「脳血管性認知症」というものを聞いたことはあるでしょうか。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症と並べられ、三大認知症の1つと言われている、比較的に症例の多い認知症です。
認知症の1つではあるものの、認知機能の低下以外にも様々な症状が現れます。
「体調が優れない」「最近やる気が起きない」と感じるその症状が、無意識のうちに脳血管性認知症に繋がる可能性があるかもしれません。
ここ最近体調が優れない、身体が重い等と感じている方、またその症状と将来認知症を発生するリスクや関連性について解説いたします。
この記事を最後まで読んで、ご自身の身体に少しでも不安がある方は是非一度、医師の診察を受けてみることを推奨します。
認知症の診断方法は?受診タイミングから費用まで解説
1. 脳血管性認知症とは
2. 脳血管性認知症の原因と仕組み
3. 脳血管性認知症に特徴的な「まだら認知症」
4. その他の症状
5. アルツハイマー型認知症と併発する可能性もある
6. 脳血管性認知症の進行の過程と進行スピード
7. 脳血管性認知症を予防するには
脳血管性認知症とは
「脳血管性認知症」とは、脳の脳梗塞や脳出血など、脳血管の損傷に起因して認知機能が低下したり、脳の血流が悪いことで発症する病気です。
認知機能の低下に加え、脳の損傷が原因で様々な症状を併発するという特徴があります。
いきなり認知機能の低下や症状が現れることもありますが、気づかぬうちに発症、進行している場合も多くあります。
厚生労働省の研究によると、認知症患者のうち19.5%程度が脳血管性認知症と診断されており、男性に多く発症する傾向があります。
アルツハイマー型認知症の次に発症例が多く、代表的な認知症のうちの1つと言われています。
出典: 「認知症対策の総合的な推進について(参考資料)」厚生労働省老健局 (2019)
脳血管性認知症の原因と仕組み
脳血管性認知症は、いわゆる「脳卒中」と言われる、脳梗塞や脳出血などの脳の血管の損傷が原因で起こるといわれています。
「脳梗塞」とは、脳の血管が詰まり、血流が途絶えて脳細胞が死んでしまう病気で、「脳出血」とは、脳内にある細い動脈が切れて脳内で出血する病気です。
脳の中には、隅々まで栄養や酸素を運ぶために血管が張り巡らされています。
脳は栄養や酸素が不足に弱いため、脳梗塞や脳出血により酸素や栄養の供給が上手くいかない部分の脳細胞はすぐに死滅してしまいます。
細胞が死滅した部分や死滅した範囲に応じて、様々な症状が現れます。
その一つが脳血管性認知症です。
大きな脳梗塞や脳卒中で一気に症状が進行することもあれば、小さな脳梗塞や脳出血が継続的に起こることで、気づかぬ内に症状が進行することもあります。
脳血管性認知症に特徴的な「まだら認知症」
脳血管性認知症の特徴に「まだら認知症」という症状があります。
まだら認知症は、「今日の朝できていたことが夜にはできない」といったことや、「物忘れが激しい一方で、なぜか難しい計算や、専門的な話を理解できる」といったような、できることとできないことの波があるといったような症状がみられるといわれています。
まだら認知症は脳血管性認知症の症状のうちの1つで、日時やタイミングによっても認知症の症状に差が見られる、などの特徴があります。
あくまでも脳血管性認知症の症状の1つであり、「まだら認知症」という名前の認知症があるわけではありません。
脳血管性認知症は、脳の細胞が損傷を受けた場所や、損傷の大きさによって症状が変わるという特徴があるといわれています。
例えば、計算を司る機能を持つ脳の部位が損傷しても、それ以外の場所が無傷であれば、「計算はできないが専門的な本の内容や会話を理解できる」といった特徴が症状が現れる可能性もあります。
このように、「脳細胞が損傷を受けた部位の機能が落ちてしまい、それ以外の機能が正常であること」などが原因で認知症の症状が「まだら」に見られることから、まだら認知症は発症します。
その他の症状
認知機能の低下による基本的な症状
記憶障害
記憶障害とは、認知症の基本的な症状の1つで、「食事をしたことを忘れる」「お風呂に入ったことを忘れる」などの、自分が経験したことを忘れることを指します。
「食事をしたことは覚えているけれど、何を食べたのかは覚えていない」などの症状は、自分が食事をしたという経験自体は記憶しているので、認知症ではなく単なる「物忘れ」に分類されます。
見当識障害
「今日の日付や時間が分からない」や、「今いる場所が分からない」「家族や同居人が認識できない」といった、時間や場所、人に対する記憶や認識が薄れる症状を見当識障害と呼びます。
時間の見当識障害から始まり、悪化するにつれて場所や人が分からなくなります。
実行機能障害
「料理の手順がわからなくなり作れない」「洗濯機の使い方がわからない」などの、計画性や工程が必要な作業ができなくなることを実行機能障害と呼びます。
上記の症例は基本的な認知症の症状であり、脳血管性認知症に関わらず、その他の認知症でも見られる症状です。
感情失禁
脳血管性認知症になると、怒りや悲しみなどの感情のコントロールが困難になるといわれています。
この症状を感情失禁と呼びます。
