認知症は、記憶力や思考力の衰えが特徴の脳疾患で、2023年時点において世界中で約5,500万人以上の患者がおり、主に高齢者に発症しやすいとされています。
一方で、視力障害も高齢者に多く見られ、日常生活に大きな影響を及ぼすことが知られています。
認知症と視力障害は一見関係がないように思えるかもしれませんが、実際には視力の低下が日常生活に支障をきたすだけでなく、認知症のリスクを高める可能性があることが最近の研究で明らかになっています。
本記事では、研究結果に基づき、認知症と視力障害の関連性について詳しく解説していきます。
出典:Dementia - World Health Organization
認知症とは
認知症は、記憶力、判断力、言語能力などの認知機能が低下する疾患の総称です。
厚生労働省の推計によると、2012年時点で日本に約400万人の認知症患者がおり、高齢化の進行とともにその数は増加しているとされています。
認知症にはいくつかの種類がありますが、最も一般的なのはアルツハイマー型認知症で、脳内の異常なタンパク質の蓄積が原因で発症するとされています。その他にも血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。
認知症の原因は、脳内の変化に加え、遺伝的要因、生活習慣、環境要因などが複雑に絡み合っていると考えられています。
また、脳の血管障害や他の神経変性疾患が原因である場合もあるとされています。
現在、認知症の根本的な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせる治療や患者の生活の質を向上させる支援が行われています。
認知症の早期発見と早期介入は、症状の管理と患者および家族の負担を軽減するために重要であり、定期的な健康診断の重要性がますます高まっているようです。
視力低下などの視覚障害について
視覚障害は加齢、疾患、外傷など様々な原因によって引き起こされる視覚機能の衰えを指します。日本における患者数は約31万人に上るとされています。
一般的に、焦点調節能力の喪失、目の透明度の減少、光受容体の機能不全などが視力低下の原因となります。これには近視、遠視、乱視、白内障、緑内障、黄斑変性など様々な状態が含まれます。
白内障:特に高齢者に多く見られ、眼の水晶体が濁ることで視力が低下。
緑内障:眼圧の異常上昇が視神経を圧迫し、視野が徐々に狭くなる病気。
黄斑変性症:網膜中心部の黄斑が損傷し、中心視が障害されることで、読書や細かい作業が困難に。
これらの視覚障害は、日常生活に多大な影響を及ぼし、自立した生活を送ることを困難にするといわれています。
特に高齢者では、視力の低下が進むと情報収集が難しくなり、社会的な孤立やうつ症状を引き起こす可能性があるとされています。
また、視覚障害は移動の自由を制限し、転倒や事故のリスクを高めることが知られています。
生活の質を保持するために、定期的な眼科診察や検査を行い、視覚障害の進行を遅らせ、可能な限り視力を回復させることが目指されているようです。
認知症と視力低下などの視力障害の関係
視力低下は、日常的な情報の処理能力の低下に直接影響を及ぼし、認知機能の衰えにつながると研究で示唆されています。
視覚から得られる情報の量と質が低下すると、脳が視力低下を補うために余計な労力を要することになり、認知能力の低下を早める可能性があると考えられています。
ミシガン医科大学の研究では、3,000人の高齢者を対象に行われた視力と認知機能のテストで、視力障害を持つ個人の中で認知症の発症率が高いことが報告されました。具体的には、視力障害がある高齢者はそうでない高齢者に比べて認知症のリスクが72%高いとの結果が出ています。
また、北京大学の研究では、視力障害と認知機能の低下との強い相関関係が示されました。この研究によると、視覚的な問題を持つ高齢者は、健康な高齢者に比べて認知症になる可能性が60%高いと報告されています。
これらの研究結果は、視力低下が認知症の発症リスクを増加させる一因となり得る可能性を示しています。
出典:Objectively Measured Visual Impairment and Dementia Prevalence in Older Adults in the US
視力検査が認知症予防につながる可能性
視力検査は、目の健康だけでなく、認知機能を間接的に把握する手段にもなるといわれています。
なぜなら、視力が低下すると、日常生活での情報処理能力が低下し、認知症のリスクを高めると考えられているからです。
さらに、視力障害がある人々の中で認知症の発症率が高いとされています。
定期的な視力検査によってこれらの問題を早期に発見し、適切な介入を行うことが認知症のリスクを軽減するようです。
例として、視力回復を目的とした手術や治療が、視覚情報の処理能力を改善し、脳の健康を支えることにも寄与するとされています。
このように、視力検査は視覚の評価に加え、認知症の予防と早期発見に重要な役割を果たす可能性があると考えられています。
視力低下・視覚障害の効果的な予防対策とは?
