睡眠不足、寝不足が認知症のリスクを上げる?睡眠障害や睡眠薬の影響、改善方法なども解説

厚生労働省によると、2025年の日本における高齢者の約5人に1人が認知症になると推計されています。認知症は身近な病気であり、様々な原因が発症に関与しているといわれています。

 

その中で、「睡眠不足」は最近注目されている原因の一つです。睡眠不足は、現代社会において広く見られる健康問題であり、その影響は我々の身体と心に深刻な影響を及ぼしています。

 

しかし、最近の研究では、睡眠不足が私たちの認知機能にも悪影響を及ぼす可能性があることが明らかになってきました。特に、認知症との関連性が指摘され、予防の観点から睡眠の重要性がますます注目されています。

 

この記事では、数々の最新研究をもとに睡眠不足と認知症の関係性を徹底解説します。

 

 

脳の健康と睡眠の深い関係

私たちの脳は、車のエンジンのように常に作動している状態だと言われています。脳を回復させるには、十分な睡眠をとることが必要だといわれています。

 

睡眠中には、記憶の定着、感情の処理、そして老廃物の浄化など、いくつかの重要な機能が行われます。

 

私たちが起きている間、神経細胞は「アデノシン」という老廃物を生成します。睡眠では、この老廃物と髄液が除去されています。適度な睡眠がないと、アデノシンなどの廃棄物の除去が不完全になり、多くの脳疾患や障害の原因となると考えられています。

 

レム睡眠・ノンレム睡眠とは

レム睡眠」は急速眼球運動が見られ、脳が活動している睡眠段階です。この睡眠段階では、物事で目が覚めやすく、夢も記憶に残りやすいとされています。

 

一方、「ノンレム睡眠」は、脳と身体の両方が休息する深い睡眠段階です。基本的に睡眠は、ノンレム睡眠から始まり、約1~2時間後にレム睡眠に移行します。このノンレム睡眠とレム睡眠の周期が、睡眠中に繰り返されると言われています。

 

睡眠不足になると身体に何が起こるのか

睡眠は脳の健康を保つ重要な役割を担っているため、それを不足すると、認知機能や免疫力の低下、気分の変動など身体に様々な悪影響をもたらすと言われています。

 

認知機能が低下する

集中力、判断力、問題解決能力などの認知機能に悪影響を与えることがあります。思考が鈍くなり、情報の処理や記憶の形成にも支障をきたす可能性があります。

 

十分な睡眠をとることは、学習や新しい情報の記憶能力に影響を与えます。長期的な不眠症と記憶の悪化は悪循環を形成し、十分な睡眠をとることにさらなる問題を引き起こす可能性があるとされています

 

免疫力が悪くなる

睡眠は免疫機能の正常な働きにも関与しています。睡眠不足は免疫機能の低下を引き起こし、感染症や生活習慣病を発症するリスクを増加させる可能性があります。

 

また、睡眠不足によって体の回復が妨げられ、病気や怪我の回復にも影響を与えることがあります。

 

気分が不安定になる

睡眠不足は気分の変動や情緒的な安定性にも影響を与えることがあります。イライラしやすくなったり、ストレスへの対処能力が低下したりすることがあります。

 

さらに、長期的な睡眠不足はうつ病や不安障害などの精神的な健康状態のリスクを高める可能性があります。

 

睡眠不足・睡眠障害が認知症の発症リスクを高める?

最近の数々の研究では、睡眠不足が認知症のリスクを上げる可能性が高いと結論付けられています。研究者が注目している分野は、睡眠時無呼吸症や不眠症などの睡眠障害が脳に及ぼす影響です。

 

睡眠時無呼吸症

睡眠時無呼吸症(Sleep Apnea)は、睡眠中に一時的に呼吸が止まる状態です。いびきや突然の覚醒、頭痛や日中の眠気などの症状が現れることがあり、脳への酸素供給不足や睡眠の質の低下を引き起こす可能性があります。

 

2023年5月の研究では、睡眠時無呼吸症が脳の容積減少を引き起こし、記憶力低下と関係している可能性があることが示されました。

 

また、閉塞性睡眠時無呼吸症が脳の白質異常増加と関連しており、この異常が認知症と脳卒中のリスク増加に寄与する可能性があることも指摘されています。

 

出典:Association of Sleep-Disordered Breathing With Cognitive Function and Risk of Cognitive Impairment

 

不眠症

不眠症(Insomnia)は、十分な睡眠を得ることが難しい状態を指します。不眠症の主な症状は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などがあります。これらの症状により、日中の眠気や集中力の低下、イライラなど、生活に支障が出るといわれています。

 

