現代社会では、発達障害や認知症といった神経発達や認知機能に関連する疾患が増加しています。
発達障害と認知症の両方が、人々の日常生活やコミュニケーションに影響を与えることから、両者が互いに関連している可能性についての関心が高まっています。
本記事では、発達障害を持つ人が認知症になりやすいのか、両者の特徴や治療方法について解説していきます。
発達障害と認知症について
まずは、発達障害と認知症のそれぞれの特徴について簡単に解説します。
発達障害とは
「発達障害」は発達障害者支援法において、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。
つまり、発達障害とは、脳の発達がうまくいかず、言語、運動、認知、社会性などの機能が遅れることで、日常生活や学習に支障をきたす状態です。
特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴が見られます。
以下に代表的な発達障害について説明します。
自閉症
自閉症とは、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強いといった特徴を持つ発達障害の一種です。
自閉症は、現在では自閉スペクトラム症(ASD)という広い範囲の状態に含まれると考えられています。
自閉症の原因は不明ですが、遺伝的要因や脳の発達に関係すると考えられています。
自閉症は治療することはできませんが、早期に発見し、適切な支援や教育を行うことで、生活の質を向上させることができます。
アスペルガー症候群
アスペルガー症候群とは、自閉スペクトラム症の中でも、言語や知能に障害がなく、一見普通に見えるが、社会性やコミュニケーションに問題があるタイプのものです。
アスペルガー症候群の人は、自分の興味や趣味に没頭しすぎたり、相手の感情やニュアンスを理解できなかったり、規則や常識に囚われなかったりすることがあります。
アスペルガー症候群の原因も不明ですが、自閉症と同様に遺伝的要因や脳の発達に関係すると考えられています。
アスペルガー症候群も治療することはできませんが、個人の特性や能力に合わせた支援や教育を行うことで、社会生活を送る上での困難を軽減することができます。
ADHD
ADHDとは、注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の略称で、注意力が散漫になったり、衝動的に行動したり、じっとしていられなかったりする発達障害の一種です。
ADHDは子どもだけでなく大人にもみられますが、子どもの場合は学業や友人関係に影響を及ぼすことが多くあります。
ADHDの原因は不明ですが、遺伝的要因や脳内の神経伝達物質のバランスの乱れに関係すると考えられています。
ADHDは治療することはできませんが、薬物療法や行動療法などを組み合わせて行うことで、日常生活における問題を改善することができます。
発達障害は、生涯にわたって続くことが多いですが、適切な支援や療育により、その機能の改善や社会適応が可能です。
認知症とは
認知症とは、脳の神経細胞が損傷し、記憶力、判断力、言語能力、認識力などの認知機能が低下する症状群です。
アルツハイマー病、レビー小体型認知症、脳血管性認知症などに分類することができます。
アルツハイマー病
アルツハイマー病とは、記憶や思考能力が徐々に障害されていく神経変性疾患で、認知症の原因として最も多い病気です。
脳内に異常なタンパク質が蓄積したり、神経細胞が脱落したりすることが特徴です。
初期症状は物忘れや同じことを繰り返すなどで、進行すると言語障害や見当識障害などが現れやすくなります。
原因は遺伝的要因や高血圧などの心血管疾患などが関係していると考えられていますが、まだ完全には解明されていません。
治療法はありませんが、薬や運動などで進行を遅らせることができるとされています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは、脳内にレビー小体と呼ばれるタンパク質の塊が形成されることで起こる神経変性疾患で、認知症の原因として2番目に多い病気です。
記憶障害だけでなく、幻覚や錯乱、パーキンソン病様の運動障害などが特徴です。
原因は不明ですが、遺伝的要因やアルツハイマー病と同じタンパク質の異常などが関係している可能性があります。
治療法はありませんが、薬や介護などで症状を和らげることができるとされています。
脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳卒中や動脈硬化などによって脳の血管が傷つき、血流が低下することで起こる神経変性疾患で、認知症の原因として3番目に多い病気です。
