【徹底解説】被害妄想は認知症のサイン?対処法や種類,原因,治療法など

 

認知症の症状を思い浮かべてみると、「物忘れ」や「記憶力低下」などの症状が主に挙げられると思います。しかし、「被害妄想」も認知症の症状の一つだとご存じでしょうか?

 

被害妄想の症状は、統合失調症などの精神疾患の代表的な症状ですが、実際、認知症の患者にもよく見られると言われています。

 

この記事では、被害妄想の症状と認知症の原因や対処法などを徹底解説します。

 

 

被害妄想とは

被害妄想は、現実とは異なる信念や考えを持つことであり、自分が他人から迫害や危害を受けていると信じる状態です。例えば、他人が自分を監視していると感じたり、悪口を言われていると思ったり、実際現実では起きなかったことを妄想します。

 

被害妄想をする人は、現実的な証拠がなくても、強い確信を持って自分の妄想を信じます。他人が合理的に反論しても、自分の考えが事実だと貫き通す傾向があります。被害妄想をする人の特徴的な行動は、「独り言」や「作り話」などが挙げられます。

 

被害妄想は、精神疾患や薬物の副作用など、さまざまな要因によって引き起こされることがあります。これらの症状がある人は、現実との区別がつかなくなることがあり、日常生活に支障をきたすと言われています。

 

認知症と被害妄想の関係

認知症は、時間とともに徐々に脳にダメージを与える病気です。認知症による脳への損傷が、認知機能を悪化させ、その人の思考力や判断力の低下を引き起こします。

 

その能力の低下から、認知症の方は被害妄想を経験することが多く、周囲の人たちに対する不信感が生じやすくなると考えられています。

 

2020年の研究によると、調査を行った302院の医療機関では約40%の認知症患者が妄想と幻聴を経験していると示唆されています。

 

ただし、認知症患者の間で妄想や幻覚がどれくらい一般的かは、推定するのが難しいのが現状です。

 

特に認知症の後期の段階では、患者は自分の経験について他人に話すことができない場合があるため、正確に測定するのは困難だといわれています。

 

出典:The incidence of dementia-related psychosis in people with dementia: Results from a survey of 302 U.S. healthcare providers

 

また、現時点では被害妄想の症状は認知症のどの段階でも発生する可能性があります。そのため、患者の状態がどのように進行するかを予測する方法は存在しません。

 

精神的な健康や行動に影響を与える形態の認知症では、病気の進行に伴い早期に被害妄想が現れる場合があります。

 

アルツハイマー型認知症などの他の形態の認知症では、被害妄想は病気の後期に発生する場合もあります。

 

認知症による被害妄想の種類

認知症による被害妄想の種類には、以下のようなものがあります。

 

認知症による被害妄想の種類① 物盗られ妄想

認知症の患者は物事を忘れやすいため、自分がどこに何を置いたか覚えていないことがよくあります。

それにより、「誰かが私の物を盗んだ」という妄想を抱くことがあります。

 

これは、自分の記憶力の衰えを他人の非に帰するという防衛機制の一種とも解釈できると言われています。認知症の種類の中では、アルツハイマー型認知症に物盗られ妄想がよく見られるとされています。

 

認知症による被害妄想の種類② 見捨てられ妄想

認知症の患者は、家族や介護者が自分を見捨てたと感じることがあります。

 

これは、自分が周囲の人々に依存している状況や、他人との時間的・空間的な関係性を理解する能力が衰えると見捨てられ妄想になる可能性が高まるとされています。

 

認知症による被害妄想の種類③ 迫害妄想

認知症の進行に伴い、理解できない状況や出来事を誤解し、「自分は他人から攻撃されている」または「陰謀に巻き込まれている」と感じることがあります。

 

このような迫害妄想は、自分の経験や状況を理解し、解釈する能力が減少した結果生じるとされています。

 

認知症による被害妄想の種類④ 嫉妬妄想

特定の認知症患者は、パートナーや親しい人々が自分を裏切って他人と浮気をしていると考えることがあります。

 

これは、理解力の低下と記憶の問題が組み合わさった結果、間違った解釈が生じることによるとされてます。

 

認知症が被害妄想症状を引き起こす原因

被害妄想の症状を引き起こす原因は以下が主に挙げられます。

 

脳損傷

認知症は、脳にダメージを与える病気であるため、認知機能の低下を引き起こし、合理的に考える力も低下する可能性があります。その結果、被害妄想になりやすいと考えられています。

