認知症予防のために運動を始めようと考えている方も多いのではないでしょうか。
厚生労働省によると、2040年には認知症の有病者は580万人を超えると試算されています。
65歳以上の高齢者の15%が認知症患者ということになり、すべての人にとって認知症は決して他人事とはいえない未来がもうすぐ訪れると考えられています。
認知症予防に運動は効果的なのか、また、具体的にはどのような運動ができるのかについて解説します。
今すぐにできる認知症対策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
認知症予防に運動は効果的?
認知症予防と言えば、運動を思い浮かべる方も多いでしょう。
運動は健康増進効果を期待できるため、高齢の方は運動する習慣を身につけておきたいものです。
しかし、「脳」の健康も運動で増進することができるのでしょうか。
運動と認知機能の関係について見ていきましょう。
運動が認知機能に働きかけるエビデンス
認知症はその症状によっていくつかの種類に分かれていますが、その中でもアルツハイマー型認知症を発症する方が多く、認知症の過半数がアルツハイマー型という報告もあります。
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβが蓄積することが原因の1つと言われていますが、禁煙と運動、アルコール摂取量の減少、食事バランスの改善、体重調整を続けることでアミロイドβの蓄積を予防できることが分かっています。
運動によって軽度認知障害の改善が見られる
実際に高齢の方を対象とした実証実験でも、運動が認知機能向上に効果を示すことが証明されています。
例えば、平成22年に愛知県大府市で実施された実証実験では、ストレッチや筋力トレーニング、有酸素運動などによる1回90分の運動プログラムを軽度認知障害(MCI)が見られる対象者に6ヶ月間、週に2回実施したところ、全般的な認知機能の保持や記憶力の改善が有意に示されました。
このことから、運動を習慣的に実施することで認知機能の低下を改善できることが分かります。
運動で認知症発症リスクを下げることも可能
また、海外の研究ですが、ウォーキングよりも強度の高い運動を週に3回以上取り組んでいた高齢者は、運動習慣のない高齢者と比べると認知症発症リスクが低いことも示されました。
このことからも、運動習慣が認知機能維持に及ぼす影響について知ることができるでしょう。
ところで、運動をすることは、認知症と並んで要介護状態になる原因とされているフレイルの予防にもつながります。
フレイルとは身体的・精神的・社会的に虚弱な状態で、そのまま放置しておくと自立した生活を営めなくなる恐れがあり、最終的には介護を必要とする状態に進行することがあります。
運動はお金をあまりかけずに始めることができ、しかも習慣化させやすいので、認知症やフレイル予防のためにも早めに取り組むことができるでしょう。
厚生労働省も認知症予防に運動を推奨
数々の研究結果を受けて、厚生労働省でも認知症予防に運動を推奨しています。
例えば厚生労働省所管の国立研究開発法人・国立長寿医療研究センターが作製した『認知症予防マニュアル』では、運動を用いた認知症予防プログラムを紹介しています。
いずれも家庭や施設などで簡単に取り組めるので、まずはご自身のペースで始めてみましょう。
認知症予防につながる運動プログラム
認知症予防を目指すためにも、普段から運動習慣を取り入れていきましょう。
ご家庭で簡単に始められる運動プログラムを紹介します。
1.認知症予防におすすめの指体操
指体操は、指先を動かすことで大脳に刺激を与え、認知症予防の効果を期待できる運動です。
また、血行も良くなるので、手先が冷えがちな方もぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。
親指隠し
- 顔の前で、両手のひらを大きく開ける
- 左手は親指を隠すように握り、右手は親指がほかの指の上になるように握る
- 再び、両手のひらを大きく開ける
- 左手は親指がほかの指の上になるように握り、右手は親指を隠すように握る
- 1~4の動きをテンポよく続ける
円作り
- 両手のひらを表に向け、左右どちらも、親指と人差し指の2本を使って円を作る
- 手を一旦広げ、左右どちらも、親指と中指の2本を使って円を作る
