厚生労働省によると、喫煙は成人の主要な死因であり、全がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病、歯周病、循環器疾患などの病気を引き起こすとされています。
これらの疾患に加えて、喫煙が認知症のリスクを高める可能性があることをご存知でしょうか?
実際、世界保健機関(WHO)は喫煙が認知症患者の約14%の発症要因であると報告しています。
現在認知症に対する完治法は存在せず、一度発症すると病気は終末期まで進行するとされています。そのため、禁煙を含む予防対策が極めて重要です。
この記事では、認知症と喫煙の関係、および喫煙者が取り組むべき認知症の予防対策について詳しく解説します。
出典:WHO Tobacco Knowledge Summaries Tobacco & Dementia
認知症とは
認知症は、記憶力、言語力、想像力などの認知機能の低下が特徴であり、日常生活に支障をきたす病態の総称です。
2025年には、国内の有病者数が約700万人に上昇し、高齢者の5人に1人が認知症を発症すると推測されています。
認知症患者の約6割はアルツハイマー型認知症に該当するとされています。
他にはレビー小体型認知症、脳血管性認知症、アルコール性認知症、前頭側頭型認知症など、認知症の種類は多岐にわたります。
発症の原因としては、高齢、脳疾患、糖尿病、高血圧などが考えられますが、明確な原因はまだ特定されていません。
身近な人や自分自身が認知症にかかっているかどうか気になる方は、早急に医療機関を受診することが推奨されています。
喫煙は認知症の発症要因
喫煙による健康被害が深刻であることから、認知症との関係については過去に多くの研究が行われています。
世界の4大医学誌の一つである「ランセット」のまとめによると、喫煙は認知症の12の発症要因の中で3番目にリスクが高いと位置づけられています。
また、喫煙者は非喫煙者に比べて、認知症を発症する可能性が2~3倍高いという研究結果が示されています。
研究者たちは、認知症と喫煙の間には強い関連性が数々の研究で示されているものの、因果関係についてはまだ断言できないと表明しています。
出典:Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission
出典:World Alzheimer Report 2023 Reducing dementia risk: never too early, never too late
喫煙が認知症を引き起こす原因とは
喫煙が認知症を引き起こす原因については、まだ完全には解明されていません。
研究者たちは、喫煙によって生じる酸化ストレス、認知症のリスクと関連する病気の発症、および血流の悪化を主要な原因として考えています。
原因① 酸化ストレス
研究者たちは、喫煙が引き起こす酸化ストレスが原因であると考えています。
酸化ストレスとは、細胞内の有毒な酸化物質とこれを中和する抗酸化物質の間のバランスが崩れた状態を指します。
研究者たちによると、喫煙による酸化ストレスが認知症のリスクを高める可能性があるとされています。
出典:Smoking and increased Alzheimer's disease risk: a review of potential mechanisms
原因② 認知症のリスクと関連する病気の発症
喫煙は、認知症の発症リスクを高める病気の発症要因とされています。
例えば、心疾患、糖尿病、脳梗塞など認知症の発症要因とされる病気が喫煙によって引き起こされるとされています。
これらの病気は、アルツハイマー型認知症と血管性認知症に繋がると考えられています。
原因③ 血流の悪化
喫煙は血管の構造を損傷し、血液中の酸素濃度を低下させると言われています。
脳は体からの酸素供給の約20%を使用しているため、喫煙により脳への酸素豊かな血液供給が妨げられるとされています。
その結果、脳細胞が必要とする栄養素を十分に得られなくなり、これが認知症の発症リスクに繋がる可能性があると考えられています。
出典:Aggregation of vascular risk factors and risk of incident Alzheimer disease
喫煙の頻度が高くなるほど認知症の発症リスクが上がる?