 

幻覚

 幻覚は、存在しないものを見たり聞いたりする症状です。例えば、レビー小体認知症の患者は、視覚的な幻覚を経験することが多いと言われています。

 

このような幻覚が、他人が自分を傷つけようとしているという誤解や被害妄想を引き起こす可能性があります。

 

記憶障害

記憶障害は認知症の主な症状の一つで、特にアルツハイマー型認知症によくみられるとされています。認知症の患者は日常的な出来事や話した内容、大切な物をどこに置いたかを忘れることがあります。

 

この結果、「誰かが私のものを盗んだ」、「誰かが私にうそをついた」などの被害妄想を抱くことがあります。

 

恐怖や不安

認知症が進行すると、環境の理解や自己の認識が難しくなります。これは、周囲が理解できなくなり、恐怖や不安を感じることにも繋がります。

 

これらの感情が高まると、「私は危険にさらされている」、「誰かが私に対して敵意を持っている」などの被害妄想を抱く可能性が高まります。

 

せん妄

他の可能性として、被害妄想の原因となるのがせん妄です。せん妄は、根底にある他の病気によって突然発生する意識の混乱状態です。この状態は認知症のある人、ない人のどちらにでも発生します。しかし、せん妄は被害妄想や幻覚を引き起こすこともあるため、認知症の症状と区別するのが難しいとされています。

 

認知症の被害妄想はなくなるのか

被害妄想の症状がどれくらい続くか、またその症状がどれくらい長く現れるかを予測する方法はありません認知症の種類は様々であり、人によって異なる症状が現れます。

 

一部の人は、一時的に被害妄想を抱えることがある一方で、継続的に被害妄想の症状が現れる人もいます。

 

混乱した状態にある場合や、せん妄を経験している場合には、被害妄想が悪化することもあるといわれています。

 

また、せん妄によって引き起こされた被害妄想の場合、せん妄が続く限り被害妄想も続く可能性があるとされています。

 

認知症の被害妄想に対する治療法

認知症の治療における妄想の管理に関する研究は、結果がばらついているというのが現状です。

 

そのため、医師は被害妄想に対処するために抗精神病薬を処方することがあります。また、被害妄想が不安から生じている場合には、抗うつ薬や抗不安薬の処方が考慮されるかもしれません。

 

ただし、これらの薬物の中には副作用として不安を引き起こすものもあります。

 

 一部の場合では、非薬物療法も被害妄想の症状に効果的だと考えられています。環境や日常の変化、介護方法の変更が症状の緩和に役立つと言われています。

 

例えば、患者が頻繁に物をなくしたり、他の人が物を盗んでいると思い込んだりする場合、物を同じ場所に置いたり、複数の同じものを用意することが良いのかもしれません。

 

また、積極的なサポートや、安心感のある環境も、不安や被害妄想を経験している方を安心させるのに役立つでしょう。

 

被害妄想がある認知症患者への対処法

認知症だけではなく、被害妄想の症状がある方は現実と非現実の区別が難しく、自分の信念に敏感なため、周囲の人たちは適切に接することが重要になります。被害妄想の症状がある認知症患者の対処法においては以下の対処法を念頭に置くことが大切です。

 

反発しない、感情的にならない

被害妄想のある認知症患者は、妄想を固く信じており、論理は通じません。

 

論争は逆効果になり、周りの人が自分に敵対しているとより確信する原因になる可能性があるため、冷静に相手と接するといいでしょう。

 

共感して、聞き役になる

相手の感情や考えを表現させてあげましょう。相手の事実が間違っていても、言っていることをよく聞いてあげ、相手への理解を示しましょう。

 

「そういうことがあったんだね」、「大変だったね、その気持ちは分かるよ」などと言い、共感すると相手も安心感を感じられるでしょう。

 

相手の気をそらす

相手の注意を他のことに向けることで、興奮するのを防ぐことができるかもしれません。相手の好きなことで気をそらしたり、散歩やドライブに連れ出すなど、考えを巡らす環境を変えることを試してみましょう。

 

一方、暗い映画やニュースなどのネガティブな情報は、認知症の方の妄想を悪化させる可能性があるので避けましょう。

 

最後に

認知症と被害妄想には深い関係があり、妄想が認知症の患者現実の一部となっています。被害妄想の症状がある人が周囲にいる場合、相手と適切に接し、専門医に相談して複合的な診断を受けましょう

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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