日本には認知症予防に関する学会がいくつかありますが、どのような活動を行っているのでしょうか。
65歳以上の方の約6人に1人が認知症を発症し、認知症予備軍と呼ばれる軽度認知障害の方も400万人を超える現代日本において、認知症について研究する団体について知ることは大切なことといえるでしょう。
認知症予防学会の活動内容や、認知症予防に向けて個人ができることについて解説します。
日本認知症予防学会
ここでは、日本を代表する認知症予防の機関団体である認知症予防学会を紹介します。
認知症予防関連の学会はいくつかありますが、その中でも2011年に設立された「日本認知症予防学会」は定期的に学術集会を開催するなど活発な活動を行う団体として知られています。
日本認知症予防学会の活動内容は、主に次の通りです。
<活動内容>
- 認知症予防活動の実践普及
- 認知症予防に携わる人材の育成
- 他職種協働と地域連携
- 認知症予防のエビデンス創出
認知症予防活動の実践普及
認知症予防には、第一次予防と第二次予防、第三次予防の3段階があります。
第一次予防とは認知症の発症そのものを予防すること、第二次予防とは認知症を早期発見・早期治療・早期対応すること、そして、第三次予防とは認知症を発症した場合の進行予防です。
日本認知症予防学会では、これらの3段階における認知症予防活動に取り組み、学会外にも普及・啓発を推進しています。
なお、国連の専門機関のひとつである世界保健機関(WHO)でも認知症予防活動に取り組み、予防のガイドラインを発表しています。
認知症予防に携わる人材の育成
認知症予防活動に携わる人材育成も行っています。
日本認知症予防学会が認定する資格には、次の種類があります。
認知症予防専門士
医療機関や介護施設などで3年以上認知症予防の実務に携わってきた方を対象とした資格。
認知症に対する知識と予防活動に関する技術を持っていること、また、日本認知症予防学会の認定単位を一定以上取得していることを資格取得の条件とする。
認知症予防専門医
認知症患者の診療履歴が3年以上ある医師を対象とした資格。
日本認知症予防学会の認定単位を一定以上取得していることを資格取得の条件とする。
認定認知症領域検査技師
認知症患者と家族の不安を軽減するために、臨床検査の専門性を生かして認知症診断や治療を行う臨床検査技師を対象とした資格。
日本認知症予防学会と日本臨床衛生検査技師会が共同で実施する日臨技生涯教育研修制度を修了し、規定の試験に合格することを資格取得の条件とする。
多職種協働と地域連携
認知症を予防するためには、本人や家族だけでなく、行政機関や医療機関、福祉などに関わる人々が職種を越えて連携し、協力することが必要です。
また、地域ぐるみで連携し、すべての方が認知症予防のための活動を行えるようにしなくてはいけません。
日本認知症予防学会では、認知症予防に関わるさまざまな職種の方が集う機会を設け、他業種協働と地域連携の一端を担っています。
認知症予防のエビデンス創出
認知症予防に対する関心が高まるにつれ、インターネットや雑誌などでもさまざまな情報が紹介されています。
しかし、中には根拠が乏しいものも存在し、閲覧者に認知症の誤った情報を持たせてしまう可能性があります。
日本認知症予防学会では根拠のある情報なのか検証し、有効と思われる情報を選ぶ「エビデンス創出」を行い、認知症予防に関心のある全ての人が偽情報や根拠に乏しい情報に惑わされないように支援しています。
他の認知症に関する学会
認知症や認知症予防に対する関心が高まる中、研究を推進し、発表する場としての他の学会も多く活動しています。
以下では、認知症予防学会以外の、認知症関連の代表的な機関をご紹介します。
日本認知症予防協会
「日本認知症予防協会」は、軽度認知障害の早期発見に努め、認知症予防を目指す団体です。
また、経験や資格に関わらず取得できる「MCI専門士」という認定資格制度を設け、予防のスペシャリストの養成も行っています。
なお、認知症とは診断できないけれども認知機能に問題が見られる段階を、「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。
軽度認知障害は認知症の前段階でもあるため、放置しておくと認知症を発症する可能性もありますが、治療や適切な介入を行うと、認知症の発症を抑えられたり遅らせたりできることもあります。
認知症協会
「認知症協会」は、認知症予防事業に携わる人材を育成する専門機関です。
「認知症予防活動支援士」という認定資格制度を設け、出張講座なども実施して認知症予防の教育・普及を行っています。
なお、認知症協会はかつては「認知症予防研究協会」という名称で、現在でも一部の学術記事等に名前が残っていることがあります。
認知症予防学会のエビデンス創出委員会
先述の通り、日本認知症予防学会では、世の中に存在する認知症予防に関する情報を検証し、本当にエビデンスがあり有効と判断できるのか精査する事業も行っています。
この事業に携わっているのが、認知症予防に関わる研究者達から成る「エビデンス創出委員会」です。
提出されたエビデンスのグレードを認定する機関
エビデンス創出委員会では、エビデンスとして申請された命題を検証し、6段階の認定グレード(特A、A、B、C、D、E)で判定します。
判定結果は申請者に通知され、学会ホームページでも公表し、エビデンスを広く共有できるように取り計らいます。
グレードA以上に認定されたエビデンス
グレードD(追加資料提出が必要)とグレードE(効果は認められない)以外と判定された場合は、いくらかは認知症予防の効果があると考えられるエビデンスです。
特にグレード特A(確かな効果あり)とグレードA(効果あり)に判定されたものは、認知症予防活動に積極的に取り入れていきたいエビデンスと言えるでしょう。
グレードA以上に判定されたエビデンスを紹介します。
βラクトリンの認知機能改善作用
βラクトリンの認知機能改善作用に関する情報は、認知症発症の予防効果があると判断されました。(グレードA、申請受理:2020年8月10日)
TwendeeXの認知症予防効果
サプリメント「TwendeeX」は、MCI患者に対する認知症予防効果があると判断されました。(グレードA、申請受理:2019年7月29日)
音楽療法の認知症予防効果
楽器演奏による音楽療法は、認知正常者から認知障害への一次予防効果があると判断されました。(グレードA、申請受理:2017年3月1日)
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
学会の最新情報とセルフケアチェックで認知症予防に備えましょう
日本では認知症予防を専門的に研究する学会が複数存在しています。ぜひ学会のホームページを訪問し、最新情報をチェックしてみてください。
また、認知機能のセルフチェックや認知症保険の加入などで認知症に備えることも大切です。今すぐできることから始めていきましょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。