認知症の初期症状への対応に頭を悩ませることが多いのではないでしょうか。
認知症の初期には、同じ話を何度も繰り返したり、物事を忘れてしまったりという症状が現れます。できていたことができなくなり、家族としても不安になることがあるでしょう。
この記事では、認知症の初期症状の具体例と適切な対応方法を解説します。
また、認知症の早期発見のためにするべきことについても併せて紹介しますので、認知症の早期発見及び定期的なチェックの参考にしてください。
認知症の初期症状とは
認知症の初期症状は、一人ひとり異なりますが、判明のきっかけとしては「もの忘れ」というケースが多くなっています。
同時に、認知症の初期段階から「理解力・判断力・集中力・作業能力の低下」なども見られます。これまでならできていた家事や趣味などにおいても変化が現れます。
このような症状は、症例と原因によって「中核症状」と「周辺症状(または行動・心理症状)」に分けられます。
中核症状の例
中核症状とは、言葉通り認知症の「中核」となる症状のことです。
具体的な症例としては、理解力や判断力の低下、記憶障害、失語などが挙げられます。
中核症状は、脳の認知機能の低下から引き起こされ、程度の差はあれど認知症を患う全ての人に現れます。
周辺症状の例
周辺症状とは、中核症状を原因として副次的に発生する症状です。
具体的な症例としては、興奮、暴力、徘徊、妄想などが挙げられます。
中核症状が現れた認知症の人は、今までできていたことができなくなることに対して、不安や怒りを感じます。
周辺症状は、この不安や怒りが原因となり引き起こされます。
問題行動のように見えますが、本人としては中核症状に適応しようともがいた結果であることも少なくありません。
周辺症状は、認知症の人が必ず発生するわけではありません。
本人の性格や、周囲の環境や人間関係によっては現れないこともあります。
認知症の初期症状への対応
家族が認知症の初期段階のような症状を示したら、どのように対応すれば良いのでしょうか。
症状を悪化させないためには、適切な対応方法を知っておく必要があります。
対応の基本原則
認知症の初期症状への対応方法の考え方として、以下の4つの原則があります。
- 怒ったり否定したりしない
- 放置しない
- 生活のペースを合わせる
- 1人で抱え込まずに専門家に相談する
どのような症状に対しても、上記の原則を念頭に対応することが重要と言われています。
怒ったり否定したりしない
認知症の人が何度も同じことを聞いたり、明らかな嘘をついていたりしても、それに対して怒ったり否定したりしないようにしましょう。
本人のプライドを傷つけないように、できるだけ意思を汲み取るように対応することが大切と考えられています。
その理由は、叱っても意味を理解してもらえない可能性が高いことに加え、認知症を患って記憶力などが衰えている人でも感情の機能は衰えていないためです。
つまり、「なぜ怒られたか」はわからないながらも「怒られている」ことは認識するのです。理由もわからずにただ怒られていると感じ、不快な気持ちを感じてしまいます。
放置しない
認知症の人を叱るべきではありませんが、放置したり無視したりすることもよくない対応とされています。
放置や無視により孤独を感じ、ストレスが蓄積されてしまいます。
ストレスが溜まってしまうと、行動異常や妄想など他の症状が悪化することもあります。
ただし本人が興奮しているときには、気持ちが静まるまで少し間をおくことはよいでしょう。
生活のペースを合わせる
認知症の人が慣れ親しんだ人間関係や生活習慣を崩さないよう、本人のペースに合わせて接してあげることも大切と言われています。
部屋の模様替えをしたり、訓練をさせたりというような環境の変化は、いくら「本人のため」出会っても、認知症の人にとってはストレスになることもあります。
本人が心からリラックスできることを第一優先として、環境作りをしてあげることが有用と考えられます。
1人で抱え込まずに専門家に相談する
最後に、認知症の人を介護する家族は、介護に疲弊してしまわないように注意が必要です。
特に在宅での介護は負担も大きく、疲労が溜まりやすい傾向にあります。
悩むことがあったり疲れを感じたりした際には、1人で抱え込まずに専門家に相談することが大切です。
病院や保健センター、在宅介護支援センターなどの専門家が対応してくれる窓口で、思い詰める前に相談しましょう。
介護をする家族に過度なストレスをかけることは、認知症の方も望んでいないはずです。
具体的な初期症状への対応方法
次に、認知症の初期によく見られる以下の症状への具体的な対応を紹介します。
すべて、先述の4つの原則に則っていることにも注目してみてください。
