認知症とは、認知機能が徐々に低下していく脳疾患の総称です。
2025年には、日本における高齢者の5人に1人が認知症を罹患すると考えられ、一度発症すると最期まで進行し続けるとされています。
認知症は、物忘れや記憶障害が一般的な症状とされていますが、進行度が進むにつれて症状が多岐にわたります。
この記事では、症状の一つとされる認知症の独り言について詳しく解説していきます。
認知症の症状【中核症状と周辺症状】
認知症の症状は、一般的に中核症状と周辺症状の二つに分類されています。
これらの症状は、認知症の進行に伴い、様々な形で現れることが知られています。
以下では、これらの症状について具体的に説明していきます。
中核症状
中核症状は、認知機能の低下が主とされ、認知症の初期から現れることが特徴とされています。
この症状は認知症の診断基準ともなっており、患者さんの日常生活に直接的な影響を与えるとされています。
記憶障害 → 短期記憶の喪失が顕著で、同じ質問を繰り返す、物の置き場所を忘れるなど
見当識障害 → 時間や場所の感覚が狂うなど
判断力の低下 → 日常の判断が難しくなり、金銭管理や服装選びに問題が生じることがある
計画や実行の困難 → 料理や買い物などの複雑な行動が難しくなる
周辺症状
周辺症状は、中核症状と異なり個人差がある症状とされています。
具体的には、以下のような症状が認知症の中核症状に当たります。
徘徊 → 目的もなく歩き回る行動。夜間に起こることが多く、家族等の負担となることがある
幻覚や妄想 → 存在しないものを見たり、被害妄想を持ったりすることがある
睡眠障害 → 夜間に目覚める、昼夜逆転するなどの症状が見られる
抑うつ → 表情が暗い、不安が増加するなど、気分の落ち込みの症状が出現することがある
認知症になると増加する独り言
認知症の独り言は、認知症の周辺症状の一つとされています。
独り言は、単なる習慣的なものから、孤独感や不安、迷いなどの感情の表れとして起こることがあります。
具体的には、患者が自らに話しかけるような行動をとることがあるとされています。
例えば、「今日は何を食べようかな」「何をしようかな」といった日常的なことから、「どうしてここにいるんだろう」「家はどこだっけ」といった自分の状況に対する不安や混乱を表す言葉まで、様々な内容が見られるようです。
独り言は、認知症患者の心理状態を理解する上で重要な手がかりとなることがあると考えられています。
家族や介護者は、患者の独り言を通じて、その人の感情や思いを察知し、適切な対応やサポートを行うことが大切です。
また、独り言が急に増えたり、内容が変わったりした場合には、認知症の進行や他の健康問題の兆候である可能性もあるため、注意が必要とされています。
独り言が増える認知症の種類
認知症の症状はさまざまですが、特に独り言を発する傾向が見られる認知症の種類があるようです。
具体的な例としては、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が挙げられます。
アルツハイマー型認知症では、記憶障害や言語障害が進行するにつれて、患者が独り言をつぶやくような機会が増え、過去の出来事や人物について話すことが多いと言われています。
幻視や妄想が特徴的なレビー小体型認知症では、患者が幻覚を見ているときに独り言をいうことがあるとされています。妄想の中で見た人や物と会話をしているように見えることがあるとされています。
前頭側頭型認知症は、性格や社会的行動の変化が特徴とされ、患者はしばしば衝動的な行動をとり、その一環として独り言をいうことがあるようです。
認知症になると独り言が増える原因
認知症になると独り言が増える原因は、主に患者のコミュニケーション障害と心理的な状態に関連するとされています。
認知症の進行に伴う言語能力の低下や記憶障害は、他人とのコミュニケーションが難しくなり、自分の考えや感情を表現する手段として独り言を使うようになる場合があります。
また、認知症の患者は自分の状況を理解できないことや周囲の人との関係が希薄になることから、孤独感や不安を感じることもあるとされています。
これらの心理的な不安定さが、独り言を増やす原因となることがあります。
認知症とせん妄による独り言
さらに、せん妄を伴う認知症の場合、独り言が顕著になることがあります。
せん妄は、急激な意識の混乱、注意力の低下、認知機能の障害などを特徴とする状態であり、認知症の患者においては、よくみられる合併症だといわれています。
せん妄によって現実と幻覚や妄想の区別がつかなくなり、患者は自分の思いや感情を周囲に伝えることができず、独り言として表現することが多くなると考えられています。
そのため、せん妄を伴う認知症の患者のケアにおいては、独り言に注意を払い、適切な対応を行うことが重要とされています。
認知症の患者における独り言への対応法
認知症の患者における独り言への対応法としては、積極的なコミュニケーション、環境の改善、専門介護を導入などが挙げられます。
これらの対策を通じて、患者の精神的な安定や独り言の改善につながることが期待されます。
対応法① コミュニケーションを積極的にとる
認知症の患者における独り言を減らすための対策の一つとして、家族や介護者が積極的なコミュニケーションを取ることが挙げられます。
これは、患者が他人と会話をする機会を増やすことで、独り言の頻度を減らすことができるとされています。
具体的な方法としては、定期的に家族や介護者が患者と会話をする時間を設けることや、患者が参加できる社交活動の機会を提供することが考えられます。
これにより、患者は自分の思いや感情を言葉にして伝える機会が増え、独り言をする必要性が減ると期待されます。
対応法② 環境を改善させる
独り言を減らすためのもう一つの対策は、患者が安心して過ごせる環境を整えることです。
これは、患者の不安や孤独感を軽減し、結果として独り言を減らすことを目的としています。
具体的な方法としては、患者の好きな音楽を流す、写真や思い出の品を身近に置くなど、慣れ親しんだ環境を作ってあげることが挙げられます。
親しみのある環境は、患者に安心感を与え、心理的な安定を促すことが期待されます。
対応法③ 認知症の専門介護を導入する
認知症専門の介護サービスの活用も独り言の対策として効果的です。
認知症介護を専門とするデイサービスやショートステイ、在宅介護サービス等は、それぞれの患者に合わせたケアプランが提供されます。
自宅から施設に通うデイサービスでは、レクリエーションや体操などを通じて認知機能を高める機会や社会的交流の機会が提供されています。
ショートステイでは、短期間の施設滞在中に記憶力や言語能力等の機能を高めるようなプログラムも提供されています。
さらに在宅介護サービスでは、訪問介護員が自宅で認知症に特化したケアを行い、生活のサポートとともに認知機能の維持や向上を図るためのプランも提供されています。
これらのサービスを利用することで、認知症の患者の精神的な安定や独り言の改善につながることが期待されます。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。