更年期は女性の人生における自然な過程の一つです。
月経が完全に停止する閉経時期の約5年前後を指し、通常は40代後半から50代前半にかけて発生するとされています。
この期間中、女性のエストロゲン分泌量が急激に変化し、体に様々な影響を及ぼすことが知られています。
その中でも「物忘れ」は、更年期における一つの主要なな症状とされています。
本記事では、更年期の物忘れと認知症とが、どのように関連しているのかについて詳しく解説していきます。
更年期の症状
女性が更年期に差し掛かると、ホルモンバランスの激しい変動が起こり、それに伴って特徴的な症状が現れるといわれています。
以下は、更年期に特に現れやすいとされている症状です。
①不規則な生理
→ 出血が一週間以上続く、出血量が多い、数ヶ月後に出血するなど、生理周期の変動が見られます。
②ホットフラッシュ
→ 顔や首、上半身に突然のほてりを感じ、それに伴う発汗が挙げられます。
③排尿障害
→ 頻尿や急な尿意、さらには失禁障害など、排尿に関する問題が起こるとされています。
④睡眠障害
→ 寝付きが悪くなったり、夜中に何度も目覚めることなどにより、良質な睡眠を取ることが難しくなると言われています。
⑤気分の変化
→ イライラしやすくなったり、怒りっぽくなったり、情緒不安定になることがあります。
⑥物忘れ
→ 物忘れが増え、日常生活においても影響が出ることがあるとされています。
⑦身体的な不調
→ 肩こり、動悸、吐き気、頭痛、めまいなどの身体的な不調症状が顕著になる可能性が高いとされています。
更年期の症状は、身体的なものに限らず、心理的な不調も多く、家族や友人、職場の人間関係に影響を及ぼす可能性があるとされています。
出典:National Institute of Aging “What is Menopause?”
更年期による物忘れ
年齢が上がるにつれて、物忘れは自然な現象として一般的なものとされています。
しかし、特に更年期にある女性では、物忘れの症状が顕著になり、仕事や日常生活に支障をきたすほど影響を与えることが多いとされています。
ハーバード大学医学部の調査によると、更年期の物忘れの背後には、脳内のエストロゲンレベルの変動が深く関係しています。
エストロゲンは、記憶力を含む脳の機能において重要な役割を果たしており、そのバランスの変化が物忘れを引き起こしやすくしていると考えられています。
更年期の物忘れは、単純な忘れ物から始まり、日常的な事柄に対しての注意力が散漫になるまでに及ぶことがあります。
例えば、日常的に使用する言葉や、親しい知人の名前が思い出せないといったような状況に陥ることがあるとされています。
さらに、集中力の低下が見られる場合、仕事や特定の作業をしている最中にぼーっとしてしまう時間が増えたり、重要な会議の内容をすぐに忘れてしまうようなことがあるようです。
出典:Menopause and memory: Know the facts
更年期の物忘れは治るの?
更年期に伴う物忘れの程度については、その人の体質や生活習慣、環境、およびストレス量に大きく左右されると言われています。
一方で、多くの場合は更年期を過ぎてホルモンバランスが安定すれば、物忘れの症状も自然に改善されるとされています。
生活習慣の改善、適度な運動、そして健康的な食生活を心がけることで、症状の軽減を促すことが可能であると考えられています。
ただし、物忘れが悪化する場合は、認知症などの病気が潜んでいる可能性も考慮する必要があるようです。
更年期と認知症の関係とは?
近年、更年期と認知症との関係に注目が集まっています。
2024年1月にユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で発表された研究によれば、エストロゲンの分泌期間が短い人、つまり生理が始まってから更年期に至るまでの期間が短い人は、認知症を発症するリスクが高いことが示されました。
また、2023年9月に公開されたアメリカの共同研究では、更年期における夜間のほてりが認知症リスクを増加させる可能性が発表されました。
これらの研究成果は、更年期と認知症の関連性を示唆していますが、その具体的な因果関係はまだ完全には明らかにされていません。
更年期における身体的変化が認知症の発症にどのように影響を与えるのか、さらに研究が求められています。
出典:The Effects of Estrogen on the Risk of Developing Dementia: A Cohort Study Using the UK Biobank Data
出典:Hot Flashes Yet Another Early Indicator for Alzheimer’s Disease
更年期の物忘れと認知症の違い
更年期における物忘れと認知症は、同様に物忘れの問題を引き起こす可能性がありますが、これら二つの状態は明確に異なる特徴を持っています。
更年期の物忘れと認知症の違いを以下の表にまとめました。
更年期の物忘れ | 認知症 | |
期間 | 一時的(更年期:約10年) | 一度発症すると最期まで進行 |
発症時期 | 40代~50代 | 主に高齢者(65歳以上) |
原因 | エストロゲン分泌量の急激な変化 | 脳に異常なたんぱく質の蓄積、脳疾患、心疾患、高血圧、糖尿病等 |
記憶力 | 一般的に更年期を終えると改善 | 徐々に低下 |
物忘れ以外の症状 | 不規則な生理、ホットフラッシュ、気分の変化、睡眠障害等 | 見当識障害、判断力と理解力の低下、言語障害等 |
これらは一般的な知識ですが、認知症や更年期による物忘れが気になる場合は、自己診断せずに専門医に相談することを推奨します。
更年期の物忘れと認知症への対策
更年期の物忘れへの対策
更年期の物忘れは、生活習慣の見直しを通じて改善を図ることができると考えられています。以下に、更年期の物忘れを低減する効果があるとされている対策を挙げます。
・十分な睡眠と規則正しい生活を心がける
・メモや日記をとる習慣をつける
・野菜と魚中心の健康的な食事
・運動の習慣化
・脳の活性化(脳トレ、趣味、読書、社会交流)
・ストレスの管理(外出、趣味、人との交流)
さらに、更年期の物忘れには、エストロゲンを補うことができる「ホルモン補充療法(HRT)」が効果的とされています。
認知症への対策
更年期の物忘れと同じく、認知症も生活習慣の改善が効果的な対策の一つとされています。
以下のような予防対策を心がけることで、認知症の発症、進行におけるリスクを軽減することが可能だと考えられています。
・持病の管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病等)
・運動の習慣化
・野菜と魚中心の健康的な食事
・脳の活性化(脳トレ、趣味、読書、社会交流)
・過度な飲酒を控える
・禁煙
これらの対策を生活に取り入れることにより、更年期の物忘れと認知症予防のそれぞれにに対して、対策を講じることを意識されてはいかがでしょうか。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。