認知症予防に何か運動を始めたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
日頃から簡単に始められるものとして今回は様々な「体操」を紹介します。
認知症予防にどんな体操をすると効果を期待できるのか、また、そもそも体操は認知症予防に効果があるのかについて解説します。
認知症への不安を日々感じている方が知っておくべき事柄についてもまとめていますので、ぜひご覧ください。
認知症予防に体操がおすすめの理由
日本人の認知症患者は2022年の時点では約443万人でしたが、以後も増加の一途をたどると考えられており、厚生労働省によりますと、2030年には約523万人、2060年には600万人を越えると推計されています。
多くの方が認知症の不安を抱える現在、認知症予防に対する関心も高まってきています。
自治体の広報やテレビ、インターネットなどのさまざまな媒体で、認知症予防についての情報を目にする機会も増えてきているのではないでしょうか。
認知症予防の体操を紹介しているメディアも多いですが、実際のところ、体操で認知症を予防できるというエビデンスはあるのでしょうか。
WHOの認知症ガイドラインで推奨
認知症患者が増えているのは日本だけではありません。WHOの発表ではすでに世界には3,500万人を超える認知症患者がおり、2030年には2倍、2050年には5倍以上に増えると考えられているのです。
WHOでは、2019年、「認知機能低下および認知症のリスク低減WHOガイドライン」を作成し、どのような介入方法が認知症のリスク低減に有効であるかについて公表しています。
このガイドラインの中では、有酸素運動や筋トレ、その他の複合的な身体活動を、認知機能の低下を防ぎ、なおかつ認知症発症リスクを下げる活動として強く推奨しています。
認知症の予防に興味がある方は、ぜひ運動習慣を生活に取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
高齢者も簡単に取り組むことができる
ここでは、認知症予防に関心があっても継続するのが困難な難度の高い運動方法や、特別な用具や場所が必要のない体操の方法をご紹介します。
認知症予防が期待できる体操やトレーニング
では実際に認知症予防効果が期待できる体操やトレーニングをいくつか紹介します。
特別な道具は必要なく行えるものばかりなので、ぜひ今日から始めてみてはいかがでしょうか。
コグニサイズ
「コグニサイズ」は、国立長寿医療研究センターが開発した認知症の予防、特にMCI(軽度認知障害)の方々の認知機能の維持・向上に役立つ運動です。
コグニサイズは、運動課題に加えて、認知課題を同時に行うことで、心身の機能を効率的に向上させることができます。
コグニサイズを行うことで、さらに効率よく認知症予防をめざしましょう。
コグニステップ
- 両足をそろえて立つ
- 左足を一歩横に踏み出す→元に戻す→右足を一歩横に踏み出す→元に戻すの動きを繰り返す
- 足を動かす度に1、2と数え、3の倍数のときは声を出さずに手をたたく
コグニウォーキング
- 手足を大きく動かして姿勢よくウォーキングをする
- 歩きながら、しりとりをする
- 簡単な計算問題を出し合うのもおすすめ
拮抗体操・グーパー体操
拮抗体操はグーパー体操とも呼ばれ、左右の手でグーとパーを交互に出す体操です。
左手と右手で別の動作を行うことで、脳の前頭葉部分が刺激され、認知症予防に効果的といわれています。
難易度はレベル1~3の三段階に分けられています。
基本的な手の動きは同じですが、難易度が上がるにつれて、手の動き以外に新しい動作が加わってきます。
レベル1(難易度:易しい)
- 片手をグー、もう一方の手をパーにして構える(手の位置は自由)
- 掛け声に合わせて、グーとパーを入れ替える
- 10回繰り返す
レベル2(難易度:普通)
<パターンA>
- 膝上でグー、胸前でパーを構える
- 掛け声に合わせて、グーの手を開きながら胸の高さに持ち上げ、パーの手は握りながら膝上に下ろす
- 10回繰り返す
<パターンB>
- 膝上でパー、胸前でグーを構える
- 掛け声に合わせて、パーの手を握りながら胸の高さに持ち上げ、グーの手は開きながら膝上に下ろす
- 10回繰り返す
レベル3(難易度:普通)
<パターンA>
- グーを胸に、もう一方の手をパーにし、前に突き出して構える
