軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階とされ、適切な対応が認知機能の低下を抑えるために重要です。
この記事では、軽度認知障害の初期症状や進行する症状、原因とリスク要因、早期発見の重要性、そして具体的な対策について詳しく解説します。
早期発見によって、適切な対応や治療を行うことで、認知機能の低下リスクを最小限に抑えることが可能になります。
軽度認知障害(MCI)って何?
軽度認知障害(MCI)は、年齢に伴う正常な老化と認知症の間に位置する状態で、記憶や思考に問題が生じます。この状態を放置したりすると、症状が悪化してしまい、認知症を発症する可能性が高まるとされています。
軽度認知障害の症状は認知症ほど深刻ではなく、日常生活に大きな支障をきたすことは少ないですが、通常の老化よりも明らかな認知機能の低下が見られます。例えば、最近の出来事を忘れる、同じ質問を何度も繰り返す、友人や家族の名前を思い出せないといったことが頻繁に起こることがあります。
軽度認知障害の症状は、本人や周囲の人々によって気づかれることが多く、これが医師の診察を受けるきっかけとなります。診察では、詳細な記憶テストや認知機能の評価が行われ、必要に応じて追加の検査が実施されます。これには、脳のスキャン(MRIやCTスキャン)や血液検査が含まれることがあります。
MCIは、単なる年齢による記憶の減退とは異なり、より顕著で一貫した認知機能の低下を示します。厚生労働省の推計によると、2022年時点で日本の高齢者における軽度認知障害の有病率は15.5%であり、2040年には612.8万人に達すると予測されています。
出典:厚生労働省 老健局 認知症施策・地域介護推進課 「認知症施策について」
軽度認知障害(MCI)の初期症状
軽度認知障害(MCI)の初期症状は、通常の老化認知機能低下と見分けがつきにくいため、多くの人にとって見過ごされがちです。
軽度認知障害の初期症状の一つに記憶力の低下があります。具体的には、最近の出来事を忘れがちになり、例えば、友人との会話の内容や重要な約束を思い出せないことが増えてきます。同じ質問を何度も繰り返すこともよく見られます。これらの記憶力の問題は、家族や友人からも指摘されることが多いです。
言語に関する問題もMCIの初期症状の一つです。会話中に適切な単語がすぐに出てこないことがあり、言葉を探すのに時間がかかることがあります。例えば、普段はスムーズに話せていたのに、突然言葉が出てこなくなり、会話の流れが止まってしまうことがあります。このような言語の問題は、コミュニケーションの質に影響を与えることがあります。
注意力の散漫も軽度認知障害の初期症状として見られます。集中力が続かず、複数の作業を同時にこなすのが難しくなります。例えば、本を読んでいても内容が頭に入ってこない、仕事や家事に集中できないといった問題が発生します。このような注意力の低下は、日常生活の効率に影響を及ぼす可能性があります。
これらの症状は、日常生活においてわずかに影響を与えることが多いですが、大きな支障をきたすことは少ないです。しかし、初期段階でこれらの症状を発見し、専門医による診断を受けることが重要です。
軽度認知障害(MCI)が進行すると出現する症状
軽度認知障害(MCI)が進行すると、認知機能の低下がさらに顕著になり、日常生活により大きな影響を及ぼすことがあります。例えば、問題解決や意思決定が難しくなり、以前は容易に行えた複雑なタスクの計画や実行が困難になることがあります。具体的には、支払いや買い物、料理といった日常の活動が困難になることがあります。これにより、独立した生活を維持することが難しくなり、他人の助けを必要とする場面が増えることがあります。
また、MCIが進行すると、動作の困難や歩行の不安定さ、運動のぎこちなさも見られることがあります。例えば、階段の昇り降りやバランスを取ることが難しくなり、転倒のリスクが高まる可能性があります。このような身体的な問題は、外出や運動を避ける原因となり、生活の質を低下させる要因となります。運動の減少はさらに認知機能の低下を促進する悪循環を引き起こすことがあります。
さらに、嗅覚の問題が現れることもあります。具体的には、匂いの認識が難しくなり、食べ物の腐敗やガス漏れといった重要な匂いに気づかないことがあります。嗅覚の低下は、食欲の減退や栄養状態の悪化につながる可能性があり、全体的な健康状態に悪影響を及ぼすことがあります。
