認知症の初期症状と思われる症状が見られ、どのような治療法があるのか探している方に、認知症初期の治療に関する概要を解説します。
認知症の初期治療はできるのか、どのような治療法があるのかに加えて、治療を続けるためのポイントを解説します。
さらに、認知症と診断されなかった場合でも、日頃から行うべき認知症予防に関しても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
認知症の初期段階は治療ができる?
現時点では、認知症を根本的に治すための治療方法や、認知症の進行を完全に止める方法は見つかっていません。認知症の初期段階の治療は、どのようなものなのでしょうか。
大半の認知症は治療ができない
認知症には様々な種類や症状があり、大部分の認知症は治療が困難だとされています。中には「治る認知症もある」とされていますが、しかし、アルツハイマー型認知症と診断された後の治療では、最新の薬などを使って進行を抑制したとしても、根本的に治すことはできず、最終的に認知症は進行してしまうと言われています。
従って、現時点においては「ほとんどの認知症が完治することはない」という認識をあらかじめ持った上で認知症に向き合うことが大切です。
早期発見をすれば治療で回復できる可能性がある
認知症を発症する前には、健康な状態と認知症の中間の状態であるMCI(軽度認知障害)という状態があります。認知症の症状が診られるものの、日常生活を送るにあたって周囲に影響はおよぼさない状態です。
アルツハイマー型認知症を発症してしまうと治療で完全に治すことはできませんが、MCIの段階で早期発見し、適切な治療を行えば、認知機能が正常な状態まで回復する可能性は14%〜44%あると言われています。一方で、そのままMCIの状態を放置すると、約1割の方が1年以内に認知症を発症すると言われています。従って、認知機能の低下を早期に発見できるほど、症状の深刻化を防ぎやすくなるということです。
認知症の治療は大きく2種類
認知症の治療は大きく「薬物療法」と「非薬物療法」の2種類に分けられています。ここからは、この2種類の具体的な治療内容について解説します。
薬物療法
認知症に対する薬物療法は、大きく「認知機能を改善するための薬」と「行動・心理症状を改善するための薬」に分けられます。これらをそれぞれ解説し、薬物療法による副作用についても解説します。
なお、薬物療法については下記の記事でも詳しく解説しているため、参考にしてみてください。
認知機能を改善するための薬
認知機能を改善するための薬は「抗認知症薬」とも呼ばれ、代表的な薬は下記の2種類です。
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- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー型の初期から中期にかけて進行を抑制させる薬であり、日本で認可されている代表的な薬は「アリセプト」と「レミニール」と、貼り薬の「イクセロン」と「リバス・タッチパッチ」です。神経伝達物質の現象を防ぐ作用があります。
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- NMDA受容体拮抗剤
中等度以上のアルツハイマー型認知症のための薬で、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と同時に服用することもできます。神経細胞を興奮させるグルタミンの分泌を抑える効果が期待できます。現在日本では「メマリー」が認可されています。
行動・心理症状を改善するための薬
行動・心理症状を改善するための薬は、主に生活への悪影響を抑えることを目的に処方されます。行動・心理症状を改善するための薬は様々なものが用意されているため、一度医師に相談をして、適切な薬を処方してもらうのが良いでしょう。
副作用はある?
