老人性うつと認知症は違う?高齢者の認知症の初期症状にうつ状態はある?徹底解説

老人

 

老人性うつとは、60歳以上の高齢者に生じるうつ病のことです。

 

うつ病は、一般的に抑うつ症状が続く精神疾患の総称ですが、高齢者に生じる場合には「老人性うつ」と呼ばれます。

 

老人性うつは、高齢者の生活環境の変化や社会的孤立、認知機能の低下、身体疾患などが原因で発症することが多く、多くの高齢者が悩んでいる問題です。

 

そして、老人性うつが認知症を発症するリスクを高める可能性が2022年のコホート研究で報告されています。

 

本記事では、老人性うつの主な症状や発症の原因、認知症との関係、治療法について解説します。

 

 

1.老人性うつの主な症状

老人性うつの主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 悲観的な気持ちや絶望感
  • 無気力感や興味の喪失
  • エネルギー不足や疲れやすさ
  • 睡眠障害(眠りが浅い、早朝覚醒など)
  • 食欲不振や体重減少
  • 自殺願望や自殺企図
  • 身体的な症状(頭痛、背中の痛み、消化不良など)

 

これらの症状は、一般的なうつ病と同様であり、高齢者に特有の症状というわけではありません。

 

しかし、高齢者の身体的疾患や認知機能の低下などが、これらの症状の発症に影響を与えることがあります。

 

また、老人性うつには身体的な症状も現れることがあり、頭痛、背中の痛み、消化不良などの症状が報告されています。

 

これらの症状が2週間以上続く場合には、専門家に相談することが重要です。

 

2.老人性うつの発症原因

老人性うつの原因としては、高齢者の心身機能の低下が挙げられます。

 

また、社会的な孤立認知機能の低下身体的疾患ストレスなども、老人性うつの発症に関連しています。

 

特に、身体的疾患は老人性うつのリスクを高めるとされています。

 

厚生労働省によると、上記の要因に加えて、「家族や友人とのいさかい」「過去のうつ病の既往」「配偶者との死別・離婚」などが老人性うつの発症リスクを高める危険因子としています。

 

参照:厚生労働省『高齢者のうつについて』

 

3.老人性うつと認知症の関係

老人性うつと認知症は異なる疾患ですが、高齢者に多く発生することやリスク要因に共通点があることから、混同されることがあります。

 

たとえば、社会的孤立や身体的疾患がリスク要因として関連していることが報告されています。

 

以下では、両者の違い、認知症による老人性うつの発症リスクについて解説します。

 

両者の違い

老人性うつは、うつ病の一種であり、主に心の疾患に分類されます。一方、認知症は、脳の疾患であり、認知機能の低下が特徴的な病気です。

 

つまり、老人性うつは主に心に起因する病気であるのに対し、認知症は主に脳に起因する病気であるという違いがあります。

 

高齢者のうつ病と認知症では、症状の現れ方や症状の進行の仕方などにも違いがあります。

 

具体的には、以下の4つの点において異なる点が見受けられます。

 

老人性うつと認知症の違い① 「自責の念」と本人の自覚があるか

認知症の場合、記憶障害や認知機能の低下に対して、自責の念や本人の自覚がほとんどありません。

 

認知症の初期段階では、記憶障害や、これまでできていたことができなくなることに対して不安感を持つこともあります。

 

しかしながら、症状が重くなるにつれて、それに対しても無関心になることが多いです。

 

一方でうつ病の場合は、自身の認知機能や意欲の低下に対して、自責の念を強く持つという特徴があります。

 

認知症の人が症状に対して無関心であるのに対し、うつ病の人は、自分の認知機能の低下をはっきりと自覚します。

 

老人性うつと認知症の違い② 症状の進行速度

認知症の症状は、少しずつ悪化していきます。

 

進行スピードは遅く、最初の段階ではなかなかは気づきにくく、発病のタイミングもわかりにくいことが特徴的です。

 

一方でうつ病の場合は、短期間に複数の症状が現れることが多いです。

 

また、定年退職やパートナーとの死別などのライフイベントなど、何かのきっかけがあり発病することが多いことも、認知症との違いです。

 

老人性うつと認知症の違い③ 記憶障害(物忘れ)の有無

認知症の記憶障害は、初期に軽度の物忘れから始まり、徐々に重くなっていきます。

 

また、認知症の記憶障害は「忘れたこと自体を忘れてしまう」という特徴があります。

 

具体的には、「朝ごはんに何を食べたか思い出せない」のではなく、「朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまう」のです。

 

そのため、記憶障害が直接的なストレス要因になることがあまりありません。

 

一方、うつ病の記憶障害は、「ある物事を忘れてしまい、思い出せない」というタイプの記憶障害で、具体的に言うと「朝ごはんは食べたが、メニューを思い出せない」というものです。

 

このように、本人も忘れてしまっていることを自覚しているため、不安感や焦燥感を感じます。

 

老人性うつと認知症の違い④ 理解力と判断力の有無・質問に対する受け答え

認知症は進行にともない、理解力や判断力が落ちてきます。

 

認知症の人に何かを尋ねると、見当はずれな返答をする傾向にあり、それを指摘すると、取り繕うこともあります。

 

うつ病の人も、理解力や判断力が落ちる一方、何かを尋ねると、熟慮しながらも、結果としては答えられないと述べる傾向にあります。

 


 

これらの老人性うつと認知症の特徴の違いを以下の表にまとめました。

 