不眠症の原因はさまざまであり、ストレスや不規則な生活習慣、身体的な疾患などが関係していると言われています。

 

2023年6月の研究によると、入眠障害は認知症のリスクを高める可能性があると示唆されています。また、2022年12月の研究では、不眠症がアルツハイマー型認知症と関係する脳脊髄液生物マーカー(CSF Aβ42)のレベル上昇と関連していることが報告されています。

 

出典:

Sleep Disturbances and Dementia Risk in Older Adults: Findings From 10 Years of National U.S. Prospective Data

Insomnia symptoms and markers of preclinical Alzheimer’s disease in the community

 

その他、大規模なメタ分析では、睡眠の質の悪さと記憶障害との関連が示されています。睡眠の質の悪さは、体の自然な回復を妨げるだけでなく、心臓病や脳卒中のリスクを増加させることがあり、これらの疾患も認知症のリスクを高める要因だと言われています。

 

詳しくは以下の記事をご覧ください:

 

睡眠薬は認知症の予防になるのか

「睡眠薬」は、自然な眠気を強める睡眠薬と脳の活動を低下させる睡眠薬の二種類があるとされています。主に、睡眠障害や心の病気がある方が睡眠習慣を改善するために睡眠薬が使用されています。

 

睡眠薬が認知症の予防になるかは、睡眠薬の種類によって異なる可能性があるとされています。2023年3月の研究では、不眠症の薬であるスボレクサントを服用した人々は、アルツハイマー型認知症の発症原因とされている、アミロイドベータとタウの量が減少したと報告されています。

 

出典:Suvorexant Acutely Decreases Tau Phosphorylation and Aβ in the Human CNS

 

一方で、同じ年のの別の研究では、睡眠薬の頻繁な使用が特定の民族グループにおいて認知症発症リスクが増加したことがわかりました。

 

出典:Race Differences in the Association Between Sleep Medication Use and Risk of Dementia

 

以上の研究結果のように、睡眠薬が認知症の予防になるか明確に解明されていないため、睡眠薬は慎重に摂取することが推奨されています。

 

基本的に、薬物療法は非薬物的なアプローチが失敗した場合にのみ使用すべきだと言われています。また、市販の睡眠補助剤を始める前には、医師と相談することが重要です。

 

認知症を発症すると睡眠障害になる?

これまで睡眠不足が認知症の発症を加速する可能性を解説しました。しかし、認知症になってから睡眠障害を発症する患者も存在します。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、

前頭側頭葉変性症などの認知症が、睡眠に悪影響を及ぼすとされています。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー病は最も一般的な認知症の形態であり、睡眠障害が多くの患者で見られます。入眠困難、中途覚醒、夜間の覚醒、昼夜逆転などの不眠症の症状が現れることがあります。

 

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質のたまりが脳に見られる病態です。この病態では、夢遊行や夜間の不穏行動、激しい夢、REM睡眠行動障害(RBD)などの睡眠障害が特に顕著だと言われています。

 

前頭側頭葉変性症

前頭側頭葉変性症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞の萎縮や機能の低下によって特徴づけられる認知症です。この病態では、睡眠パターンの変化や夜間の不穏行動、昼夜逆転などの睡眠障害が起こることがあります。

 

詳しくは以下の記事をご覧ください:

 

睡眠不足を改善する方法8選

睡眠不足と認知症の関係がわかってきたものの、具体的にどうやって睡眠不足を改善すればいいのか気になる方は、以下の改善方法を実践してみてください。これらの対策を試してみても睡眠不足が改善しない場合は、専門の医師とご相談することをお勧めします。

 

  1. 毎日同じ時間に起きて寝るように心がける。
  2. ベッドは寝る場所に限定し、それ以外には使用しない。
  3. 就寝の1〜2時間前に、テレビ、パソコン、タブレット、スマートフォンなどのブルーライトを発する電子機器を避ける。
  4. 体内時計をリセットするために、起床時は日光を浴びる。
  5. 就寝前に瞑想や深呼吸などのリラックスした活動を行う。
  6. 寝る直前に食事をしない。
  7. 日中の過度な昼寝は避ける。
  8. 生活習慣を整える(適度な運動、1日3食のバランスの取れた食事、ストレス管理など)。

 

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』日本文芸社

 

最後に

認知症の発症や進行には様々な要因が関与しているため、睡眠の改善だけでは完全な予防には繋がりません。

 

良質な睡眠と共に、バランスの取れた食事、適度な運動、人との交流、脳の活性化など、色んな対策を同時に取り入れることが重要です。

 

これらの習慣を意識的に組み合わせることで、認知症を最大限に予防できるでしょう。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

 

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。



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