レビー小体型認知症は根本的な治療法が存在せず、一度発症すると進行を止めることが難しい深刻な病気です。
このため、発症を予防するためには、自分や周囲の方がレビー小体型認知症になりやすいかどうかを理解し、早期に対策を講じることが非常に重要です。
この記事では、レビー小体型認知症になりやすい人々の特徴をはじめ、症状や原因、予防法について詳しく解説します。
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症とパーキンソン病の症状を併せ持つ進行性の神経変性疾患です。
この疾患は、レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質の塊が脳内に蓄積し、認知機能や運動機能に影響を及ぼします。レビー小体型認知症の特徴的な症状には、認知機能の変動、視覚幻覚、パーキンソン症状などがあります。
レビー小体型認知症は、全体の認知症患者の10〜15%を占めるとされています。日本国内では、約50万人以上の患者がいると推定されていますが、正確な統計はありません。また、レビー小体型認知症の平均余命は診断から5〜8年とされ、個人差はありますが、症状の進行により生活の質が徐々に低下していくと言われています。
出典:Cleveland Clinic: Lewy Body Dementia
レビー小体型認知症の症状
レビー小体型認知症の症状は、多岐にわたります。主な症状には、認知機能の変動、視覚幻覚、運動障害があります。
認知機能の変動
レビー小体型認知症では、一日の中で注意力や覚醒度が急激に変化することが特徴です。ある時は集中力や記憶力が正常であるのに対し、短時間後にはこれらの機能が著しく低下し、混乱やぼんやりとした状態に陥ることがあります。この変動は、日中の異なる時間帯や日によっても異なるため、家族や介護者はその対応に苦慮することが多いとされています。
視覚幻覚
視覚幻覚は、レビー小体型認知症の初期段階でよく見られる症状の一つです。患者は存在しない物や人を見たりすることがあり、これらの幻覚は非常にリアルに感じられます。具体的には、部屋の中に見えない人がいる、動物が見えるといった幻覚が報告されています。このような幻覚は患者にとって非常に混乱を招き、日常生活に支障をきたすと言われています。
運動障害
レビー小体型認知症では、パーキンソン病に似た運動障害が見られます。具体的な症状には、筋肉の硬直、震え、歩行困難が含まれます。歩行困難の例としては、歩行時の小刻みな歩幅や、体のバランスを保つのが難しいといったものがあります。また、動作が遅くなることや、手の震え、顔の表情が乏しくなるといった症状も見られます。
REM睡眠行動障害
レビー小体型認知症では、他の認知症に比べてREM睡眠行動障害が頻繁に発生します。REM睡眠行動障害は、睡眠中に夢を見ている間に体を動かすことが特徴とされています。具体的には、夢の中での行動を実際に行い、手足を動かしたり、ベッドから転落することがあります。このため、患者は睡眠中にけがをするリスクが高まります。
その他の症状
レビー小体型認知症には、上記以外にも多くの症状が見られることがあります。例えば、日中の強い眠気、うつ病、不安、幻聴、嗅覚の減退、失禁などが報告されています。これらの症状は個々の患者によって異なるとされています。
出典:Stanford Medicine: Signs and Symptoms of Dementia with Lewy bodies (DLB)
このように、レビー小体型認知症の症状は非常に多岐にわたり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
レビー小体型認知症を発症する原因
レビー小体型認知症の原因は完全には解明されていませんが、いくつかのリスク要因が明らかになっています。
レビー小体型認知症は、レビー小体という異常なタンパク質の塊が脳内に蓄積することで発症します。このタンパク質はアルファシヌクレインと呼ばれ、主に脳幹や大脳皮質に蓄積します。この蓄積が神経細胞にダメージを与え、認知機能や運動機能に影響を及ぼします。
遺伝的な要因も影響を及ぼします。例えば、APOE ε4アレルという特定の遺伝子を持っている人は、レビー小体型認知症を発症するリスクが高くなることがわかっています。また、家族歴にパーキンソン病や認知症がある場合もリスクが高まりとされています。
さらに、精神的な健康状態も影響します。不安やうつ病を経験したことがある人、あるいは脳卒中を経験したことがある人も、レビー小体型認知症のリスクが高いとされています。これらのリスク要因が重なることで、レビー小体型認知症を発症する可能性が高まります。
具体的なリスク要因を知ることは、早期発見や予防に役立つため、これらの情報を理解し、注意を払うことが重要です。
レビー小体型認知症になりやすい人の9つの特徴
