認知症の人は水分不足?水分取らない?効果的な水分補給の工夫などについて解説

水分補給は人間の健康を維持する上で欠かせない習慣であるとされています。しかし、認知症になると水分補給が疎かになり、進行が加速する可能性があとされていることを皆さんはご存じでしょうか?

 

さらに、認知症には根本的な治療法が存在しないため、一度発症してしまうと、最期まで進行し続ける疾患だと言われています。

 

身近な人の認知症の発症を防ぐためにも、水分補給などの根本的な健康習慣に注意を払うことが重要だとされています。

 

この記事では、認知症と水分の関係性に焦点をあて、高齢者に効果的な水分補給の工夫などについて解説します。

 

 

水分補給の重要性

運動したり、暑い中外出すると、喉が渇いて水分補給をする。水分を摂取することは、皆さんが無意識に行っている生理現象だと思います。なぜなら、水分は私たちの体が正常に機能するために不可欠な要素だからです。

 

成人の体は約60%が水分で構成されてます。人間の体の細胞や臓器は、水分を利用して体温を調節し、体の機能を維持しているとされています。例えば、暑い環境にいると汗をかき、その汗が蒸発することで体温が下がり、体温を一定に保つことができます。

 

また、水分は栄養素を全身に運ぶ役割があります。栄養素は血液によって運ばれているため、血液の主成分である水分をこまめに摂取して、適切な粘度に保つことができるといわれています。

 

さらに、水分は排泄にも重要な要素です。腎臓は余分な塩分や不要な物質を排出するために水分を利用し、尿として排出されます。この過程が円滑に機能しないと、体内の毒素が蓄積され、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があるとされています。

 

これらは水分が私たちの体で果たすいくつかの主要な役割の一部であり、水分は他にも様々な役割を担っています。健康を維持するためには、日々十分な水分補給が必要です。

 

認知症の人が水分不足になる理由

認知症は認知機能が徐々に低下する病態です。認知機能が低下すると、記憶力や判断力など、脳の根本的な機能が少しずつ悪化し、日常生活に支障をきたすとされています。

 

そして、その一つが水分補給を怠ることです。認知症の方が水を飲まなくなる具体的な理由は以下のようなものがあると考えられています。

 

感覚の変化

高齢者、特に認知症の患者は、渇きの感覚が鈍くなることがあると考えられています。感覚の変化によって、患者が十分な水分を必要としているにも関わらず、喉が渇いていると感じられなくなるという問題を引き起こします。

 

認識の変化

認知症になると判断力が低下するため、自分自身が水分不足だという認識もなくなる可能性があるとされています。

 

例えば、何を飲むべきか、またはどの程度飲むべきかを理解するのが難しくなり、自分が水分を摂取する必要があるという事実自体を忘れてしまうこともあると言われています。

 

行動の変化

認知症は、新しい環境や状況に適応する力も奪うとされています。そのため、一部の認知症患者は、飲み物を摂取する行動が複雑であると感じ、身体を動かすことを避ける場合があると言われています。

 

また、頻繁にトイレに行くことへの恐怖から、故意的に水分摂取を控える患者もいるとされています。

 

研究で明らかになった水分不足と認知機能の関係

水分不足と認知機能の関係については、様々な研究で調査されてきました。2018年の研究では、水分不足のグループは適度に水分補給しているグループと比べて、同じ課題をこなすことへの脳の負担が大きいことが示されています。

 

2017年のスイスの研究では、高齢者は若い成人より、水分不足によって認知機能が低下する可能性が高いことが示唆されています。

もう一つの2018年の研究では、65歳以上の高齢者が断続的に水分不足になると、認知症を発症するリスクが大幅に高くなることも示されています。

 

これらの研究では、水分不足が脳に負担を与え、認知機能が低下する可能性が高いと考えられています。

 

出典:Exercise-heat stress with and without water replacement alters brain structures and impairs visuomotor performance

出典:Effects of Dehydration on Brain Functioning: A Life-Span Perspective 

出典:Neurocognitive Disorders and Dehydration in Older Patients: Clinical Experience Supports the Hydromolecular Hypothesis of Dementia

 

認知症の人が水分不足になると何が起こる?