認知症の特徴

老人性うつの特徴

自分の記憶力の低下に無関心になる 自分の記憶力の低下に気づき、心配になる
進行速度が遅い 進行速度が速い
短期記憶が困難になる 集中力が低下する
理解力・判断力が低下する(質問に対して見当はずれな返答をする傾向) 理解力・判断力の低下(質問に対して熟慮する傾向)

 

自己診断に頼らず、医療機関で認知症かうつ病のどちらを発症しているか、複合的な診断を受けることが重要です。

 

医療機関では、問診、認知機能テスト、脳画像検査、血液検査などの段階で精密な診察を受けることができます。

 

認知症による老人性うつの発症リスク

2022年のコホート研究によると、高齢者がうつ病を発症すると認知症の発症リスクが51%増加したと報告しています。

 

一方、治療を受けたうつ病の患者は認知症の発症リスクが約26%低かったと示唆されています。

 

また、認知症が進行するとうつ病の発症リスクが高くなることが報告されています。

 

認知症には、認知機能の低下社会的孤立ストレス身体的疾患などが伴い、これらがうつ病の発症に関連すると考えられています。

 

出典:Depression, Depression Treatments, and Risk of Incident Dementia: A Prospective Cohort Study of 354,313 Participants

 

4.老人性うつの治療法

老人性うつの治療法には、薬物療法心理療法環境調整などがあります。

 

以下でそれぞれの治療法について解説します。

 

薬物療法

薬物療法は、抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などの薬を用いる治療法です。

 

・抗うつ薬:うつ病の主要な症状である憂うつ、無気力、興味喪失などを改善するために用いられます。

・抗不安薬:うつ病に伴う不安感を軽減するために用いられます。

・睡眠導入剤:睡眠障害の改善に用いられます。

 

ただし、高齢者は薬物の代謝が低下しているため、副作用に注意する必要があります。

 

心理療法

心理療法は、カウンセリング認知行動療法などの方法を用いて、うつ病の原因となる心理的ストレスに対処する治療法です。

 

高齢者は、身体的疾患や認知機能の低下などにより、心理的ストレスを感じやすくなっています。

 

心理療法は、そのストレスを軽減することに役立つとされています。

 

環境調整

環境調整とは、うつ病の人が活力を取り戻せるよう、環境を整える治療法です。

 

具体的には、本人がくつろげる空間を作ったり、生活しやすいように工夫したりしてあげることが挙げられます。

 

ただし、老人性うつの人は責任感が強いという特徴があり、環境を整えようと作業していると、それを手伝おうとする人もいます。

 

このような場合には、病状の悪化を防ぐためにも無理をさせないよう気を遣うのがよいと言われています。

 

その一方で、「何もさせない」というのも問題です。

 

高齢者は気力や体力が衰えやすいため、全く動かない期間が増えすぎると、寝たきりや認知症になる恐れがあります。

 

無理はさせずに少しだけ手伝ってもらうなど、心身に適度な刺激を与えるのがよいとされます。

 

5.わがままと老人性うつ

老人性うつには、わがままな行動が見られることがあります。

 

老人性うつは、過去の人生での失敗や後悔、社会的孤立、身体的疾患などから、自分自身に対して無力感や自己否定感を持つことがあります。

 

そのため、わがままな行動や要求が生じることがあります。

 

また、老人性うつは、うつ病の症状である憂うつ、無気力、興味喪失があるため、気分の浮き沈みが激しい状態に陥ることがあります。

 

老人性うつによるわがままな行動に対しては、家族や介護者は、理解と対応が求められます。

 

まずは、老人性うつが疑われる場合には、専門家の診断を受けることが重要です。

 

その上で、わがままな行動や要求に対しては、根気強く話を聞いたり、理解したりすることが必要です。

 

また、高齢者にとっては、日常生活の中でのストレスが蓄積されやすいため、ストレス解消のための運動や趣味の時間を確保したり、社交的な活動を促したりすることも有効です。

 

6.老人性うつの予防方法

ここでは、老人性うつを予防する方法について、健康的な生活習慣の維持やソーシャルサポートの利用について解説します。

 

高齢者自身や家族、介護者、医療従事者が協力し、適切な予防策を講じることが、老人性うつの予防につながります。

 

健康的な生活習慣の維持

適度な運動バランスのとれた食生活十分な睡眠など、健康的な生活習慣の維持が重要です。

 

また、ストレスを軽減するために、リラックスする時間を作ったり、心身のバランスを整える方法を学ぶことも大切です。

 

ソーシャルサポートの利用

友人や家族との交流や、地域のイベントや団体活動など、ソーシャルサポートを利用することで、孤立感や寂しさを解消することができます。

 

また、高齢者にとっては、意義ある社会参加や活動を継続することも、自己肯定感を高めるために有効です。

 

7.老人性うつの予防には早期発見と定期的なセルフチェックが重要

老人性うつは、認知機能の低下を誘発させるリスクが増大する等、認知症との関連についても指摘がされています。

 

逆に認知症が進行すると、うつ病の発症リスクが高くなることが報告されており、認知症による老人性うつの発症リスクを低減するためには、認知症の早期発見と適切な治療が重要です。

 

そのためにも普段から定期的にご自身の認知機能の状態をチェックすることが重要になります。

 

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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる

認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。

 

物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。

 

 

 

しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。

 

つまり、認知機能の低下を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、日頃より適切な対応を心掛ける予防治療が有用であると考えられます。

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