認知症の診断基準はいくつかありますが、代表的なものとしては世界保健機関が制定した「ICD-10」と米国精神学会が制定した「DSM-5」という基準があります。
この記事では、認知症の診断基準と定義、具体的な症状や原因疾患について解説します。
併せて、発症前の認知機能の低下を早期に察知するために、普段から行うべきことついても紹介しますので、参考にしてみてください。
1.認知症とは?
認知症は、脳の機能が低下することにより、記憶力や判断力、言語機能、認識能力などの認知機能が持続的に低下し、日常生活に影響を及ぼす状態を指します。
主に高齢者に多く見られますが、若年者でも発症することがあります。
認知症は、進行性の疾患であり、症状が進行するにつれて自立した生活が困難になります。
認知症の定義
認知症は、日本神経学会監修の「認知症疾患診療ガイドライン」によって、「一度獲得された知的機能が、後天的な脳の機能障害によって全般的に低下し、社会生活や日常生活に支障をきたすようになった状態で、それが意識障害のないときにみられる」と定義付けられています。
この知的機能の低下は、記憶、注意、思考、判断、言語、認識などの領域に影響を及ぼします。
また、認知症は一つの疾患ではなく、様々な原因が絡んで発症し、複数の症状を呈します。
認知症の主な症状
認知症の症状は患者ごとに異なり、その進行も個人差があります。
ただし、以下のような主な症状が共通して現れることが一般的です。
- 記憶障害: 短期記憶や長期記憶の喪失
- 言語障害: 言葉の理解や表現が困難
- 認識障害: 顔や物の認識が難しくなる
- 実行機能障害: 日常生活の動作や計画が困難
- 判断力の低下: 状況判断や意思決定が難しくなる
認知症の種類
認知症には、さまざまな種類が存在します。
以下に、代表的な3つの認知症を紹介します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、最も一般的な認知症で、全認知症患者の約60-80%を占めます。脳内の神経細胞が徐々に破壊されることで発症します。
記憶障害が主要な症状で、次第に言語障害や判断力の低下などが現れます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内に特殊なタンパク質(レビー小体)が蓄積し、神経細胞が機能しなくなることで発症します。
このタイプの認知症では、パーキンソン病と似た運動障害や幻覚が特徴的です。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳細胞への酸素や栄養の供給が不足し、神経細胞が損傷することが原因です。
症状は突然現れ、徐々に進行します。運動障害や言語障害が特徴的です。
認知症の診断基準について
認知症の診断基準は、患者の症状、神経心理学的検査、画像検査、血液検査などの情報をもとに、医師が総合的に判断します。
認知症は他の疾患と症状が似ていることがあるため、正確な診断が重要です。
世界保健機関による診断基準
世界保健機関(WHO)によって、ICD-10と呼ばれる認知症の診断基準が設定されています。ICD-10における認知症の診断基準は、以下の通りです。
- 以下の各項目を示す証拠が存在する。
(1)記憶力の低下:新しい事象に関する著しい記憶力の減退。重症の例では過去に学習した情報の想起も障害され、記憶力の低下は客観的に確認されるべきである。
(2)認知能力の低下:判断と思考に関する低下や情報処理全般の悪化であり、従来の遂行能力水準からの低下を確認する。
(1)(2)により、日常生活活動や遂行能力に支障をきたす。 - 周囲に対する認識が、 基準 G1 の症状をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれていること。せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留。
- 次の 1 項目以上を認める。(1)情緒易変性 (2)易刺激性 (3)無感情 (4)社会的行動の粗雑化。
- 基準 G1 の症状が明らかに 6 か月以上存在していて確定診断される。
米国精神学会による診断基準
米国の精神医学会によって、DSM-5と呼ばれる認知症の診断基準が設定されています。
認知症のタイプによってその定義は異なりますが、共通する診断基準としては以下の基準があります。
- 多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちの一つ以上。
- 認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。
- 認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
- 認知症症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。
認知症と物忘れは何が違う?
年齢を重ねると、誰もが物忘れをしやすくなります。しかし、加齢に伴う物忘れと、認知症による物忘れは大きく異なります。
加齢による物忘れは、脳の老化によって引き起こされます。
脳の老化による物忘れは、体験したことの一部を忘れる、忘れっぽいことを自覚しているという特徴があります。
そして、日常生活に支障をきたすことはありません。
一方で、認知症の物忘れは、疾患によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状です。
認知症による物忘れは、体験したことを丸ごと忘れる、忘れたことに対する自覚がないという特徴があります。
また進行が早く、1年前と比べてると明らかに症状が重くなることが多いです。
そして認知症が進行すると、徐々に理解する力や判断する力がなくなって、社会生活や日常生活に支障が出てくるようになります。
認知症が進むとどうなる?
家族に認知症の人がいると「認知症が進むとどうなるのか」と不安に思うこともあるかもしれません。
認知症が重度となると、自分の家族が家族であることがわからなくなったり、コミュニケーションをとることが難しくなったりします。
また、失禁や筋固縮、歩行障害や運動障害が出てくることもあります。
食事を自力で飲み込めなくなる場合もあり、認知症がここまで重症化すると、生活のすべてにおいて介助が必要になります。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
まとめ
ここまで、認知症の診断基準について紹介してきました。認知症の診断基準にはいくつかありますが、代表的なものには以下の2種類があります。
- 世界保健機関によるICD-10
- アメリカ精神医学会によるDSM-5
また、認知症には様々な症状がありますが、多くの人の初期症状として現れるのは「物忘れ」です。
認知症のもの忘れは、体験を丸ごと忘れてしまい、忘れたことに対する自覚がないという点で、加齢によるもの忘れとは異なります。
認知症が深刻化してしまうと、歩行障害や運動障害が出てきて、食べ物を自力で飲み込めなくなることもあります。
この段階になると、生活の全てにおいて介助が必要になると言われています。
認知症は、初期段階で察知して適切な対策を行うことで進行を抑制することも可能な病気です。
高齢化が進む日本において、認知症患者数は増え続けると予想されています。いつ誰がなってもおかしくない病気の予防策として、認知機能の状態を定期的に測定しておくことは有用と言われています。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。