認知症患者の介護費用には、通院費やリハビリ代、老人ホームの費用などさまざまあり、経済的負担が大きくかかります。
この記事では、認知症患者の介護にかかる費用の相場と、負担を軽減するために備えておくべきことについて解説します。
認知症に対して何の備えもしていないと高額な費用が発生し、経済的に大きな負担となってしまいます。万が一に備えて準備をするための参考にしてください。
認知症の介護に必要な費用はどれくらい?
認知症を発症すると、リハビリ代や通院費に加えて、おむつ代やバリアフリーのための住宅修繕費など、さまざまな費用が発生します。
認知症の進行度合いや介護方法(在宅介護や施設介護)によって介護費用の総額は異なりますが、目安として介護費用がどれくらい必要なのかをみていきましょう。
そもそも介護は大きく2種類
費用の解説の前に、介護の方法について解説します。
認知症の介護方法は、在宅介護と施設介護の大きく2種類があります。在宅介護は自宅で介護を受ける方法で、施設介護は老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に入居して介護を受ける方法です。
介護費用は、どちらの介護方法を選ぶかによって異なります。
介護保険のサービスは1割or2割負担
介護が必要になった場合、介護保険のサービスを受けられます。
介護保険とは、介護が必要な方のための社会保険制度であり、40歳以上の方は加入が義務づけられています。介護保険のサービスは40歳以上から受けられ、介護費用の自己負担は基本的に1割となっており、所得の多い方は2割もしくは3割負担となります。
介護保険のサービスは、居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスの3種類があります。
居宅サービスは、訪問介護や通所介護、さらには自宅介護に必要な住宅修繕費の支給も対象です。施設サービスは、老人ホームや医療施設での介護など、要介護と認定された方が対象です。地域密着型サービスは、サービス利用者が住み慣れた地域で介護を続けるため、その地域のグループホームや訪問介護を受けられるサービスです。
参考:厚生労働省
在宅介護の場合
家計経済研究所の調査によると、在宅介護にかかる費用は、1人あたり平均5万円/月であるとわかりました。ここからは、介護の種類ごとにかかる費用をみていきます。
在宅介護にかかる費用は大きく2つ
在宅介護にかかる費用は、上述の介護保険サービスにかかる費用とそれ以外の費用の大きく2つです。
介護保険サービスには、訪問介護にかかる費用や住宅の修繕費等が発生し、月に16,000円ほど必要だといわれています。
一方、介護保険サービス以外の費用とは、おむつなどの介護用品や通院費などの医療代です。
月に34,000円ほどかかり、介護にかかる費用の半数以上を占めます。
要介護度別の平均費用
在宅介護にかかる費用は1ヵ月あたり平均5万円ですが、要介護度によって異なります。
要介護度とは、必要な介護保険サービスを受けるための基準で、5段階に分けられています。
種類 | 状態 | 介護保険サービスの費用 | 介護保険サービス以外の費用 |
要介護1 | 歩行が不安定で、部分的な介助が必要 | 7,000円 | 26,000円 |
要介護2 | 排泄や入浴に介護が必要 | 14,000円 | 30,000円 |
要介護3 | 排泄、入浴、着替えに介護が必要 | 25,000円 | 35,000円 |
要介護4 | 生活において全面的に介護が必要 | 17,000円 | 42,000円 |
要介護5 | 全面的に介護が必要でコミュニケーションをとるのも困難 | 21,000円 | 53,000円 |
表のように、要介護度が高くなるにつれて介護保険サービスとそれ以外にかかる費用の負担は大きくなります。
施設介護の場合
施設介護は、老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの施設に入居して介護を受ける方法です。
施設介護は、自治体や社会福祉法人が運営する公的施設と民間施設で費用が異なります。
公的施設
自治体や社会福祉法人が運営する公的施設は、上述の介護保険制度の基準によって入居できる施設が分かれています。
要介護3以上の人が入居できるのが特別養護老人ホーム、要介護1以上の人が入居できるのが介護老人保健施設、要介護1以上で医療処置やリハビリを必要とする人が入居できるのが介護療養型医療施設です。
公的施設 | 特徴 | 平均月額料金 |
特別養護老人ホーム | 終身利用が可能 | 15万円前後 |
介護老人保健施設 | 在宅復帰を目指し、一定期間経過すると退去しなければならない | 10〜20万円前後 |
介護療養型医療施設 | 65歳以上で医療処置がメイン | 15万円前後 |
公的施設では初期費用が不要なため、民間施設よりも費用を安く抑えられるのがメリットです。
民間施設
民間施設は、公的施設と比べて費用が高くなる一方で、手厚いサポートやサービスを受けられることが特徴です。
民間施設には5種類あり、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームに分かれます。
民間施設 | 特徴 | 平均月額料金 |
介護付き有料老人ホーム | 食事から入浴、排泄までの生活支援、介護まで幅広いサービスを受けられる | 25万円前後 |
住宅型有料老人ホーム | 主に食事と洗濯などの生活支援が受けられ、介護が必要な場合は外部のサービスと契約する必要がある | 15〜30万円前後 |
健康型有料老人ホーム | 自立した状態の人が入居でき、掃除や洗濯など家事サポートが受けられる | 10〜40万円前後 |
サービス付き高齢者向け住宅 | スタッフが常駐する住宅に居住し、必要に応じて介護サービスを受けられる | 10〜30万円前後 |
グループホーム | 要介護に入居者が共同生活をする。サポートを受けながら自立した生活を過ごす | 15〜30万円前後 |
民間施設は、月額費用に加えて、入居時に支払う入居一時金が発生します。
入居一時金は、施設によって相場が大きく異なり、無料の施設もあれば数百万円かかることもあります。
在宅介護と施設介護はどちらが良い?
