認知症テストの代表的なものに「MMSE」があります。
この記事では、MMSEの特徴や具体的な認知機能測定の方法、判定基準まで詳しく解説します。
また、MMSE以外で、簡易的に認知機能を測定する方法や注意点も併せて説明します。
加えて、認知症を早期発見し適切に治療するために、より正確に診断する方法や普段から行うべきことついても紹介しているので、認知症の早期発見及び定期的な認知機能測定の参考にしてください。
認知症テストのメリット
認知症テストは、認知機能の低下を早期発見するのに効果的な仕組みです。
認知症というのは、初期段階で病気を発見し適切に対処することで、進行を遅らせることができる病気です。手軽に認知症の疑いの有無をチェックできるのが、認知症テストです。
認知機能の測定ができる「MMSE検査」とは
MMSEとは、Mini Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)の略です。
1975年に、米国のフォルスタイン夫妻らが認知症の疑いのある人をスクリーニングするために開発した知能検査です。
MMSEは国際的に最も広く使用されている認知症のスクリーニング検査で、特に日本語版のMMSEはJapaneseの「J」を足して、MMSE-Jと呼ばれます。
MMSE検査でわかること
MMSEでは、認知症になると低下するされる記憶力、計算力、言語力、見当識など合計11の問いを解いてもらうことで、その人の認知機能を評価します。
事前に準備すべきもの
MMSE検査には、以下の4つの検査道具が必要になります。
- MMSEの検査用紙
- 筆記用具(鉛筆と消しゴム)
- 時計または鍵
- 白紙
白紙は、検査用紙の裏を使用しても問題ありません。
MMSEの具体的な内容
MMSEは以下の11の項目によって問題が構成されています。
- 時間の見当識(5点)
- 場所の見当識(5点)
- 即時想起(3点)
- 注意(5点)
- 遅延再生(3点)
- 物品呼称(2点)
- 文の復唱(1点)
- 口頭指示(3点)
- 書字指示(1点)
- 自発書字(1点)
- 図形模写(1点)
検査を受けられる方は、この11の項目に従って質問者から出される問題に対して、口頭で答えていきます。
また、口頭での回答以外には、3 段階の口頭命令・読解・書字・図形模写のような動作性の検査も含まれています。
時間の見当識
見当識とは、年月日・時刻・自分が今どこにいるのかなどの基本的な状況を把握することです。
その中でも、「時間の見当識」では主に年月日や季節についての問題が出されます。
<例>
- 「今日は何日ですか」
- 「今年は何年ですか」
- 「今の季節は何ですか」
- 「今日は何曜日ですか」
- 「今月は何月ですか」
場所の見当識
「場所の見当識」では、見当識の中でも自分が住んでいる地域や今いる場所についての問題が出されます。
場所の見当識障害が進行すると、外出時に迷子になることがあります。
<例>
- 「ここは都道府県でいうと何ですか」
- 「ここは何市(町・村・区など)ですか」
- 「ここはどこですか」
- 「ここは何階ですか」
- 「ここは何地方ですか」
即時想起
「即時想起」では、質問者から関連のない3つの物品の名前が伝えられ、それを同じ順番で復唱します。
間違えても、最大6回まで繰り返すことができます。
<例>
- 「今から私がいう言葉を覚えてくりかえし言ってください」
- 「『さくら・ネコ・電車』はい、どうぞ」
- 「今の言葉は後で聞くので、覚えておいてください」
注意(計算or言葉の逆唱)
「注意」では、100から7を順に引き算をする『計算』、もしくは「セカイチズ」や「フジノヤマ」のような『言葉の逆唱』が出されます。
<例>
「100から順番に7を繰り返し引いてください」
「『フジノヤマ』を逆から読んでください」
遅延再生
「遅延再生」では、短期記憶を確認する「即時想起」対して、さらに短期記憶よりも保持時間が長い長期記憶を確かめます。
<例>
- 「さっき私が行った3つの言葉は何でしたか?」
物品呼称
「物品呼称」では、本人が事前に準備した時計や鍵、鉛筆を見せながら、その物品の正式名称を答えてもらいます。
この項目では、健忘失語または視覚失認の有無を確かめます。
<例>
- 時計(又は鍵)を見せながら 「これは何ですか?」
- 鉛筆を見せながら 「これは何ですか?」
文の復唱
質問者から言われた少し長めの文章を繰り返します。
回答できるのは1っ回のみです。
<例>
- 「今から私がいう文を覚えてくり返しいってください。『みんなで力をあわせて綱を引きます』」
口頭指示
「口頭指示」では、質問者から伝えられた3段階の命令に従って、実行します。
ここでは、失行の有無を確かめます。
<例>
- 「今から私がいう通りにしてください。1.右手にこの紙を持ってください。2.それを半分に折りたたんでください。3.そして私にください。」
書字指示
「書字指示」では、質問者がある指示を書いた紙を見せて、本人はその紙に書いてある指示を音読もしくは黙読した後、その指示通りに行動します。