レビー小体型認知症にかかりやすい人には特定の特徴やリスク要因があります。以下では、レビー小体型認知症になりやすい人の9つの特徴について具体的に解説していきます。
出典:National Library of Medicine: Risk factors for dementia with Lewy bodies
① 年齢
レビー小体型認知症は主に50歳以上の人に発症しやすく、特に65歳以上の高齢者に多く見られることが知られています。
アメリカ国立医学図書館の研究によると、レビー小体型認知症の発症率は加齢とともに増加し、高齢になるほどリスクが高まるとされています。具体的には、50歳を過ぎると発症リスクが急激に上昇し、65歳を超えるとさらに顕著になります。
このリスクの増加は、いくつかの要因によって説明されます。まず、年齢とともに脳の組織が自然に劣化しやすくなることが挙げられます。脳の神経細胞が徐々に減少し、シナプスの機能が低下することで、脳全体の機能が衰えることが原因とされています。
さらに、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質の異常蓄積もレビー小体型認知症の発症に深く関与しています。通常、α-シヌクレインは神経細胞内で正常に機能しますが、高齢になるとこれが異常に蓄積し、レビー小体と呼ばれる異常な塊を形成することがあるとされています。
② 性別
レビー小体型認知症は、男性の方が発症しやすい傾向があります。
理由の一つとして、男性はパーキンソン病のリスクが高いことが影響しています。パーキンソン病とレビー小体型認知症は、どちらもα-シヌクレインという異常タンパク質の蓄積が原因とされており、これが脳細胞にダメージを与えます。そのため、パーキンソン病のリスクが高い男性は、レビー小体型認知症のリスクも相対的に高くなると考えられています。
また、性ホルモンの違いも関与している可能性があります。エストロゲンという女性ホルモンは、脳の神経細胞を保護し、神経変性疾患に対する抵抗力を高める働きがあります。しかし、男性は女性に比べてエストロゲンの分泌が少ないため、レビー小体型認知症のような神経変性疾患に対する抵抗力が比較的弱いとされています。
さらに、男性は環境的および生活習慣的な要因により、神経変性疾患のリスクが高まることもあります。例えば、男性は女性に比べて喫煙やアルコール消費の頻度が高く、これらの習慣がレビー小体型認知症のリスクを増加させる可能性があるといわれています。
③ 家族歴
家族にパーキンソン病や認知症の患者がいる場合、レビー小体型認知症のリスクが高まることが研究で示されています。特に一親にパーキンソン病の病歴があると、レビー小体型認知症の発症リスクが増加することが明らかになっています。
さらに、レビー小体型認知症のリスクに関連する家族歴は、パーキンソン病だけでなく、他の神経変性疾患にも関係しています。例えば、家族にアルツハイマー病や他の形態の認知症の患者がいる場合も、レビー小体型認知症のリスクが高まることが報告されています。
④ 精神的な健康問題
不安やうつ病の既往歴がある人は、レビー小体型認知症を発症するリスクが高いとされています。
レビー小体型認知症患者は不安やうつ病の歴史を持つ割合が高く、これらの精神的な健康問題がレビー小体型認知症の発症前兆となることが多いとされています。
さらに、アメリカの国立医学図書館のデータによると、不安やうつ病がレビー小体型認知症のリスクを著しく高めることが示されています。これらの精神的問題がレビー小体型認知症のリスク要因となる理由として、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることや、早期に認知機能低下が影響している可能性が考えられます。
⑤ 脳卒中の既往歴
脳卒中を経験したことがある人も、レビー小体型認知症のリスクが高まることが報告されています。
脳卒中は脳の血流に影響を及ぼし、神経細胞にダメージを与えることで、さまざまな脳の機能に影響を与えます。具体的には、脳卒中によって脳の特定の領域が損傷を受けると、その領域での神経細胞の機能が低下し、結果として認知機能の低下や運動機能の障害が引き起こすと考えられています。
レビー小体型認知症においては、脳卒中の影響で脳の血流が悪化し、酸素や栄養が十分に供給されなくなることが、神経細胞を損傷させ、レビー小体の蓄積を促進する可能性があります。これにより、レビー小体型認知症のリスクが増加すると考えられます。
さらに、脳卒中後の回復過程で脳内の炎症反応が増加し、この炎症がレビー小体型認知症の発症に関与することも示唆されています。
このように、脳卒中はレビー小体型認知症のリスクを高める多くの要因を含んでおり、脳卒中を経験した人は特に注意が必要です。
⑥ APOE ε4遺伝子
APOE ε4遺伝子を持つ人は、レビー小体型認知症のリスクが高いとされています。この遺伝子はアルツハイマー病のリスクとも関連しており、レビー小体型認知症の発症にも影響を与えると考えられています。