上述した抗認知薬、行動・心理症状を改善するための薬は、どちらも副作用があると言われています。副作用の出方は人によって異なるため、薬を服用後体調に変わったことがあれば、すぐに医師に相談するようにしましょう。
非薬物療法
非薬物療法は薬物を用いずに脳を活性化させ、できるだけ長く残存機能を維持する目的でアプローチする治療法のことです。非薬療法物には様々な種類がありますが、代表的なものは下記の3つです。
- コミュニケーションを含めた認知トレーニング
- 運動
- 食事
それぞれ順番に解説します。
コミュニケーションを含めた認知トレーニング
認知症では物忘れなどの記憶障害だけでなく、計算力や集中力にも障害が起こることがあります。これらを鍛えられるのが認知トレーニングで、楽しみながら脳に刺激を与えることができます。
また、記憶を刺激するようなコミュニケーションをとることも重要です。昔の写真を見ながら「この頃は何をしていたの?」や「住んでいた場所はどこ?」など聞いてみるなどのコミュニケーションをとると良いでしょう。簡単なしりとりもコミュニケーションを含めた認知トレーニングとして効果的です。
ゲームや趣味、楽器の演奏など楽しみながら認知の刺激になることを取り入れても良いでしょう。
運動
ランニングやジョギングといった有酸素運動を行います。有酸素運動で体内に持続的に酸素を送り込むことで、脳内に酸素が行き渡り、血流の改善や脳が若く保たれる効果が期待できます。
また、デュアルタスクと呼ばれる「2つのタスクを同時進行させるトレーニング」も効果的だと言われています。例えば「ランニング中の足し算」や「しりとりしながらのウォーキング」などです。デュアルタスクを行うことで脳の血流が増加し、通常よりも高い認知症予防効果が期待できます。
食事
食事は健康管理をする上で非常に重要ですが、認知症予防においても例外ではありません。下記の食事をバランスよく摂取することが認知症予防に効果的だと言われています。
- ビタミンC、Eが多く含まれる野菜・果物
- DHA、EPAが多く含まれる魚を食べる
これらを毎日摂取しなければいけないわけではありませんが、できるだけ普段の食事に取り入れるようにしましょう。
認知症治療を続けるためのポイント
ここからは、認知症治療を続けるためのポイントを3つ紹介します。
- 医師と協力体制を作る
- 薬の管理は一元化する
- 本人に無理強いをしない
それぞれ順番に解説します。
医師と協力体制をつくる
認知症治療は、深い知見のある専門医と協力体制を作ることが大切です。家族が本人の普段の状況のメモを細かく取り、医師との間に齟齬が生まれないようにしましょう。
医師は普段からたくさんの認知症患者のサポートをしていますので、困っていることや相談事はすぐに解決してくれるはずです。しかし、それは普段の認知症患者本人の生活や性格を知ってこそですので、周りにいる家族が医師に普段の様子を細かく伝える必要があります。
薬の管理は一元化する
自宅療養の場合は毎日医療に関するサポートがあるわけではないため、薬の服薬などは家族の介助が必要です。1日ごとに飲む薬を小分けするなどして誤飲を防ぎましょう。
また、服薬の介助をする家族の不在時には、本人に不安を与えないために、時計などでアラームをセットしておくことも効果的です。予め薬の管理を一元化し、家族がいなくても本人1人で服薬できる環境を整えましょう。
本人に無理強いをしない
非薬物療法は「本人が楽しめる」というメリットがありますが、どうしても感情のコントロールができない場合も出てきます。そういったときには無理強いをせず、そっと落ち着くまで見守ってあげることが大切です。
本人もトレーニングや運動をした方が良いということは理解していますが、感情のコントールが追いかないことがあります。ここで無理強いをしてしまうと「自尊心を傷つけられた」と感じ、さらにストレスが大きくなってしまいます。
認知症の症状がなくても万が一に備えておくことが重要
認知症予防のために認知機能の定期的測定が重要ですが、同時に、万が一認知症と診断される前に「認知症保険」に加入しておくことをおすすめします。認知症保険とは、認知症における経済的なリスクをカバーする保険のことであり、長期的に介護、医療サービスを利用する場合は必要不可欠な存在です。
認知症保険が重要な理由
認知症保険加入が重要なのは、治療費と介護費が大きいという経済的リスクと、認知症高齢者が増え続けている2つの理由があります。
認知症高齢者が入居できる施設に「グループホーム」がありますが、こちらの月額費用は10万円弱です。月額費用に加えて初期費用は15万円前後かかり、自宅での介護を受けられる訪問サービスも併せて利用した場合は、さらに毎月の経済的負担が大きくなります。医療機関での定期的な治療費や薬の費用も発生し、認知症発症後に必要な費用は決して安いものではありません。
また、厚生労働省の推計によると、2040年には認知症高齢者は584万人に昇ると言われています。この数字は高齢者の15%を占める割合ですので、ご家族がいつ認知症になってしまってもおかしくありません。
上記のリスクをカバーする認知症保険に加入し、認知症と長期的に向き合うための準備をしていくことが大切です。
保険選びは保険代理店でプロに相談
認知症の保険と一言で言っても、各生命保険会社によって保険内容が異なり、この中から最適化な保険を見つけることは困難です。
保険選びで迷った場合には、まずは保険の専門家に相談することをおすすめします。保険代理店では、様々な保険商品の中から、保険の専門家がお客様に最適の保険を提案してくれます。
1人で悩みを抱え込まず、気軽に専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
認知症の早期発見のために日頃から認知機能測定をしましょう
認知症の初期治療について解説してきました。認知症が発症した後では根本的に病気を治すことは難しく、多くの場合、進行を抑制することに留まります。ただし、MCI(軽度認知障害)の段階で発見できれば、認知機能を健全な状態まで回復させることも可能です。認知機能の低下を早期に察知するためには、定期的に認知機能を測定することが有用だと考えられます。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。