「人との関わりが減った」
「気にかけてくれる人や話し相手がいない」
日常生活の中で孤立したり、孤独感を感じる瞬間は誰しもが経験するものです。
しかし、孤立・孤独が長期化すると、認知症リスクが増加する可能性があることはご存知でしょうか?
今回の記事では、認知症と孤立・孤独の関係性や原因、対策などについて解説します。
孤立・孤独とは
「孤立」と「孤独」は、一見似ているように思えるかもしれませんが、実は異なる意味をもちます。
「孤立」とは、人との物理的・心理的な接触が極端に少ない状態を指します。
特に高齢なるほど、一人暮らしや病気、死別などの生活の変化が原因となり、友人や家族、同僚との接触が減少することが多いです。孤立は、外的な環境や状況によってもたらされることが多いと言われています。
一方、「孤独」は、主観的な心の感覚を示し、外部からの交流が豊富であっても、心の中で寂しさを感じる状態を示します。
孤独は、周囲の人々との深いつながりや理解が欠けていると感じることが多いとされています。
要するに、これら二つの概念の主な違いは、孤立が「物理的な関わりの欠如」を意味するのに対し、孤独は「心理的に感じるつながりの欠如」を指すということです。
孤立・孤独が認知症のリスクを上げる?
孤立と孤独が認知症のリスクを上げる可能性はいくつかの研究で示唆されています。以下に孤立・孤独と認知症の関係性について解説します。
孤立と認知症の関係
孤立すると、脳の活動が低下し、認知機能の低下に繋がりやすくなると指摘されています。
237万人のデータを用いた2018年の系統的レビューによると、社会的な孤立は、認知症のリスクを上げることに関連すると示唆されています。また、人との交流が認知症のリスクを下げる効果があることも報告されています。
そして、高齢になるとこの関係性がより強くなるとも言われています。
2023年に九州大学の研究者たちが、脳の容量の減少が記憶力、そして認知症と関連のある脳の領域に影響を及ぼしていることが発見されました。
この研究は、日本に在住している平均73歳の認知症病歴のない8,896人が参加しました。
研究結果から、最も孤立している人々は、脳の損傷を示す白質病変の量が多いことが明らかになりました。
社会的に孤立していない人々に比べ、社会的に孤立している人々の頭蓋内容積の0.30%が白質病変であり、社会的に孤立していない人々は0.26%とされています。
全体として、社会的に孤立している人々は認知機能が劣っており、脳の灰白質の容量が少ないことが示唆され、認知症リスクが上がる可能性が高いと考えられているようです。
孤独と認知症の関係
孤独感は心の問題として捉えられがちですが、脳にも影響を及ぼし、認知症につながる可能性があるとされています。
2023年に公開されたアメリカの最新研究では、孤独感と認知症の関連性が調査されました。
研究者たちは、孤独感が認知機能に与える影響の理解を深めるために、認知症のない2,308人を10年間の追跡しデータを収集しました。
研究の参加者は40歳から79歳で、臨床検査の時点では認知症を発症していない状態で、10年間の追跡を行なった結果、2,308人中320人、すなわち14%の参加者が期間中に認知症と診断されたとのことでした。
そして、頻繁に孤独感を経験している参加者は、孤独を感じていない人に比べて、10年間の追跡期間中に認知症を発症する可能性が高いことを発見しました。
また、孤独感と認知症のリスクの増加との関連性は、80歳以上の方々においては大きな差異は見られなかったようです。
一方、80歳未満で孤独感を経験している参加者は、孤独でない同年齢の参加者に比べて認知症を発症する可能性が2倍あるとされています。
孤立・孤独が認知症リスクを上げる原因とは
孤立と孤独が認知症リスクを上げる理由はまだ解明されていませんが、現時点では以下のような原因が考えられています。
孤立が認知症リスクを上げる原因
私たちの脳は人との交流を通じて、共感力や他者の感情への理解力などの社交スキルを育成するとされています。
これらのスキルは、家族や友人との初期の関係形成を通じて磨かれ、私たちの日常生活やコミュニケーションにおいて基盤となるものです。
社交的な環境での経験は、脳の特定の領域を活性化し、私たちに幸福感や満足感をもたらすとともに、認知能力を高める役割も果たします。
しかし、孤立して社交的な機会が少なくなると、これらの社交スキルの維持や向上の機会が減少します。
継続的な孤立は、これらのスキルの低下や認知機能全体の劣化を引き起こす可能性が認知症のリスクを上げる原因と考えられています。
孤独が認知症リスクを上げる原因
孤独感はヒポカンパス(脳の記憶を司る海馬)の神経細胞を生み出す神経新生を低下させることがあるとされています。
脳のヒポカンパス領域は、学習や記憶の形成に関与する部位として知られています。
そして、継続的な孤独感は、神経炎症のリスクを高めることが指摘されており、この炎症が認知症の進行を促進する可能性があるとも言われています。
孤独感が持続することで生じるストレスは、必須ホルモンである脳内のコルチゾールレベルを上昇させ、神経細胞の機能や存続に悪影響を及ぼすこととも考えられています。
孤独感と認知症の関係は、ヒポカンパスの神経新生の低下、神経炎症の増加、そしてコルチゾールの上昇という神経生物学的なメカニズムを通じて結びついている可能性が高いとされています。
出典:The Impact of Loneliness and Social Isolation on Cognitive Aging: A Narrative Review
認知症を予防するためにできる孤立・孤独への対策
人との関わりや社会的交流は、脳の機能を活性化させるとともに、認知機能を維持する上で重要な役割を果たすとされています。
認知症を予防するためにも、以下の孤立・孤独への対策を実践してみてはいかがでしょうか。
趣味や習い事を初めて社会交流する
いきなり人との交流を増やすことは難しいかもしれません。その中でおすすめな対策は、新しい趣味や習い事を始めることです。
自分の興味を追求することで、地域のサークルやイベントなどで交流の輪を広げたり、より気楽に孤立と孤独を改善することができるとされています。
運動習慣をつけて心と脳を鍛える
体を動かすことは、心と脳の健康に良い影響をもたらします。
簡単なストレッチや散歩を毎日取り入れることで、心が生き生きし認知症予防にも効果的とされています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
日記を書いて自分を客観視する
日常の出来事や感じたことを日記に記すことで、自分自身の感情や行動を客観的に見ることができます。
これにより、自分の孤独感や不安を自覚し、早めの対策をとるきっかけになるでしょう。
また、日記を書くことは認知症予防にも良いとされています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
シェアハウス・老人ホームに入居する
孤立・孤独感を解消するために、シェアハウスや老人ホームへの入居を考えるのも一つの方法です。
同世代の人たちとの共同生活は、コミュニケーションの機会を増やし、心の豊かさを取り戻す手助けをしてくれます。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。