私たちの視力は年齢と共に自然と衰えるものですが、その進行を遅らせるためには積極的な予防策を講じることが大切です。
日常生活の中で取り入れられる簡単な予防対策が、視力の健康を長期にわたって維持する鍵となります。
視力低下・視覚障害の予防法は、定期的な眼科検診、栄養バランスの取れた食事、目の保護が効果的といわれています。
予防法① 定期的な眼科検診
視力低下と視覚障害の予防において、定期的な眼科検診は非常に重要です。
早期発見と早期治療が視力を維持し、さらなる悪化を防ぐことができるとされています。
具体例としては、白内障の早期診断、緑内障の眼圧管理、そして加齢黄斑変性の監視が挙げられます。
これらの検診によって、それぞれの症状が進行する前に適切な治療を開始することができ、結果的に視力の大幅な低下を防ぐ効果が期待できます。
予防法② 栄養バランスの取れた食事
視力を保護するためには、栄養バランスの取れた食事が効果的です。
特にビタミンA、C、E、そして亜鉛やルテインなど、眼の健康を支える栄養素を豊富に含む食品を摂取することが推奨されています。
具体例には、にんじん、ブルーベリー、ほうれん草があります。
これらの食品は抗酸化物質を含み、視力の衰えを防ぎ、全体的な目の健康をサポートする効果があります。
予防法③ 適切な目の保護
日常生活において目を適切に保護することも、視力低下の予防には欠かせません。
具体的には、紫外線から目を守るためのサングラスの使用、長時間の読書や画面作業時の適切な照明、そして目の休息を定期的に取ることが挙げられます。
これらの習慣は、目の疲労を軽減し、環境因子による視力の低下を防ぐ効果があります。
特にスマートフォンやタブレット、パソコンなどの電子機器の使用が増えている現代において、目の健康を守るためのこれらの対策は非常に重要です。
認知症に効果的な予防対策【健康的な生活と定期的な認知機能検査】
認知症の予防には、日常生活の質を意識的に向上させることが重要です。
さらに、健康的な生活習慣を維持するとともに、定期的な認知機能の検査を行うことで、リスクを低減することが可能とされています。
以下に認知症に効果的な予防法を解説します。
予防方法① 健康的な生活を心がける
まず、健康的な生活は認知症の予防において基本となる対策です。
健康的な生活には、身体的な活動、栄養豊富な食事、精神的な活性化、そして健康に悪影響を与える習慣の改善が含まれます。
運動習慣
定期的な身体活動は認知機能の維持に不可欠です。
例えば、週に3回以上、各30分のウォーキング、水泳、または軽いジョギングは、認知症だけではなく、多岐にわたる病気の予防になると考えられています。
また、ヨガや太極拳などのマインドフルネスを伴う運動は、ストレスの軽減と認知機能の向上に繋がるといわれています。
食事習慣
認知症予防において、魚、全粒穀物、オリーブオイル、野菜、果物、そしてナッツを豊富に含む地中海式ダイエットが推奨されます。
この食事習慣は、動物性脂肪の摂取を控え、植物由来の食品と健康的な脂肪を重視することで、全体的な健康を促進するようです。
例えば、赤身の肉の消費を減らし、週に数回は魚を食べることが推奨されています。
また、オリーブオイルを主な調理用油として使用し、新鮮な野菜や果物を日常的に取り入れることが推奨されています。
地中海式ダイエットに使われる食材には、抗炎症作用と抗酸化作用があり、オメガ3脂肪酸を多く含むため、脳細胞を保護し、認知機能の低下を予防するのに役立つと考えられています。
脳の活性化
脳の活性化には、趣味の活動や社会的交流が非常に重要です。
例えば、パズル、スポーツ、読書、音楽演奏、旅行などの個人的な趣味は、脳を刺激し、認知機能の低下を防ぐ効果があるといわれています。
また、友人や家族との定期的な交流は、社会的孤立を防ぎ、心理的な健康を維持するために役立つといわれています。
健康に悪影響を与える習慣の改善
喫煙と過度のアルコール摂取は、認知症リスクを高めることが知られています。
喫煙は脳の血管に損傷を与え、アルコールの過剰摂取は神経細胞を破壊する可能性があるとされています。
これらの習慣を避けることで、脳の健康を保護し、認知症のリスクを軽減することができるといわれています。
これらの対策を日常生活に取り入れることで、認知症の予防に寄与するだけでなく、全体的な健康と幸福感を向上させることが期待できます。
予防方法② 定期的な認知機能検査
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。