何でもないようなことで急に泣き出したり、喜怒哀楽が激しい、表情が無くなることがあるなどの状態が引きおこります。
また、まだら認知症で認知機能に波があることは本人も自覚している場合が多く、自分ができる事とできない事のギャップに悩み、怒り出したり泣き出したりする場合もあります。
場合によっては抑うつ状態になり、自発性や意欲が低下する例も報告されています。
併発する様々な症状
脳血管性認知症は、脳の血管に異常が起きて発症します。
血管や脳細胞が損傷する場所によって様々な症状を併発する可能性があります。
・言語障害
・運動機能障害
・嚥下障害
・感覚麻痺
上記は脳血管性認知症とは別の、その他の認知症でも起こりうる症状ですが、脳の損傷箇所によって症状がひどくなったり、発症しなかったりといった可能性があります。
アルツハイマー型認知症と併発する可能性もある
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は、その症状や原因によって区別されます。
脳血管性認知症は脳内の血管の損傷により脳細胞が死滅することで起こります。
一方アルツハイマー型認知症は、脳内に「アミロイドβ」というタンパク質が蓄積し、脳を圧迫されることで起こります。
しかし、アルツハイマー型認知症の方の中には脳の血管障害も患っている方も多いと言われており、脳血管性認知症を同時に併発しやすいとも言われています。
アメリカのある研究によると、アルツハイマー型認知症の患者141人を検査したところ、被験者のうち50%以上が、脳血管性認知症を含め、別の認知症を併発していたという報告もあります。
このような混合型の認知症を発症すると、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の2つの症状が同時に見られる場合があります。
アルツハイマー型認知症に関して更に詳しく書かれた記事がありますので、どのような症状が現れるかはこちらをご覧ください。
アルツハイマー型認知症とは?初期症状や平均寿命、治療法を解説!
出典:B. D. James. (2016). TDP-43 stage, mixed pathologies, and clinical Alzheimer’s-type dementia. Brain: a Journal of Neurology. 139; 2983–2993
脳血管性認知症の進行の過程と進行速度
通常、脳血管性認知症は、脳血管が詰まったり破れたりといったような脳の損傷が原因で突然発症するといわれています。
脳の損傷については治療を経て回復するものが多い一方で、再度脳血管に損傷があった際には認知症についても悪化するともいわれており、その後、治療と悪化を繰り返し、階段状に症状が進行することも多いようです。
また、細い脳血管が詰まったり破れたりして、小さな損傷を繰り返すことで、緩やかに進行することもある一方で、症状の進行を自覚できないことがあるといわれています。
脳血管性認知症の治療とリハビリ
脳血管性認知症は、脳の損傷箇所により現れる症状が異なります。
抑うつの症状を発症した方には抗うつ剤が処方されるなど、患者個人の症状に応じた治療薬が必要になります。
また、認知機能の障害や脳血管の損傷による症状を和らげる薬に加えて、脳血管障害の再発を防止するための薬も処方されることが多いようです。
脳血管性認知症は、脳血管が損傷を受けるたびに悪化を繰り返すといわれているため、再発防止が認知機能維持のカギとなります。
脳血管に異常をきたす可能性のある、高血圧や高コレステロールを解消するような薬が必要となるケースもあるようです。
リハビリ
リハビリも脳血管性認知症の進行を緩やかにするために大きな役割を果たすといわれています。
認知機能の低下を防ぐために運動や他者とのコミュニケーションを測るリハビリのほか、患者個人の症状に合わせたリハビリが必要です。
例えば、運動機能に障害が起きた方には運動機能を維持、改善するためのリハビリを、言語機能に障害が起きた方には言語機能を維持、改善するための各々の症状にあったリハビリが必要になります。
脳血管性認知症を予防するには
脳血管性認知症を予防するには、脳血管の損傷を引き起こすリスク要因といわれる高血圧を予防する事が最も大切だといわれています。
高血圧は自覚症状に乏しく、知らぬ間に進行して一気に症状が現れるため「サイレントキラー」とも呼ばれています。
『まだ自分は大丈夫』だと思っている今こそが、予防を始めるタイミングかもしれません。
高血圧を防ぐためには、塩分やコレステロールを摂りすぎない健康的な食事や、適度な運動をするなど、基本的な生活習慣を見直すことが大切です。
このような予防策は、認知症予防策とも共通します。
具体的な予防の方法は下記の認知症予防の方法に関する記事をご参考にして下さい。
脳血管性認知症に限らず、病気をしない健康な生活を送るために、いまから取り組めることを少しずつでも始めていくことをお勧めいたします。
認知症の予防法は存在する?具体的な方法や備えを解説
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
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