2014年に発表された世界アルツハイマー病報告書によると、喫煙量が多いほど認知症の発症リスクが高まることが示唆されています。
さらに、フィンランドの研究者たちによる報告によれば、喫煙頻度が低いグループに比べて、喫煙頻度が高いグループでは認知症を発症するリスクが2倍以上高いことが示されています。
しかし、喫煙の頻度と認知症の発症リスクとの関連についての研究はまだ少なく、その根拠は不十分とされています。
喫煙頻度と認知症の発症リスクとの関係をより深く理解するためには、さらなる研究が必要です。
出典:World Alzheimer Report 2014 Dementia and Risk Reduction
出典:Heavy smoking in midlife and long-term risk of Alzheimer disease and vascular dementia
受動喫煙も認知症を引き起こす?
非喫煙者も受動喫煙によって認知症を引き起こす可能性があると考えられています。
受動喫煙とは、喫煙者の周囲にいることにより煙草の煙を吸い込む状況を指します。
例えば、喫煙スペースの近くにいる場合や、街中で喫煙者の近くを通り過ぎること、または喫煙者と同じ場所で呼吸することが受動喫煙に該当します。
世界中では、非喫煙者の成人の35%と子供の40%が受動喫煙にさらされていると推定されています。
研究によると、受動喫煙は認知機能の低下を引き起こす可能性があり、露出の頻度や時間が長いほどリスクが高まることが示唆されています。
しかし、受動喫煙と認知症の関連性に関する研究はまだ少なく、喫煙が必ずしも認知症を引き起こすとは断言できません。
喫煙を辞めるには
喫煙歴と認知症との関係についての研究結果にはばらつきがあるため、禁煙によって認知症の発症リスクを低減できる可能性があるとされています。
しかし、タバコへの依存度が高くなるにつれて、禁煙が難しくなることもあります。そのため、適切な対策を取ることが重要です。
日本呼吸器学会による適切な禁煙方法を以下に3つまとめました。
禁煙方法についてより詳しく知りたい方は、下記の出典情報をご覧ください。
出典:日本呼吸器学会 禁煙のしかた~成功に導く禁煙プランのたてかた~
禁煙の計画を立て、意思を明確にする
まず、禁煙を始める前に、念入りに準備することが必要です。
準備には、禁煙に対する意志を明確にすること、開始日の設定、喫煙欲求が高まった際の対策を練ることなどが含まれます。
具体的には、職場で禁煙宣言をしたり、禁煙治療用アプリの利用することなどが挙げられます。
周囲の人や専門医との相談を通じて、禁煙計画を慎重に立てることが推奨されます。
禁煙イベントに参加する
医療機関や学会が主催する禁煙イベントは、禁煙を成功させる上で効果的であるとされています。
イベントの内容には、禁煙に関する学びや、集団での禁煙チャレンジコンテストなどが含まれています。
禁煙イベントへの参加は、周囲の禁煙を目指す仲間と共にモチベーションを維持することが
できます。
禁煙補助薬に頼る
ニコチン(タバコの主成分)への依存度が重度の場合、禁煙補助薬が一つの手段となります。
禁煙補助薬は、禁煙による離脱症状(イライラ、落ち着きのなさ、頭痛、眠気など)を軽減する効果があるとされています。
日本で入手可能な禁煙補助薬には、ニコチンガムとニコチンパッチがあります。
ニコチンガムは、噛むことで体内にニコチンを吸収する特徴を持ち、薬局で購入できます。
一方、ニコチンパッチは、皮膚に貼ることでニコチンを吸収するという特徴があり、医師の処方箋が必要です。
WHOガイドラインにおける認知症の予防対策8選
WHOのガイドラインでは、禁煙以外に以下の8つの対策が認知症の予防に効果的と提言しています。
これらの予防対策をバランス良く生活に取り入れることが推奨されています。
・定期的な運動
・健康的な食事習慣
・アルコールの使用制限
・認知機能のトレーニング
・社会参加・交流
・適正体重の維持
・持病の管理(高血圧・糖尿病・脂質異常症・難聴)
・うつ病の治療
出典:WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」
まとめ
認知症に限らず、命に関わる病気に罹患するリスクが非常に高いのが喫煙の恐ろしいところです。
喫煙によって得られる一時的な快感やメリットがあるかもしれませんが、将来的に健康な生活を維持するためには禁煙が重要です。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は禁煙などの予防対策を徹底的に行うと同時に、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。