記憶障害や思考力の低下だけでなく、歩行困難や失禁なども特徴です。
原因は高血圧や高コレステロールなどの心血管リスク因子とされています。
治療法はありませんが、リスク因子の管理やリハビリテーションなどで進行を遅らせることができるといわれています。
認知症は、加齢とともにリスクが増加し、遺伝や生活習慣などの複合的な要因によって発症することで、高齢者の独立生活を脅かす一因となります。
現在、根本的な治療法は存在しませんが、早期発見と適切なケアにより、症状の進行を遅らせることができます。
以下に、認知症と発達障害の違いを示します。
項目 |
認知症 | 発達障害 |
発症時期 |
主に高齢者(若年発症も稀にある) |
幼児期または出生前から始まる |
原因 |
脳の神経細胞の変性や損傷(アルツハイマー病、脳血管性認知症など) |
遺伝的要因、脳の発達に影響する環境要因 |
主な症状 |
記憶、思考、判断力、言語、行動の低下 |
言語、運動、学習、社会スキルの遅れ |
進行性 |
進行性(症状が徐々に悪化する) |
非進行性(生涯にわたる障害) |
治療 |
根本治療がなく、症状の緩和や進行の遅延が目的 |
早期介入、教育、療育、支援が中心 |
代表的な疾患 | アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症 |
自閉症スペクトラム障害、ADHD、ダウン症 |
発達障害と認知症は誤診されやすい
発達障害と認知症は、それぞれ異なる症状を持つ一方で、認知機能の低下やコミュニケーション能力の問題といった類似点が存在します。
この類似性から、発達障害と認知症は誤診されやすい傾向にあります。
症状が似ている
両方の疾患は、言語、記憶、注意力、社会的スキルなどの認知機能に関連する症状を持つことがあります。
これらの類似性は、誤診の原因となることがあります。
高齢者の発達障害
50代以上の方は、たとえ発達障害であったとしても、認知症・軽度認知障害と診断されることがあります。
高齢になると、まずは認知症の可能性が疑われます。
しかし、先程述べたように、認知症と発達障害は症状が似ていることもあり、発達障害が見落とされることがあります。
軽度認知障害との区別はさらに困難になります。
医者が両者に精通していない
認知症と発達障害にはそれぞれ専門医師・専門医療機関がありますが、認知症と発達障害の両方を専門としている医師や医療機関は少ないのが現状です。
発達障害を持つ人は、認知症になりやすいのか
発達障害を持つ人が認知症になりやすいかどうかは、一概には言い切れません。しかし、いくつかの研究から、発達障害と認知症の関連性について示唆されている要素があります。
一部の研究では、発達障害を持つ人が、一般的な認知機能の発達に遅れがあることから、認知症のリスクが高まる可能性が指摘されています。しかし、この関連性は単純な因果関係を示すものではなく、さまざまな要素が絡み合っていることを理解することが重要です。
遺伝的要素、脳機能の特徴、社会的要因、ストレスの影響など、発達障害と認知症の関連性を示す様々な要因があります。また、発達障害の種類や個人の状況によっても、認知症になりやすさは変わることが考えられます。
発達障害を持つ人が認知症になりやすいかどうかについての研究はまだ十分ではなく、今後の研究が求められています。そのため、発達障害を持つ人やその家族が、認知症に対する予防策や適切な対応を行うことが大切です。適切なサポートやストレスの緩和、健康的な生活習慣を維持することが、認知症のリスクを減らすことに繋がるでしょう。
発達障害と認知症の併発を防ぐためには
元々発達障害を持っている方は、50歳以降になると認知症を併発するリスクが高まります。
認知症と発達障害が併発する場合、患者は両方の疾患の症状や課題に直面します。
これにより、既存の学習障害や言語障害が悪化し、社会的スキルや適応力の低下が日常生活の困難を増す可能性があります。
さらに、両方の疾患に対処するためのサポートやケアが必要となり、治療や介護のアプローチが複雑化します。
これらの症状が相互に影響し合うことで、患者のストレスや苦悩が増加することが考えられます。
しかし、認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
ご本人とその周りのご家族やサポートしてくれる方々の負担を増やさないためにも、定期的に認知機能検査を受けることで、認知症の予防に取り組みましょう。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。