高齢化が進んでいる日本では、認知症の患者数が年々増加傾向にあるとされています。
認知症は、根本的な治療法が存在しないないため、一度発症すると最期まで進行し続ける深刻な病気です。
身近にいる大切な人、そして自分自身の認知症発症を防ぐためには、まず認知症の知識を深めることが重要とされています。
今回は、認知症の進行段階の一つ、「末期」に見られる症状、余命、介護方法などについて詳しく解説します。
認知症予防のための有益な情報として皆さんのお役に立てれば幸いです。
認知症の末期とは
認知症は、初期段階、中期段階、末期段階の3つの進行段階に大きく分かれています。
その中で、認知症の末期は病気の最終段階を指し、患者の状態が最も進行している状態とされています。
初期から中期の段階においては、認知症の種類によって様々な症状が現れるとされています。
例えば、アルツハイマー型認知症では初期段階で主に記憶障害が見られますが、レビー小体型認知症では加えてパーキンソン症状があるとされています。
しかし、認知症が末期に至ると、認知症の種類に関わらず類似した症状が現れる傾向があるとされています。
これは、末期段階においては著しいかつ恒久的な脳損傷が発生しているためと考えられています。
認知症の末期の症状
認知症の末期には以下の症状が特徴として挙げられます。
認知症末期症状1. 記憶問題が重度になる
末期の認知症患者は、記憶問題がより重度になり、過去の出来事を思い出せないことが多いとされています。
例として、患者は自分が人生のより早い時期にいると思い込むことがあるようです。
そのため、既に亡くなった人に会いたいと要求することや、現実とのギャップにより落ち込むこともあると言われています。
さらに、末期の患者はなじみのある場所、物、人を完全に忘れてしまう可能性があるとされています。
鏡に映った自分自身や、親しい友人や家族を認識できなくなることがあるようです。
これは、彼らがその人を若い頃の姿でしか記憶していないために起こると考えられます。
認知症末期症状2. 言語障害が悪化する
言語障害は認知症の初期、そして中期段階に見られますが、末期になるとその症状が重度になるとされています。
認知症の末期段階にいる患者が複数の言語を話せる場合、人生の後半に習得した言語の一つを失い、最終的には幼少期に習得した言語のみを理解すると言われています。
また、最終的にわずかな単語のみが理解できるようになり、話す能力が完全に失われることもあるとされています。
この段階の認知症の人は、理解不能な言葉や、ジェスチャー、表情などで自分の心情を周囲の人に表現すると考えられています。
認知症末期症状3. 行動が変化する
認知症の中期に特有な行動の変化は、末期でも同様に観察される症状です。
末期になると、感じていることを言葉で表現することが一層困難になるとされています。これが、攻撃的な行動の増加につながることがあるようです。
介助しようとする人に対して手を挙げたり、怒鳴ったりするケースがあり、攻撃性がより顕著になるとされています。
認知症の患者が攻撃的になるのは、恐怖や脅威を感じたり、混乱しているときとされています。
また、落ち着きがないことも行動の変化として現れることがあり、人や物を探してうろうろするような振る舞いを見せることがあると言われています。
行動に突然の変化が見られる場合、それは痛みや感染症、せん妄などの健康問題の兆候である可能性が考えられます。
認知症末期症状4. 気分が変動する
認知症の末期においても、気分の変化は一般的な症状として見られます。
末期の患者に観察される気分の変動には以下のような状態があるとされています。
・うつ病
・興味や関心の喪失
・妄想
・幻覚
・幻聴
末期の認知症患者は、言葉によるコミュニケーションよりも感覚的な刺激に対する反応が顕著になることが多いです。
音楽を聴くことを好んだり、さまざまな物の質感を感じ取ることに喜びを見出すことがあると言われています。
認知症末期症状5. 身体的行動が困難になる
身体的な行動は認知症の末期に悪化する傾向にあるとされています。
この段階で見られる症状は、具体的に以下のようなものがあります。
・歩行障害(足を引きずる、歩行が不安定になるなど)
・座っている時間やベッドに横たわっている時間が長くなる
・尿失禁
・日常生活活動(食事、入浴、トイレの使用など)における困難
・嚥下障害
これらの症状は非常に深刻で、場合によっては命に関わる可能性もあるため、患者が日常生活を送る上で可能な限りのサポートが必要です。
認知症末期症状6. 他の健康問題が増える
末期の認知症における症状として、他の健康問題が増えることが指摘されています。
その例として、移動能力の低下による感染症や血栓症、嚥下障害による肺炎などがあります。
これらの病気は、認知症患者の主な死因とされています。
出典:Understanding How Dementia Causes Death
認知症の末期の余命とは
認知症と診断された後の余命は、年齢によるため、2年から26年と幅広いとされています。
しかし、認知症が末期段階になると、余命は個人によって異なるものの、平均すると1~2年程度と考えられています。
余命が短くなる要因としては、患者の年齢、他の健康上の問題(高血圧、心疾患、糖尿病など)、せん妄の程度などがあるとされています。
しかし、認知症の末期における余命を正確に予測する方法は存在しません。
平穏な生活を送るために、後ほど紹介する末期のケア方法を参考にしてください。
また、認知症に不安を感じている場合は、早めに医療機関への相談をお勧めします。
出典:Dementia Life Expectancy: progression and stages after diagnosis
認知症の末期における介護方法
認知症の末期になると、生活のほとんどの側面に深刻な影響を与えるため、患者は常時介護が必要になることが多いです。
末期の患者さんへの介護は、その人の状態や家族の事情に応じて異なるアプローチを要します。
以下では、在宅介護と介護施設での介護方法を取り上げ、それぞれに適した患者さんの特徴について解説します。
1. 在宅
在宅介護を選択する場合、家族や訪問介護スタッフが常時支援できる環境が整っていることが重要です。
具体的には、食事の支度、個人衛生の補助、服薬の管理などが含まれます。また、住環境を安全かつ快適にするための改善も求められます。
例としては、滑りにくい床材の選択、手すりの設置、トイレのバリアフリー化が考えられます。
在宅での介護は、家族の援助を受けつつ、慣れ親しんだ環境で安らぎたい患者に適しています。
2. 介護施設
介護施設では、訓練を受けたスタッフが24時間体制で患者さん一人ひとりのニーズに合わせたケアを行います。
これには認知症専門の老人ホームや介護医療院が含まれます。
定期的な健康チェック、薬の管理、緊急時の対応などが施設側の責任となります。
また、社会的な交流やレクリエーションプログラムを通じて、生活の質の向上を図る取り組みも多く行われています。
専門的な介護が求められ、在宅でのケアが難しいと判断された患者に、介護施設でのケアが推奨されます。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。