認知症の介護には在宅介護と施設介護の2種類ありますが、どちらを利用すべきなのでしょうか?
自身にあった介護を利用するために、それぞれのメリットとデメリットを把握しておきましょう。
在宅介護の特徴
まずは、在宅介護の特徴について解説します。メリットとデメリットがありますので、きちんと理解した上で選択できるようにしておきましょう。
メリット
在宅介護のメリットは、大きく以下の2点です。
・住み慣れた環境で介護を受けられる
・費用を抑えられる
在宅介護は、本人の住み慣れた環境で介護を受けられるため、精神的負担がかからないことが特徴です。
また、施設介護のように生活全般を介護するのではなく、必要に応じて介護を受けるため、介護費用を安く抑えられます。
デメリット
一方、在宅介護には以下のようなデメリットもあります。
・親族の介護負担が大きい
・緊急時にすぐ対応できない可能性がある
在宅介護の場合、訪問介護やデイサービス以外の時間は親族が介護をする必要があるため、親族の介護負担が大きくなります。さらに、介護施設のように介護士が常駐しているわけではないため、万が一の際にすぐに対応できないことがデメリットとして考えられます。
施設介護の特徴
続いて、施設介護のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
施設介護のメリットは、大きく以下の4点です。
・常時専門の介護が受けられる
・緊急時にすぐ対応してくれる
・入居者同士の交流がある
・親族の介護負担が軽減される
施設介護では、介護士や医療従事者などの専門家による介護を常時受けられることがメリットです。訪問介護では決まった時間にのみ介護を受けられますが、介護施設では常時見守ってくれるため、緊急時にもすぐに専門家が対応してくれます。
また、施設介護にはさまざまな入居者が集まるため、入居者同士の交流が生まれます。介護を専門家に任せることで、入居者の親族の介護負担が軽減されることも大きなメリットです。
デメリット
一方、施設介護には以下のようなデメリットもあります。
・費用が高い
・入居者同士のトラブルが発生する可能性がある
介護士や医療従事者に介護を任せるため、親族が介護をするよりも金銭的負担は大きくなります。比較的費用を抑えられる公的施設であっても、月額10万円程度の介護費用が必要です。また、施設に入居すると他の入居者と共同生活を送ることもあるため、入居者同士のトラブルが発生する可能性も考えられます。
認知症の介護費用にまつわるよくある問題・疑問
いつか必要になる介護について、さまざまな不安を抱えている方も多くいらっしゃるかもしれません。
ここからは、介護費用にまつわる課題や疑問にお答えします。
介護費用が払えない
「介護を受けたいけど、高額な介護費用を払えない」「老人ホームに入居したが、症状が悪化してサポートを手厚くしなければならず、経済的な負担が増した」などの方には、以下のような対処法があります。
・生活保護を受給する
・高額介護サービス費を利用する
年金だけでは介護生活が続けられない場合は、生活保護の受給が認められています。生活保護を受給している方が入居できる老人ホームもあるため、金銭的余裕がない場合は生活保護の申請も検討してみましょう。
また、毎月の介護費用が高額になって一定の金額を超えた場合、行政より高額介護サービス費が支給される制度もあります。ただし、すべての介護費用が高額介護サービス費制度の対象となるのではなく、介護保険サービスの範囲内が対象です。
介護費用を誰が払うか
介護費用は、基本的には介護を受ける本人が支払います。ただし、本人の金銭的余裕がない場合は、親族が支払う場合もあります。親族が介護費用を支払う場合、介護を機に仕事をやめなければならずに収入がなくり、介護費用への親族の負担が大きくなることが社会問題になっています。
トラブルを避けるためにも、事前に介護費用の大まかな値段を把握し、本人の経済状況や、万が一親族が負担する場合の親族内での負担額・役割分担などを決めておくことが大切です。
介護費用は控除されるのか
医療費が高額な場合、確定申告の際に医療費控除を申告すると、医療費の還付が受けられます。医療費控除は、病院の治療代や薬代のほかに、訪問看護や訪問リハビリテーションも対象となります。以下は、医療費控除の対象となるサービスの一部です。
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・短期入所療養介護
・介護予防訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
ただし、すべてのサービスが対象となるのではなく、有料老人ホームや生活援助中心型の訪問介護などは対象外です。詳しい内容は、国税庁のホームページをご確認ください。
参考:医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価(国税庁)
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。