認知症の初期症状が見られた場合、医師は薬物療法を推奨することがあります。薬物療法は、症状を和らげ、病気の進行を遅らせる効果があります。
ただし、この薬は認知症を治すためのものではなく、あくまで進行を抑制させるためのものです。
薬を服薬しても最終的に認知症は進行していきますので、認知症を治す目的で服薬するものではないと覚えておきましょう。
本記事では認知症の治療に用いられる薬の効果や副作用、服薬の注意点などを解説します。
認知症治療薬と効果
薬物療法には、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、脳内の神経伝達物質アセチルコリンの分解を抑制し、認知症の症状を和らげる効果があります。
一方、NMDA受容体拮抗薬は、グルタミン酸受容体に作用し、認知症の症状を改善する効果があります。
認知症治療薬の副作用
ただし、薬物療法には副作用もあります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の副作用には、吐き気、下痢、動悸などがあり、メマンチンの副作用には、めまい、頭痛、下痢、便秘などがあります。
薬物療法を始める前に、医師と相談し、適切な薬剤を選択することが重要です。
また、副作用のリスクを最小限に抑えるために、適切な投与量とスケジュールを守ることも重要です。
日本で使われている代表的な認知症治療薬
現在日本で認知症に対して使われている主な薬は、アルツハイマー病に使う薬が4種類、レヴィー小体型認知症に使う薬が1種類あります。
以下でそれぞれの薬に関して詳しくみていきます。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
ドネペジル(商品名:アリセプト)
アルツハイマー型認知症・レヴィー小体型認知症の薬として使用され、軽度から高度にかけて進行を抑制できるといわれています。
現在ドネペジルのみがレヴィー小体型認知症の薬として認められてます。
ガランタミン(商品名:レミニール)
アルツハイマー型認知症の薬として使用され、初期から中期にかけて進行を抑制できるといわれています。
リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ・リバスタッチ)
アルツハイマー型認知症の薬として使用され、初期から中期にかけて進行を抑制できるといわれています。
リバスチグミンは他の2種類と異なり、貼り薬であることが特徴です。
そのため、飲み薬が嫌な人・苦手な人でも受け入れやすい薬です。
NMDA受容体拮抗薬 メマリー・メマンチン(商品名:エビリファイ)
メマンチンは、NMDA受容体拮抗薬の一種であり、アルツハイマー型認知症の症状を改善するために使用されます。
具体的には、認知機能の低下や行動・心理症状の改善が期待されています。
NMDA受容体は、グルタミン酸が結合することで活性化し、神経細胞の興奮性を調節する重要な受容体です。
しかし、グルタミン酸の過剰な分泌が神経細胞の障害を引き起こし、アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患の進行に関与することが知られています。
メマリー・メマンチンはこのグルタミン酸の過剰分泌を抑制することによって、神経細胞を保護し、認知症の症状を改善するとされています。
その他の治療法と併用する場合の注意点
認知症の治療には、薬物療法のほかにも、認知症に特化したリハビリテーションや環境整備、栄養管理など、多岐にわたる治療法があります。
これらの治療法を併用する場合には、以下のような注意点があります。
- 薬物療法との併用による副作用や相互作用に注意する必要がある。特に、複数の薬物を同時に使用する場合には、医師に相談して適切な使用方法を確認する。
- リハビリテーションや環境整備などの非薬物療法は、薬物療法と併用することで相乗効果が期待できるが、効果には個人差がある。また、効果を実感するためには、長期的な継続が必要な場合もある。
- 栄養管理に関しては、特にビタミンB群や抗酸化物質、DHAなどが認知症の予防や改善に効果的であるとされている。しかし、過剰な摂取は健康に悪影響を与えることがあるため、適切な摂取量を守るようにする。
以上の点に注意しながら、複数の治療法を併用して認知症の改善に取り組むことが大切です。
服薬管理のポイント・注意点
ここからは、服薬管理のポイントや注意点を3つに分けて解説します。
- 家族がサポートする
- お薬カレンダーや薬ケースを活用する
- 拒絶する場合の対応方法
家族がサポートする
認知症が進行すると、記憶力・理解力・判断力が低下してしまうため、本人1人で服薬することが難しいケースも出てきます。
薬の飲み忘れや誤飲を防ぐために、周りにいる家族や介護者が服薬の介助をするようにしましょう。
ただし「自分1人の力でできないこと」を補うつもりでサポートすることが大切です。
お薬カレンダーや薬ケースを活用する
自宅で療養をする場合、必然的にお薬を管理するのは認知症患者もしくは家族になります。
従って、万が一の可能性として服薬する薬を間違えてしまうことも考えられます。
こういったケースを防ぐためにおすすめなのが、お薬カレンダーで1ヶ月のお薬予定を管理すること、薬ケースを使用して1日ごとに薬を分別しておくことです。
家族の不在時には本人が1人でも安心して服薬できるよう、時間に合わせてアラームをセットしておくことも効果的です。
拒絶する場合の対応
服薬を拒絶してしまう場合は、本人にとって錠剤が飲みにくいのかもしれません。その場合は飲みやすい形状の薬に変更してもらうこともできます。
例えば、今では口の中で自然と溶ける薬やゼリー状の薬があります。本人がどのような薬なら飲みやすいのかを丁寧に聞いてあげるようにしましょう。
また、そもそもの服薬自体が嫌になってしまうケースについては、本人の心理状況が落ち着くのを待つ必要があります。
後になって気持ちが落ち着いた段階で服薬してくれる可能性もありますので、本人の気持ちに寄り添うことを大切にしてください。
ただし、それでも服薬が難しい場合は必ず医師に伝え、適切な指示を仰ぐことも忘れないようにしましょう。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、薬での治療法以外にも、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせることができる疾患です。
そして、早期発見には定期的にご自身の認知機能の状態を把握しておくことが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知機能の低下を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、日頃より適切な対応を心掛ける予防治療が有用であると考えられます。
認知症治療薬は医師と相談して適切に服用しましょう
認知症の薬とセルフチェック方法について解説してきました。認知症の薬は完治させるためのものではなく、あくまで進行を抑制する目的で服薬するものです。
症状によって服薬する薬が異なるため、必ず医師と相談して適切に服薬するようにしてください。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。