。衰えを早期に察知できるように、定期的に測定する習慣をつけてみてはいかがでしょうか。認知症保険に加入しておけば、万が一のときにも経済的な補償を得ることができます。認知症になる可能性を意識し、多方面から準備しておきましょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。