- 様々な物忘れへの対応
- 夜に眠れないことへの対応
- イライラや暴言・暴力への対応
- 被害妄想への対応
- 判断力低下への対応
様々な物忘れへの対応
同じ話や質問を繰り返す、ちょっと前にしたことを忘れてしまうなどは「物忘れ」であり、ほとんどの認知症の人に出現する症状です。
例えば、同じ話や質問を繰り返すのは、話したことや聞いたことそれ自体を忘れているためです。
本人は、同じことを繰り返しているつもりがありません。
そのため、指摘や叱責はせずに、かつ面倒がらずに丁寧に対応することが大切です。
また、認知症の初期段階では、メモを取ることで対策できる場合もあります。
夜に眠れないことへの対応
認知症になると不眠の頻度が高くなることが知られています。
その原因は、日中の活動量が少なくなっていることや、時間感覚の喪失によるものが多いです。
不眠の原因を取り除くため、昼間は日の光を浴びてよく体を動かす、寝室の照明や寝具を眠りにつきやすいものに変えるなどの対策が効果的とされています。
工夫をしても改善しない場合には、医師に相談して薬を処方してもらう選択肢もあります。
イライラや暴言・暴力への対応
暴言・暴力など攻撃的になる原因は、介護行為が攻撃のように感じたり、気持ちを適切に表現できなかったりするためです。
介護行為を「攻撃」と感じてしまい、それに抵抗するため、反撃していると考えられます。
そのため、暴言や暴力があっても叱ったりはせずに、落ち着かせることが有用と言われます。
それでも怒りが収まらない様子であれば、距離を置いて見守りましょう。
被害妄想への対応
認知症の症状のひとつに「物盗られ妄想」と呼ばれるものがあります。
これは家族など身近な人に「物を盗まれた」と考えてしまう症状で、「家族に頼りたいけど、頼りたくない」という本人の中で相反する気持ちが表出して起きると考えられています。
「一緒に探そう」と、本人の味方になって安心させてあげることが大切です。
判断力低下への対応
認知症の初期段階でも見られる症状に、判断力の低下があります。
気付きやすい事象でいうと、気温に適した洋服を選べなくなることなどがあります。
この場合も、否定したり叱ったり、無理やり着替えさせたりせず、アドバイスのように「次はこれを切りましょう」「もう1枚重ね着してみましょう」と言ってあげることがよいでしょう。
認知症が進むとどうなる?
認知症の人が家族にいる場合、不安に思うのは「認知症が進むとどうなるのか」ということでしょう。
もちろん症状は一人ひとり異なりますが、家族の顔を認識できなくなったり、会話をすること自体が難しくなったりすることがあります。
人によっては、失禁、歩行困難、食事を飲み込めないなどの症状が生じることもあります。
この段階になると、生活の全てにおいて介護を要します。
このような状態にならないためにも、初期の段階で認知症に気づき、適切な治療をすることが重要です。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は早期発見することで進行を遅らせることができる病気です。
また、徐々に進行する病気でもあるため、たとえ現在問題がなくとも、定期的に認知機能をチェックすることは有用です。
早期発見すれば進行を遅らすことが可能
上述の通り、認知症は、初期段階で察知できれば進行を抑制できる病気です。
認知症と健常者の中間の状態に、MCI(初期認知障害)という状態があります。
MCIの場合は、物忘れなど認知症の症状が認められるものの、日常生活に支障はありません。
もしMCIの状態を放置すると、約1割の方が1年以内に認知症の発症に至ると言われています。
一方で、MCIの段階で適切な措置ができれば、約3割の方が認知機能を健常な状態まで回復できるという報告もあります。
適切な初期対応と定期的なチェックをしましょう
ここまで、認知症の初期症状と適切な対応方法について紹介してきました。
「今までできていたことができなくなる」ということは、それを見ている家族にとっては少し怖く、不安で混乱してしまうことかもしれません。
しかし、他の誰よりも、本人が最も自分の能力の低下に不安や混乱を感じていることも多いです。
何度も同じ話や質問をされたり以前とは違う態度を見せたりしても、家族は叱ったり否定したりせず、これまで通り優しく接してあげましょう。
今まで対応することが、本人を安心させるという意味でも大切です。
また、認知症は早期の発見で進行を遅らせられることができる病気ということも重要です。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。