認知症は、日本において65歳以上の高齢者のおよそ15%が発症すると言われている誰にでも起こりうる症状です。
非常に身近でありながら、きちんとその原因を知っている方は少ないのではないでしょうか?
認知症とは、病名ではなく、認知機能の低下により日常生活に支障をきたす病気の総称です。
つまり、「認知症の原因」は「認知症の原因疾患」と言い換えることができます。
認知症を引き起こす原因疾患は、「加齢」「生活習慣病」「頭部のケガ」「脳内での異常なタンパク質の蓄積」など様々な原因によって発症するとされています。
この記事では、認知症の原因や症状に加えて認知症予防のポイントを解説します。少しでも進行を遅らせるためにも、きちんと認知症について学んで対策をたてましょう。
認知症の主な原因
もの忘れや判断の低下、社会性の欠如などは、認知症の症状としてよく知られています。
では、この認知症を引き起こす原因はどのようなものがあるのでしょうか。
大前提の考え方は「脳の機能低下」
大前提として認知症は、脳細胞の死滅などによる脳の機能低下により発症します。
たとえば、最も患者数が多いアルツハイマー型認知症は、脳内でアミロイドβやタウといった特殊なタンパク質が蓄積し、脳細胞を破壊することで認知症を発症します。
認知症は、さまざまな原因で引き起こされますが、多くの認知症で脳内の脳細胞の死滅がみられます。
認知症の原因になる病気
代表的な認知症疾患は、以下の4つです。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 血管性認知症
- 前頭側頭葉変性症
それぞれの病気について詳しくみていきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、現在最も多い認知症です。アミロイドβやタウなどが脳細胞を死滅させ、脳の記憶や空間学習能力に携わる海馬が萎縮することで認知症が発症します。
アルツハイマー型認知症は、高齢になるほど多くなりますが、高血圧や糖尿病など生活習慣病があるとかかりやすくなります。また、遺伝によってもアルツハイマー型認知症が引き起こされると言われています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と同様に脳にタンパク質が蓄積されることで発症する認知症です。
レビー小体型認知症は、αシヌクレインという蛋白質からなるレビー小体が脳細胞を障害することにより発症します。レビー小体はパーキンソン病も引き起こす物質です。
このレビー小体が発生して蓄積される機序についていくつか仮説が提唱されていますが、いまのところ解明されていません。
血管性認知症
血管性認知症は、アルツハイマー型認知症の次に患者数が多い認知症で、脳梗塞や脳出血のような血管障害が原因です。脳の血流が悪くなったり、血液が溜まったりすることで脳の機能が妨げられ、結果認知症が引き起こされます。
血管性認知症の原因となる血管障害は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が関係します。
前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症は、前頭葉や側頭葉の萎縮が目立つ認知症です。そのなかには行動面や人格面の変化が目立つ前頭側頭型認知症、言葉の意味がわからなくなる意味性認知症、たどたどしい話し方が目立つ非流暢性失語症の3つのタイプがあります。
前頭側頭型認知症は比較的若い患者が多く、70歳未満で発症しているケースが多いです。
内科や脳外科の病気による認知症
これまで述べてきた代表的な認知症以外にも認知症を示す病気はたくさんあります。
内科の病気では甲状腺機能低下症がしばしば認知症となります。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの不足により脳の動きが鈍くなる認知症です。
甲状腺機能低下症は、女性に多く見られ、40歳以降の女性の約1%が発症すると言われています。
このほかにもビタミンB群欠乏症や梅毒感染症などの内科の病気で認知症が発症します。
また、脳外科の病気でも認知症がみられます。正常圧水頭症は、脳室に脳脊髄液が異常に貯留する病気で、認知症とともに歩行障害や尿失禁などがみられます。
頭部を打撲したときにできる脳内の血腫や脳腫瘍が認知症の原因になることもあります。
これらの内科や脳外科の病気は早期に発見することで根本的な治療が可能であり、認知症も改善します。
このほか高齢者ではうつ病で認知症と非常によく似た状態を示したり、治療薬によって認知機能の低下をきたしたりすることがあります。
認知症の主な症状
認知症は種類によって、原因だけでなく症状も異なります。
種類 | 症状 |
アルツハイマー型認知症 | ・もの忘れ ・失禁 ・会話困難 ・嚥下障害 ・歩行障害 |
レビー小体型認知症 | ・手足の震え、こわばり ・歩行障害 ・幻聴、幻覚 ・認知機能障害 ・表情の欠如 |
脳血管性認知症 | ・手足の震え ・もの忘れ ・麻痺 ・嚥下障害 ・言語障害 |
前頭側頭型認知症 | ・社会性の欠如 ・同じ行動の繰り返し ・活動意欲の低下 ・感情が無くなる |
甲状腺機能低下症 | ・疲労感 ・記憶力の低下 ・抑うつ ・食欲の低下 ・むくみ |
認知症は、経過期間によって現れる症状に変化があります。
たとえば、アルツハイマー型認知症は初期の場合、記憶障害が起こり、判断力が低下します。認知症が進行すると、言語も忘れてしまい、会話ができなくなったり、着替えや排泄行為など身体的な介助が必要になります。
認知症予防のポイント
認知症に対しては、対策をすることで進行を遅らせることができます。
認知症予防には、以下の3つのポイントをおさえましょう。
食生活に注意する
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が認知症になりやすくすることが報告されています。
食べ過ぎや飲み過ぎに注意し、バランスの良い食生活を心がけましょう。
適度な運動をする
適度な運動は、生活習慣病の予防となります。
さらに、運動することは脳の刺激にもなり、認知症予防にも効果的だと言われています。
積極的にコミュニケーションをとる
認知症の予防には脳への刺激が大切です。他の人とコミュニケーションを取ることで、脳に刺激を与えましょう。
認知症予防では、ご自身が無理なく続けることが大切です。
無理な運動や過剰な食事制限は継続が難しく、さらにストレスにもなります。
ご自身でできる範囲で、適度な運動、バランスの良い食生活、そして人と交流することで、無理なく楽しく予防を行いましょう。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
認知症の原因を理解して適切な対策を進めましょう
認知症の種類によって、引き起こされる症状が違います。もし、上にご紹介した症状に当てはまる場合は、一度近くの病院や高齢者支援センター(地域包括支援センター)に相談するとよいでしょう。
症状が無い場合でも、認知症はいつ発症するかわかりません。少しでも認知症の進行を遅らせるためにも、普段の生活を見直し、健康的な生活をこころがけましょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。