便秘が認知症を悪化させる?便秘薬も認知症リスクを51%上昇

現在、認知症を完全に治療する方法は見つかっておらず、発症の原因も完全には解明されていません。年齢持病ストレス遺伝など、多岐にわたる要因が関与していると考えられています。

最近では、便秘が認知症のリスクを高める可能性があることを示す研究が発表されました。認知症は記憶力、判断力、言語能力などの認知機能が徐々に衰える深刻な病態です。

この記事では、認知症と便秘との関連性、その原因、そして改善方法について詳しく解説します。

便秘とは

便秘は大便の排出が難しくなる状態を指します。通常は1週間に3回未満の排便や硬い便、排便するときの不快感やおなかの膨満感として現れます。

アメリカ国立医学図書館によると、大人の平均的な便秘の有病率は世界中で16%と推定されており、60歳から110歳の大人には33.5%の有病率が見られていると示されています。

便秘には、機能性便秘、器質性便秘、症候性便秘、薬剤性便秘の4つの種類があり、機能性便秘が一番一般的な便秘の種類だといわれています。

便秘の原因はさまざまあり、不規則な生活習慣不均衡な食生活水分摂取の不足ストレス特定の薬物の使用あるいは体内のホルモンバランスの変化などが考えられます。

便秘を放置すると、腸の機能異常や痔、さらには不安障害やうつ病などを引き起こすリスクが高まるとされているため、生活習慣の見直しや適切な対処が求められます。

出典:日本臨床内科学会「便秘」

出典:Chronic constipation

認知症と便秘の関係

高齢になるほど発症しやすい便秘と認知症の間に関係性があることが、最近の研究で示唆されています。

2023年7月に公表された研究によると、便秘と認知機能の低下との関連が詳しく調査されました。この研究では、三つのコホート研究で集められた12,696人の一年間の排便頻度と認知機能を約6年間調査しました。

研究者たちは3日に1回以下の排便頻度を持つグループの認知機能の低下のリスクが、73%高まることを発見しました。

この結果から、便秘が認知機能の低下を引き起こす可能性があると結論付けされています。

出典:Constipation Associated with Cognitive Aging and Decline

便秘が認知症の発症リスクを上げる原因

便秘が認知症のリスクを増加させる原因はいくつか考えられていますが、現時点では研究不足のため、原因はまだ解明されていません。考えられる原因は以下のようなものがあります。

まず、長期間にわたる便秘は腸内で便が滞留し、これが炎症と毒素生成を引き起こす可能性があるとされています。この炎症や毒素は脳に影響を及ぼし、認知症のリスクを高める要因となるようです。

また、腸内フローラは脳との相互作用に関与しているといわれています。便秘は腸内フローラを乱すため、脳の機能にも悪影響を与える可能性があるとされています。

さらに、便秘による身体的な不快感とストレスが、慢性的なストレスとなり、認知症の発症リスクを増加させる要因となることがあるとされています。

これらの要因が組み合わさって、便秘と認知症の関連性が生じると考えられています。

便秘薬を摂取し続けると認知症になる?

便秘薬の使用が腸内フローラの組成に影響を与え、免疫反応に長期的な変化を引き起こす可能性があるといくつかの研究で示唆されています。

そして、便秘薬による腸内フローラの変化が、認知症の指標である毒素の生成を増加させる可能性があると指摘されています。

2023年の4月に公表された研究では、認知症の発症と便秘薬の使用の関連性が調査されています。 502,229人の参加者のデータを使用し、研究者は便秘薬の使用が認知症のリスクを51%脳血管性認知症のリスクを65%増加させることを報告しています。

さらに、定期的に摂取する便秘薬の数に比例して認知症のリスクが増加することも示されています。 1つの便秘薬タイプを使用するグループは、認知症のリスクが28%増加し、2つ以上の便秘薬を使用したグループは、非使用者と比較して認知症のリスクが90%増加しました。

しかし、長期的な便秘や便秘薬の摂取が必ずしも認知症の発症につながるとは確証されていません。便秘の症状や認知症になったか気になる方は、医療機関を受診することを推奨します。

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出典:Association Between Regular Laxative Use and Incident Dementia in UK Biobank Participants

便秘薬を使わずに便秘を改善する方法

便秘薬に頼りたくない場合、自然に便秘を改善する以下の方法を試してみましょう。

水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスが取れた食事

便秘を改善するためには、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスが取れた食事の摂取が鍵となります。

水溶性食物繊維は水を吸収し、ゲル状に変わる特性があるため、便が柔らかくなります。一方、不溶性食物繊維は腸の動きを活発にし、排便を促進します。

一般的には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を1:2の割合で、男性は約21g以上、女性は約18g以上摂取することが推奨されています。

水溶性食物繊維不溶性食物繊維
海藻(昆布、わかめ、のり等)野菜(大根、枝豆、ブロッコリー、ほうれん草等)
果物(キウイ、みかん、プルーン、もも等)穀類(オートミール、ライ麦、玄米、ポップコーン等)
いも(さつまいも、里芋)きのこ(きくらげ、しいたけ、えのき等)
大麦豆類(あずき、きな粉、えんどう豆等)

こまめに水分補給をする

成人は1日約2リットルの水分を補給することが基準とされています。起床時に水を一杯飲むとスムーズに排便する習慣がつくれる。

コーヒーを飲む

即効性があるコーヒーを飲むことも便秘の改善に良いとされています。しかし、コーヒーを飲みすぎると、水分不足や睡眠不足になる可能性があります。

コーヒーは、1日2~3杯までにし、15時以降は摂取しないようにすることが適切とされています。

6時間以上の睡眠をとる

十分な睡眠時間を確保できない状態が続くと、体が正常に機能しにくくなり、便秘を引き起こす可能性があります。1日6時間以上の睡眠をとることを目安にしましょう。

運動やマッサージで腸を刺激する

腹部を刺激する運動が便秘の改善に効果的だと推奨されています。例えば、腹筋、ダンス、水泳、テニスなどで腹部を鍛えることができます。

プロバイオティクスをとる

プロバイオティクスは、特定の有益な微生物や細菌を含んでいる健康サプリです。腸内フローラのバランスを整える効果があるため、便秘の改善も期待できるとされています。

また、プロバイオティクスは認知機能の低下を遅らせる可能性があると言われています。

出典:The gut microbiome, mild cognitive impairment, and probiotics: A randomized clinical trial in middle-aged and older adults

以上の改善方法を実践しても便秘が良くならない場合は、医療機関を受診することを推奨します。

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

便秘を改善することだけでは、認知症の発症を回避することはできません。

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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