運動習慣、バランスのとれた食事、脳の活性化など、認知症に効果的な予防法はたくさん存在します。
その中でも、「アロマセラピー」が認知症に効果的とされていることをご存じでしょうか?
アロマセラピーは、リラックス効果が高いことで知られていますが、近年では認知機能の向上にも寄与するとの研究結果が出てきています。
認知症の患者数は年々増加しており、特に高齢者が発症しやすいため、アロマセラピーを含む予防・対策がより一層重要視されています。
本記事では、アロマセラピーと認知症との関係、また、認知症予防に効果的なアロマの種類や注意点について詳しく解説します。
参考:厚生労働省 老健局 認知症施策・地域介護推進課 「認知症施策について」
アロマセラピーとは
アロマセラピーとは、エッセンシャルオイル(精油)を使用して心や体の健康を促進する自然療法の一つです。
この治療法は、植物から抽出された香りのあるオイルを用いて、リラクゼーション、ストレス緩和、気分の向上、免疫力の強化などの効果を得ることを目的としています。
エッセンシャルオイル(精油)とは、植物の花、葉、樹皮、樹脂、果実などから抽出される高濃度のオイルです。
それぞれの精油には特有の香りと効能があり、これがアロマセラピーにおける治療効果の基盤となっています。
例えば、ラベンダーの精油はリラックス効果があるとされ、ストレスや不眠の緩和に使用されることが多いです。一方、ペパーミントの精油は、集中力を高める効果があると言われています。
その上、アロマセラピーは様々な健康効果があるとされています。睡眠障害や不安・うつ病といった精神的な問題の緩和、食欲の促進、倦怠感の軽減などの効果が挙げられます。
さらに、異なる香りを取り入れることで環境が豊かになり、それが脳の活性化を促進するとも考えられているようです。
認知症とアロマセラピーの関係を検証した研究
2023年7月に公開された臨床研究において、カリフォルニア大学アーバイン校の研究者たちは、アロマセラピーが高齢者の認知機能に与える効果を検証しました。
この研究では、60~85歳の健康な参加者を43人募集し、ランダムに実験グループとコントロールグループの2つのグループに分けられました。
実験グループの参加者は、毎晩高濃度のエッセンシャルオイルを使用し、一方、コントロールグループの参加者は微量のエッセンシャルオイルを使用しました。
6ヶ月間、参加者たちは就寝時に2時間ディフューザーを用いてエッセンシャルオイルを吸入しました。
そして、すべての参加者は、研究開始時と6ヶ月後の介入後に認知評価を受けました。
結果、実験グループの参加者は、コントロールグループに比べて、言語性記憶検査でのパフォーマンスが226%向上したことが確認されました。
さらに、実験グループは左側の鉤状束の機能が向上していることが明らかになりました。
鉤状束は、学習と記憶において重要な役割を果たす脳の経路であり、年齢とアルツハイマー型認知症の進行に伴い機能が低下すると考えられています。
研究者たちは結論として、夜間にエッセンシャルオイルのディフューザーを使用することによる嗅覚の刺激が、言語性の記憶と特定の脳経路の機能を大幅に向上させることを示唆しています。
アロマセラピーが認知症に効果的な理由
アロマが認知症に効果的であるとされる理由には、嗅覚と脳の機能との密接な関係があると言われています。
嗅覚は、脳の記憶中枢と直接的に結びついている唯一の感覚です。このため、嗅覚を刺激するアロマセラピーは、記憶中枢を効果的に活性化することができると考えられています。
臭覚の刺激が失われた場合、脳の記憶中枢の老化が進行することが知られている一方、臭覚の刺激を増加させることにより、脳の記憶中枢や記憶力が向上するとされています。
認知症に効果的なアロマ7選
今回解説した研究では、以下の7つのアロマが研究の参加者に利用されました。
- バラ
- オレンジ
- ユーカリ
- レモン
- ペパーミント
- ロズマリー
- ラベンダー
これらのアロマをアロマセラピーとして取り入れることで、認知症のリスクを低減する助けとなる可能性があると研究で示唆されています。
しかし、使用する際は医師や専門家のアドバイスを受けることが推奨されています。
認知症に効果的なアロマセラピーのやり方
アロマセラピーは、エッセンシャルオイルの香りを利用して、心や体の健康を向上させる方法とされています。以下に、認知症に効果的なアロマセラピーの具体的なやり方を紹介します。
ディフューザーで部屋中に香りを行きわたらせる
ディフューザーにエッセンシャルオイルを数滴加えて使用することで、部屋全体に均一に香りを拡散させることができます。
香りは気分に合わせて選ぶことができ、例えばリラックスしたいときはラベンダー、活力を感じたいときはレモンを選ぶと良いでしょう。
マッサージで香りを漂わせる
キャリアオイルにエッセンシャルオイルを数滴混ぜ合わせることで、身体や手足を優しくマッサージしながら香りを楽しむことができます。
お風呂の時間で香りを楽しむ
入浴中にお風呂にエッセンシャルオイルを数滴加えることも可能です。暖かいお湯とともに香りを浸透させ、深いリラクゼーションを得ることができます。
直接吸入して嗅覚を刺激する
エッセンシャルオイルをティッシュやハンカチに数滴たらし、それを手元に置きながら深呼吸する方法もあります。
この方法は、即座に効果を感じられるため、外出先でも手軽にアロマセラピーを楽しむことができます。
アロマセラピーをする際の注意点
一般的にアロマセラピーは安全とされていますが、個々の肌質やアレルギー体質によっては、皮膚の刺激やアレルギー反応を引き起こすことがあるので注意が必要です。副作用には以下のようなものがあるとされています。
・吐き気
・頭痛
・アレルギー反応
・皮膚の障害
エッセンシャルオイルの化学成分は、薬と組み合わされると副作用を引き起こす場合があるとされています。
これにより、通常の薬の効果が低下したり、個人の健康状態を悪化させる可能性があるようです。
以下の疾患のある人は、アロマセラピーをする際に特に注意が必要だとされています。
・高血圧
・てんかん
・アレルギー
・花粉症
・喘息
・皮膚の症状(湿疹や乾癬など)
また、エッセンシャルオイルを誤って飲み込むと健康に害を及ぼす場合があります。
一部のオイルは、体内に取り込むと肝臓、腎臓、神経系にダメージを与える毒素を生産することがあるため、慎重に扱いましょう。
各エッセンシャルオイルは、独自の化学的構成と効能を持つため、治療目的で使用する前に、アロマセラピストや医師、理学療法士、マッサージセラピストなどの専門家と相談することが推奨されています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
アロマセラピーを日常に取り入れることは認知機能の向上に寄与するとされていますが、この方法だけでは認知症を完全に予防できません。
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
🔰 認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、「認知機能セルフチェッカー」を導入している医療機関リストからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。