認知症の患者は水分摂取が不足すると、身体的な問題だけでなく、心理的な問題にもつながる可能性があるとされています。

 

身体の問題

水分摂取不足の一般的な身体への影響は脱水症状です。脱水症状は、水分不足によって身体が正常に機能しなくなる症状です。一般的には、頭痛、乾燥した口、混乱、極度の疲労などといった形で現れます。

 

また脱水症状になると、便秘、熱中症、食欲低下、尿路感染症など、様々な病気を引き起こす可能性が高いとも言われています。

 

心理の問題

認知症による水分不足は心理的な問題も引き起こす場合があるとされています。水分不足になると、身体のエネルギーが徐々に失われ、意欲の低下につながります。

 

活動への意欲が低下すると、外出する機会が減少し、社会的な孤立や運動不足などになる可能性が高まります。そして、認知症患者の心理的な影響が大きいほど、うつ病や不安症状などの精神障害も引き起こす場合があるようです。

 

認知症の人が一日に飲むべき水分量

全国訪問看護事業協会によると、認知症の方に限らず、一般の成人は約1リットルの水分を摂取することが推奨されています。水分は飲料以外にも、食事から約1.5リットル摂取することが必要だとされています。

 

一方、水分は体に良くても、飲みすぎは体に悪影響を及ぼします。水分を過度に摂取してしまうと、「水中毒」になる可能性があります。

水中毒は体内の水分のバランスを崩し、最悪の場合死に至るケースもあるとされています。特に認知症患者は判断力が衰えているケースが多いため、身近な人が水分の摂取量を管理することが勧められています。

 

出典:高齢者の「脱水」

 

認知症に効果的な水分補給の工夫

認知症患者に効果的な会う遺文補給の工夫は以下のようなものがあります。

 

1. 好みの飲み物を探す

水分補給は水だけでなく、患者が好む飲み物でも構いません。例えば、コーヒー、ジュース、お茶などを摂取することも水分補給になります。好きな飲み物であれば、自発的に摂取する意欲も高まるでしょう。

 

また、飲み物の温度も好みに合わせて調節することも重要です。冷たい飲み物よりも常温や温かい飲み物の方が飲みやすい人もいます。

 

2. 飲み物を近くに常置する

認知症の方は、自分の喉が渇いていることを自覚できない場合があります。そのため、視覚的に飲み物を常に見える場所に置くことで、水分補給を思い出させることが可能です。

 

飲み物を手の届く位置に置いておくことで、患者さんが自分で飲み物を取る行動もサポートできます。

 

3. 食べる飲料を摂取してみる

飲み物だけでなく、ゼリーや寒天、果物などの食べる飲料も水分補給になります。特に、嚥下が困難な方や食欲がない方には、ゼリータイプの飲料が有効だと推奨されています。

 

まとめ

  • 認知症の方は水分補給をしなくなる傾向があり、認知症の進行を加速させる可能性がある。
  • 水分補給は体温調節、栄養素の運搬、排泄などの体の機能を維持するために重要である。
  • 認知症の方は感覚の変化、認識の変化、行動の変化などにより水分摂取が減る。
  • 認知症の方が水分を摂らないと、脱水症状や心理的な問題が発生する可能性がある。
  • 一般の成人は約1リットルの水分を摂取することが推奨されており、認知症の人も同様に十分な水分補給が必要である。
  • 認知症の人への水分補給の工夫として、好みの飲み物を探す、飲み物を近くに常置する、食べる飲料を摂取するなどの方法がある。

 

認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要

認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。

 

そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。

 

MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。

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-認知症の症状, 認知症を予防する

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