認知症の予防や早期発見に向けて、脳ドックを受けようか迷っている方は多いのではないでしょうか。
実際、脳ドックだけでは認知症を診断することは難しいとされています。
認知症には様々な種類の認知症があり、それぞれの認知症によって原因や症状が異なるため、脳ドックだけでなく、複数の検査方法を用いて診断する必要があります。
本記事では、脳ドックによる検査や認知症の具体的な検査手順について詳しく解説していきます。
認知症とは
認知症とは、病名ではなく、脳の病気や損傷が原因で、記憶力や思考能力、日常生活の遂行能力が持続的に低下する状態を指します。
認知症には様々な種類があり、その原因や症状は多様です。
代表的な認知症には、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・脳血管性認知症などがあります。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは、日本における認知症の中で最も多いとされている認知症です。
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳内に蓄積し、海馬を中心に頭頂葉や側頭葉が萎縮することによって発症するとされています。
症状としては、海馬の萎縮による記憶障害や時間や場所の見当識障害(日付が分からない、迷子になる等)、そして人格の変化(怒りやすくなる等)などが知られています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内に異常なタンパク質が溜まり、レビー小体を形成することで発症するとされています。
レビー小体型認知症の特徴的な症状に、パーキンソン病に似た運動障害と幻覚があります。症状が進行していくと、現実にはないものが見えたり、歩行困難・寝たきりになる場合があります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害により発症する認知症とされています。
脳血管障害は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病による動脈硬化との関連性が高いとされています。
脳ドックはどういう検査?
「脳ドック」は、MRI(磁気共鳴画像法)やCT(コンピュータ断層撮影)、頸部エコー検査などを用いて、脳の病気や異常を早期に見つけ出すための健康診断の一種です。
脳ドックは、人間ドックのオプション検査として提供されている場合が多く、ご自身の必要に応じて検査を受けることができます。
特に脳血管疾患や脳腫瘍など、初期段階では症状が現れにくい病気の発見に役立ちます。
脳ドックの主な対象は、脳卒中のリスクが高い中高年の人々、頭痛やめまいの症状がある人、または遺伝的に脳の疾患リスクが高いと思われる人々などです。
脳ドックだけで認知症は分からない
脳の状態を検査することが可能な脳ドックですが、脳ドックだけで認知症を診断することは難しいとされています。
脳の萎縮が見れられるアルツハイマー型認知症や脳血管障害により発症する脳血管性認知症では、脳ドックによる画像診断が役立つことがあります。
しかし、レビー小体型認知症では脳の萎縮や血流の異常が見られない場合があるため、脳ドックのみでの認知症診断は困難であるとされています。
また、脳の萎縮が見られても、認知機能は正常に保たれている方もいるため、認知症の診断には複数の検査を用いて、脳の働きなどについても総合的に判断する必要があります。
脳ドックで「脳に異常はない」と言われた
ここまで説明した通り、認知症の中には脳ドックだけでは分からないものがあります。
たとえ脳ドックで異常はないと医師から言われても、認知症である可能性は十分に考えられます。
そのため、脳ドックの検査だけで認知症の有無を判断するのではなく、定期的な認知機能検査や神経心理学的検査も同時に行うことで、認知症の早期発見につなげていきましょう。
(出典)
全国健康保険協会『認知症(Dementia)』
認知症の基本的な診断方法
では、実際に認知症の診断にはどのような手順がとられるのでしょうか。
以下で、認知症の具体的な診断ステップを確認していきましょう。
1.問診
ご本人及びそのご家族と直接話しながら、現在自覚している症状やこれまでの病歴などについて聞いていきます。
問診で少しでも不安を解消するために、日常生活で気になる点を普段からメモしておきましょう。
2.身体検査
認知症以外の疾患がないのかを確認するために、身体検査が行われます。
具体的には、血液検査、心電図検査、感染症検査などの検査に加えて、服薬している薬についても確認します。
3.画像検査
脳ドックと同様に、脳内の画像検査機器を用いて、脳の状態を詳しく診ます。
画像検査によって、問診では分からない脳の物理的な変化を発見することができます。
4.神経心理学的検査
簡単な筆記テストや質問への口頭での解答によって、認知症の疑いがあるのかを判断します。
代表的な神経心理学的検査には、長谷川式簡易知能評価スケールやMMSE(ミニメンタルステート検査)などがあります。
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その他の認知症の画像検査
代表的な画像検査としてMRIやCTなどが挙げられますが、その他にも認知症の診断に役立つ検査機器はいくつかあります。
VSRAD(ブイエスラド)
VSRADは、撮影したMRI画像やCT画像を解析して、脳のどれくらい萎縮しているのかを測定する検査です。
海馬などの萎縮が見られるアルツハイマー型認知症で用いられることが一般的です。
SPECT
SPECT検査は、画像によって脳血流の低下部位を調べる検査です。
体内に放射性物質医薬品を注入し、その放射性物質が放出するガンマ線を検出して画像を作成します。
SPECT検査は、早期から脳血流の低下がみられるアルツハイマー型認知症の診断に役立つとされています。
PET
PET検査も主にアルツハイマー型認知症の診断に用いられます。
SPECT検査と同様に、体内に放射性医薬品を注入し、アルツハイマー型認知症の原因とされている脳内での異常なたんぱく質の蓄積を画像診断します。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
現在、認知症は一度発症してしまうと、完治することが困難であるとされています。
ただし、認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要です。
認知機能セルフチェッカーであれば、脳ドックよりも手軽に認知機能を検査することができます。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
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まとめ
- 認知症は、脳の病気や損傷が原因で、記憶力や思考能力、日常生活の遂行能力が持続的に低下する状態を指す。
- 主な種類にはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症がある。
- 脳ドックは、MRIやCT、頸部エコー検査などを用いて、脳の病気や異常を早期に見つけ出す健康診断。
- 認知症の診断には、脳ドックに加えて、定期的な認知機能検査や神経心理学的検査が必要である。
- 脳ドックだけで認知症を診断することは難しく、脳ドックで異常が見つからなくても認知症である可能性はある。