APOE(アポリポプロテインE)遺伝子は、脂質(脂肪)の代謝に関与するタンパク質を生成する遺伝子で、人間の脳内でのコレステロール運搬や修復過程にも重要な役割を果たしています。この遺伝子には3つの主要な変異型(ε2、ε3、およびε4)があります。その中でも、ε4アリルを持つ人は神経変性疾患のリスクが高まることが知られています。
特にAPOE ε4遺伝子を持つことで、脳内にアミロイドβ(ベータ)タンパク質が異常に蓄積されやすくなります。このアミロイドβタンパク質の蓄積は、神経細胞にダメージを与え、認知機能を低下させる原因となります。アミロイドβタンパク質は、神経細胞間の情報伝達を妨げ、神経細胞を損傷させることから、レビー小体型認知症の発症に深く関わっていると考えられています。
さらに、APOE ε4を持つ人は、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳内に異常蓄積させ、レビー小体の形成を促進すると考えられています。レビー小体は、神経細胞内に形成される異常なタンパク質の塊であり、神経細胞の機能不全を引き起こし、レビー小体型認知症の症状を引き起こす原因となります。
⑦ カフェインの摂取量
カフェインの摂取が少ない人は、レビー小体型認知症のリスクが高まる可能性があるとされています。
カフェインは、神経保護作用があり、パーキンソン病のリスクを低減することが広く知られています。同様に、レビー小体型認知症においてもカフェインの保護効果が示唆されています。これは、カフェインが脳内でどのように働くかに起因しています。
カフェインは、アデノシンという化学物質の受容体をブロックすることで作用します。アデノシンは、眠気を引き起こすと同時に神経の興奮を抑える作用を持っています。カフェインがアデノシン受容体をブロックすることで、神経活動が活発になり、神経細胞の保護につながるのです。
さらに、カフェインはドーパミンの分泌を促進することが知られています。ドーパミンは、運動機能や快感に関与する神経伝達物質であり、その減少がパーキンソン病やレビー小体型認知症の一因とされています。カフェインの摂取により、ドーパミンの分泌が増加し、これがレビー小体型認知症のリスク低減につながる可能性があります。
⑧ がんの発症歴
がんを経験したことがある人は、レビー小体型認知症のリスクが低い傾向にあります。
この逆相関の理由はまだ完全には解明されていませんが、体の免疫における違いが関与している可能性があります。がん患者は免疫系が活性化されていることが多く、これが神経変性疾患のリスクを低減する要因となっていると考えられます。
このため、がんの既往歴があることは、レビー小体型認知症の予防に寄与する可能性があり、この点に関してさらなる研究が必要とされています。
⑨ 教育レベル
教育レベルが低い人は、レビー小体型認知症のリスクが高いとされています。特に9年以上の教育を受けた人は、レビー小体型認知症の発症リスクが低いことがアメリカの国立医学図書館の研究で示されています。
高い教育レベルは、脳の認知予備力を高め、神経変性疾患に対する抵抗力を強化する要因になるようです。教育を受けることにより、脳は複雑なタスクや問題解決のスキルを学び、脳の認知予備力を高めると考えられています。認知予備力が高いと、脳の損傷や変性に対してより耐性があり、レビー小体型認知症の症状の発現を遅らせることができる可能性があるとされています。
レビー小体型認知症になりやすい人には、年齢、性別、家族歴、精神的な健康問題、脳卒中の既往歴、APOE ε4遺伝子、カフェインの摂取量、がんの発症歴、教育レベルといった特定の特徴やリスク要因があります。これらのリスク要因を理解することで、レビー小体型認知症の予防や早期発見に役立てることができます。
高齢者や男性、家族に神経変性疾患の患者がいる人、不安やうつ病を経験したことがある人、脳卒中を経験したことがある人、APOE ε4遺伝子を持つ人、カフェインをあまり摂取しない人、がんを経験したことがある人、そして高い教育レベルを持つ人は、それぞれレビー小体型認知症のリスクが異なる程度で影響を受ける可能性があります。これらのリスク要因に該当する人は特に注意が必要です。
次に、レビー小体型認知症の予防法について詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
レビー小体型認知症の予防法
レビー小体型認知症の予防法については、明確に確立された方法は存在しません。
しかし、研究や専門家の意見に基づき、リスクを低減する可能性のある生活習慣や対策がいくつか示唆されています。
ここでは、レビー小体型認知症の予防に効果的な対策をいくつかご紹介します。
健康的な習慣を継続
レビー小体型認知症の予防には、まず健康的な生活習慣を維持することが重要です。以下のポイントを参考に、日常生活に取り入れてみましょう。