- 順番に小指まで続けたら、次は親指と薬指、親指と中指というように順に折り返す
回数に制限はないので、手持ち無沙汰なときなどに何度でも繰り返し実施してみましょう。
そのほかの指体操の方法については、次の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
2.けがを防ぐストレッチ
指体操は準備なしに行うことができますが、身体全体の運動はいきなり動かすと捻挫やケガをするリスクがあり危険です。
しっかりとストレッチしてから運動や体操をするようにしましょう。
脚の裏側のストレッチ
- 両足をそろえて、椅子に浅く腰掛ける
- 膝が曲がらないように意識して、かかとを床につけたまま片方の脚を前に出す
- 背筋をまっすぐに延ばしてから前に出した足首のほうに上体を倒して数秒キープ
- 足を元の位置に戻し、反対の脚を伸ばして、上体を倒して数秒キープ
脚の表側のストレッチ
- 脚が前後になるように思いきり縦に開く
- 前足の膝が90度になるまで、腰をゆっくりと落とす
- 前足の太ももの前側が伸びているのを感じたら、ゆっくりと腰を上げ、両足を入れ替える
- 反対側の脚の膝が90度になるまでゆっくりと腰を落とす
アキレス腱のストレッチ
- 椅子の背や手すりなどがそばにある場所にまっすぐに立つ
- 脚の幅が50㎝ほどになるように前後に開く
- 手すりを持って、後ろ足のアキレス腱を伸ばす
- 両足の裏がしっかりと床を踏みしめている姿勢で、アキレス腱を伸ばす
3.体操やウォーキングで全身のトレーニング
ストレッチをしてから、ウォーキングや水泳、ヨガなどの全身運動を始めましょう。
なお、ラジオ体操などの身体全体をまんべんなく動かす体操なら、事前にストレッチをしなくても取り組むことができます。
気軽に運動を楽しむコツ
思いついたときだけ運動をするのでは、認知症予防効果はあまり期待できません。
できれば毎日、あるいは週に何度か定期的に運動に取り組むようにしましょう。
運動を習慣づけるためには、楽しい気持ちですることが大切です。
気軽に運動を楽しむコツを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
運動が苦手な方も趣味として始めてみる
運動が元々苦手な方は、健康に良いということが分かっていても、なかなか運動習慣が身に付かないかもしれません。
しかし、「趣味」と思えば、苦手意識を持たずに取り組みやすいのではないでしょうか。
ウォーキングやヨガ、軽いジョギング程度であれば、運動が苦手な方でも「趣味」として楽しむことができるでしょう。
サークル・教室に参加する
認知症予防に良いということが分かっていても、強い意志がないと運動を続けることはできません。
例えば家族や近くに住む友人などを誘って、定期的に運動をするのも良いでしょう。
また、サークルや教室に参加すれば、意思が弱い方でも続けやすいでしょう。
コミュニケーションを増やす効果もあるため、さらに脳の活性化を目指せます。
ゲーム要素も取り入れる
黙ってウォーキングやヨガなどをするのでは飽きてしまうという方には、ゲーム要素を取り入れることをおすすめします。
例えばウォーキングなどの運動をしながら、しりとりをしたり、計算(100から7ずつ引いていく等)をしたりするのはいかがでしょうか。
運動しながら頭を使うことを「コグニサイズ」と言いますが、脳の活性化に効果があるとされているため、単に運動だけをするよりも認知症予防効果を期待することができます。
徐々に動きや思考を複雑にして、自分のペースで難易度を上げていきましょう。
食事を見直す
生活習慣病と認知症は密接な関係があるため、生活習慣病を予防することで認知症予防につなげることも可能です。
栄養バランスの良い食事を取り、脂質や塩分、糖分は控えるようにしましょう。
運動だけでなく食事にも注意することで、より健康に対する意識が高まり、認知症予防効果も期待できます。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
運動を習慣化することで予防効果に努めましょう
運動習慣をつけることで、認知症予防だけでなく生活習慣病の予防効果も期待できます。将来に備え、早めに行動していきましょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。