自発書字
ある1つの文章を何でもいいので、鉛筆で紙に書きます。
ここでは失書の有無を確かめます。
図形模写
質問者から交差した2つの五角形が書かれた紙を渡され、それを正確に模写します。
判定(採点)基準とカットオフ値について
質問に対して回答してもらいながら、MMSE ガイドラインを参考に点数をつけていきます。
参考:MMSE 検査用紙
MMSEは、30点満点として、カットオフ値は23/24とされています。カットオフ値とは、検査結果の陽性と陰性とを分ける値です。つまり、MMSEにおいては23点以下の場合、認知症の疑いがあるということです。また、27点以下の場合は軽度認知障害(MCI)の疑いがあります。(参考:日本老年医学会)
MMSEを受ける際の注意点
MMSEを受ける際には、以下の2点に注意が必要です。
- 認知症テストの点数が悪いからといって、認知症というわけではない
- 認知症の疑いがある場合には、必ず専門家に診てもらう
「認知症テストの点数が悪い=認知症」ではない
MMSEは、認知機能の測定を目的としたテストです。
ただし、テストの点数が悪いからといって認知症であるいうのは早計です。認知機能の低下が見られるからといって、必ず認知症とは限らないのです。
高齢者の認知機能の低下があると、認知症が疑われることもあります。
しかし、例えばうつ病の患者にも同様に、認知機能の低下が見られることがあるのです。
このように、認知機能の低下には様々な要因が考えられるため、必ず専門医の判断を仰ぎましょう。
少しでも認知症の疑いがあれば専門家に診てもらう
認知症のタイプによっては、検査の点数は問題がなくとも、生活上で問題が生じる場合もあります。MMSEは、あくまでも早期発見を促すためのスクリーニング検査です。そのため、生活上困っていることが多い場合は、認知機能測定の点数が良かったとしても医療機関などで専門家に診てもらう必要があります。
医療機関では、MRIやCTなどの脳検査、本人からの生活状況の聞き取り、家族や周囲の人から話の聞き取りなどにより、医学的診断基準に則って診断してもらえます。
認知症を早期に発見することができれば、早く治療を開始できるほか、介護をする家族が注意すべきことを専門家に聞けるなど、多くのメリットがあります。
MMSEを行い、認知症の疑いがあると考えられる場合には、すぐに専門家に診てもらうことが大切です。
その他の認知症スクリーニングテストとの違い
認知機能を測定できるテストは、MMSEだけではありません。代表的なものに、以下の2つが挙げられます。
- 長谷川式簡易知能評価スケール
- 認知症予防協会の認知症自己診断テスト
長谷川式簡易知能評価スケール
日本で広く使われている認知症テストは、MMSEと長谷川式簡易知能評価スケールだと言われています。
長谷川式簡易知能評価スケールというのは、1974年に神経精神科教授の長谷川和夫氏によって開発された認知症テストです。
長谷川式簡易知能評価スケールでは、全部で9つの問いに答えてもらうことで認知機能を評価します。
長谷川式簡易知能評価スケールは30点満点として、カットオフ値は 20/21とされています。つまり、20点以下の場合には認知症の疑いがあるということです。
「長谷川式認知症スケール/長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」とは?MMSEとの違いは?特徴や評価方法、カットオフ値について解説
認知症予防協会の認知症自己診断テスト
一般社団法人 認知症予防協会のHPでは、オンラインで認知症の自己診断テストを受けられます。
漢数字を数字に書き換える、時計の読み取り、ひらがな表記の簡単な計算など、数種類からなる全部で10の質問に答えることで、認知機能を測定できます。
問題の内容を理解するのに時間がかかったり、問題が難しく感じたりした場合、もしくは80点未満で認知機能に不安を感じた場合には、専門医への受診が推奨されています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
定期的なセルフチェックで認知症の早期発見に努めましょう
ここまで、MMSEのテスト概要について紹介してきました。
MMSEや長谷川式簡易知能評価スケールなどの認知症テストは、簡単にその人の認知機能を測り、認知症の人をスクリーニングできるテストです。
テストの中には一部オンライン上でも手軽に行えるというメリットがありますが、一方で体験者は様々な環境下で検査を行う事ができるという特性上、必ずしも高精度な結果を得られるわけではありません。
認知症は、発症前に早期に発見して適切な治療を行うことでその進行を抑制あるいは健常な認知機能まで回復することもできる病気です。些細な認知機能の変化に気づくためにも、定期的な認知機能のチェックツールを利用してみることをおすすめします。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。