まず、バランスの取れた食事が神経保護効果をもたらす可能性があります。特に、地中海食やオメガ3脂肪酸を含む魚の摂取は、認知機能の維持に役立つとされています。また、有酸素運動や筋力トレーニングなどの定期的な運動は、血流を改善し、脳への酸素供給を増やすことで神経細胞の健康を保つのに効果的です。
さらに、適度なカフェイン摂取もレビー小体型認知症のリスクを低減する可能性が示されています。適量のコーヒーやお茶の摂取が推奨されており、日常的に取り入れると良いでしょう。
このように、バランスの取れた食事、定期的な運動、適度なカフェイン摂取を習慣化することが、レビー小体型認知症の予防に繋がると考えられます。
精神的・社会的活動の推進
脳を刺激する精神的・社会的活動もレビー小体型認知症の予防に有効だと考えられています。
認知的な刺激を与える活動、例えば読書、パズル、チェス、数独などは、脳の健康を保つのに役立つとされています。これらの活動は神経細胞間の新しいつながりを促進し、認知機能の維持に寄与する可能性があります。
また、社会的なつながりも重要です。孤独や社会的な孤立は認知症のリスクを高める要因とされており、家族や友人との交流や地域活動への参加など、積極的に社会的なつながりを持つことが推奨されます。
心の健康管理
ストレス管理もレビー小体型認知症の予防において重要な要素です。長期間にわたるストレスは、脳に悪影響を与える可能性があります。瞑想やヨガ、深呼吸などのリラクゼーション法は、ストレスを軽減し、精神的な健康を維持するのに役立ちます。
また、うつ病や不安症はレビー小体型認知症のリスクを高める可能性があるため、適切な治療やカウンセリングを受けることが推奨されます。
良質な睡眠の確保
レビー小体型認知症の予防には、質の良い睡眠を確保することが重要です。睡眠の質を向上させるためには、いくつかの具体的な対策を講じることが推奨されます。
まず、規則的な睡眠スケジュールを維持することが大切です。毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きることで、体内のリズムを整え、安定した睡眠を得ることができます。また、就寝前にはカフェインやアルコールの摂取を避けることが重要です。カフェインは覚醒作用があり、アルコールは一時的に眠気を誘発するものの、睡眠の深さを妨げることがあります。
これらの対策を実践することで、より質の高い睡眠を確保し、レビー小体型認知症のリスクを低減することが期待できると言われています。
定期的な医療チェック
定期的な健康診断を受けることは、レビー小体型認知症の早期兆候を発見し、早期介入を可能にするために非常に重要です。
健康診断では、認知機能の評価を含む多様な検査を行うことで、認知症の初期段階を見逃さずに捉えることができます。これにより、認知症の進行を遅らせたり、症状を軽減させるための適切な治療や対策を早期に開始することができます。
また、健康診断は心血管疾患や糖尿病などのリスク要因を管理する機会としても重要です。これらの疾患は認知機能の低下と関連しているため、定期的なチェックと適切な管理によって、認知機能の維持に寄与することができます。例えば、高血圧や高コレステロール、血糖値の異常などを早期に発見し、適切な治療を行うことで、脳への負担を軽減し、認知症のリスクを低減することが可能です。
さらに、遺伝子検査を通じて自身のリスクを把握することも重要です。遺伝子検査を受けることで、APOE ε4遺伝子の有無を確認し、リスクが高い場合には、予防策を講じるための具体的なアドバイスを医師から受けることができます。
このように、定期的な医療チェックは、レビー小体型認知症の予防や早期発見において重要な役割を果たします。
まとめ
これまで、レビー小体型認知症になりやすい人々について解説しました。
レビー小体型認知症は、他の主な認知症と異なる特有の症状やリスク要因を持っています。
病気の早期発見や予防のためには、健康的な生活習慣の維持や精神的・社会的活動の推進、心の健康管理、良質な睡眠の確保、定期的な医療チェックが重要です。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせる可能性がある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
🔰 認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、「認知機能セルフチェッカー」を導入している医療機関リストからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できることも
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割程度の方は1年以内に認知症へと進行すると言われています。
一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。