これらの症状は、日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。例えば、料理が困難になると食事の準備ができず、栄養バランスの悪い食事を摂ることになります。また、嗅覚の低下により、食べ物の腐敗やガス漏れに気づかず、健康や安全に影響を与える可能性があります。このような状況に対処するためには、家族や介護者のサポートが不可欠です。
以上のような、軽度認知障害の進行症状を防ぐためには、疾患への早期対応が必要とされています。
軽度認知障害(MCI)の原因とリスク要因
軽度認知障害(MCI)の原因は多岐にわたり、年齢の進行が主要なリスク要因とされています。高齢になるほど、脳の構造と機能に変化が生じやすくなり、軽度認知障害の発症リスクが高まるとされています。しかし、年齢以外にも多くの要因がMCIに影響を与えることが研究によって示されています。
遺伝的要因も軽度認知障害のリスクに関与しています。家族にアルツハイマー病やその他の認知症の患者がいる場合、その家系の人々はMCIを発症するリスクが高まる可能性があります。また、特定の遺伝子変異が認知機能の低下に関連していることも報告されています。
健康状態も軽度認知障害のリスク要因として重要です。糖尿病や高血圧、うつ病、脳卒中などの慢性的な健康問題は、脳への血流や栄養供給に影響を与え、認知機能の低下を引き起こす可能性があります。これらの健康問題を適切に管理することが、MCIの予防において重要です。例えば、血糖値や血圧をコントロールすることで、脳の健康を保つことができます。
また、薬物の副作用や過剰摂取もMCIのリスクを高める要因とされています。一部の薬物は、長期間の使用や高用量での使用が認知機能に影響を及ぼす可能性があります。感情的な問題や過度のアルコール摂取も脳に悪影響を与えることがあり、これらの要因を避けることがMCIの予防に繋がります。さらに、脳の血栓や腫瘍、頭部外傷もMCIの原因となることがあります。これらの物理的な障害が脳の健康を損ない、認知機能の低下を引き起こすことがあります。
軽度認知障害(MCI)の早期発見と診断の重要性
軽度認知障害と認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
初期段階での発見により、認知機能の低下を遅らせ、生活の質を維持するための対策を講じることができます。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
🔰 認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、「認知機能セルフチェッカー」を導入している医療機関リストからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
軽度とはいえMCI(軽度認知障害)を放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
軽度認知障害(MCI)や認知症への予防対策
軽度認知障害(MCI)と認知症は異なる段階の認知機能低下を指しますが、その予防対策には多くの共通点があります。どちらも認知機能の低下を遅らせるために、生活習慣の見直しが重要です。適切な生活習慣を維持することで、軽度認知障害の進行を遅らせ、認知症のリスクを低減することができます。
認知機能の健康を維持するためには、以下のような生活習慣の改善が必要です。これらの対策は、軽度認知障害や認知症のリスクを低減するために非常に効果的とされています。WHOが推奨する認知症予防の対策を以下にリストアップします。
・定期的な運動(特に、有酸素運動や筋力トレーニング)
・禁煙
・健康的な食事(地中海食やDASH食(高血圧防止食)などのバランスの取れた食事)
・適度な飲酒
・認知トレーニング(読書やパズル、計算問題などの認知活動を継続する)
・社会的活動
・体重管理
・高血圧の管理
・糖尿病の管理
・脂質異常症の管理
・うつ病への対応
これらの予防対策を実践することで、認知機能の低下を遅らせ、MCIや認知症のリスクを低減することができると考えられています。WHOのガイドラインに基づき、生活習慣を見直し、健康的な生活を送ることが推奨されています。
出典:認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン
最後に
軽度認知障害(MCI)は、適切な対応と生活習慣の改善により、その進行を遅らせることが可能であるとされています。
早期発見と診断、そして適切な治療計画を通じて、認知機能の低下を最小限に抑え、生活の質を維持しましょう。
家族や介護者のサポートも重要であり、適切な情報と理解を持つことで、軽度認知障害に対処するための効果的な対策を講じることができます。