- 掛け声に合わせて、グーの手を開きながら前に突き出し、パーの手は握りながら引き、胸に当てる
- 10回繰り返す
<パターンB>
- パーを胸に、もう一方の手をグーにし、前に突き出して構える
- 掛け声に合わせて、パーの手を握りながら前に突き出し、グーの手を開きながら胸に当てる。
- 10回繰り返す
参照:大分県『認知症予防プログラム』
簡単にできる指体操
指先を動かすと脳の働きが活発になり、認知症の予防効果が期待できると言われています。
また、体調が優れないときも、楽な姿勢を維持しながらでも指を動かすことだけなら負担は限定的であるといえるでしょう。
いくつか指体操の手順を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
<親指と小指の体操>
- 両手のひらを顔に向けて開く
- 左手は親指を出した状態で握り、右手は小指を出した状態で握る
- 次は、左手は小指を出した状態で握り、右手は親指を出した状態で握る
- 2と3を交互に何回か繰り返す。もしもし亀よの歌に合わせて繰り返すのもおすすめ
<指の追いかけっこ>
- 両手のひらを顔に向けて開いてから握る
- 左手の親指だけを出し、次は左手の人差し指だけを出し…と1本ずつ順に指を出す
- 左手の小指を出してひっこめたら、次は右手の小指だけを出し…と1本ずつ順に指を出す
- 右手の親指まで出したら、折り返して1本ずつ左手の親指まで出していく
- 指を出すときに、他の9本の指はしっかりと握っていることがポイント
その他にもさまざまな指体操があります。次の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
認知症予防に効果が期待される指体操とは。3つの難易度に分けて解説
ヨガ・ウォーキングなどの有酸素運動
脂肪を燃焼させ、血行を促進する「有酸素運動」なら、認知症予防だけでなく生活習慣病の予防の効果も期待できます。
生活習慣病は脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症などの認知症の発症とも密接に関連しているといわれているため、有酸素運動を続けることで健康増進を目指しましょう。
また、認知機能の低下や認知症発症のリスク低減には、運動を続けることが大切です。
そのため、「ウォーキング」「自転車エルゴメーター」「水中歩行」「ヨガ」などの低強度から中強度の有酸素運動を1回あたり20~30分程度行うことをおすすめします。
普段運動習慣がない人は、1回10分だけでもいいので、ご自身の無理のない範囲で継続的な運動を心がけましょう。
有酸素運動は、ある程度の負荷を継続的にかけることが必要です。
例えばウォーキングも有酸素運動ですが、より効果を高めるためには、背筋をしっかりと伸ばして、腕や脚を大きく動かし、やや呼吸が速くなる程度まで歩きましょう。
無理のない程度で、なおかつ少し負荷がかかった状態で続けるようにしてください。
認知症予防教室に通って定期的にトレーニング
多くの自治体では高齢の方や認知症が気になる方を対象に、認知症予防教室を開催しています。
体操や脳トレ、レクリエーションなどの脳を刺激する活動を皆で楽しめるので、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
他の人々と関わることで、コミュニケーションを増やす効果も期待できます。
体操以外の認知症予防につながる習慣
体操以外にも、認知症予防につながる習慣はたくさんあります。
すぐに始められる活動を紹介します。
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あやとりやお手玉などの手遊び
手先を使うことで脳を刺激することができますが、指体操だけでは飽きてしまうかもしれません。
あやとりやお手玉などの道具を使った手遊びなら、楽しく続けられるのではないでしょうか。
徐々に難易度を上げていくことで、積極的に脳を働かせていきましょう。
読書や手芸などの趣味
読書や手芸などの手先や頭を使う趣味も、脳の働きを活性化させます。好きなことなら、苦も無く日々の生活に取り組んでいけるでしょう。
一人で楽しめる趣味も良いですが、グラウンドゴルフやテニス、将棋などの人と関わる趣味なら、コミュニケーションも取れ、さらに認知症予防を期待できます。
規則正しくバランスの良い食事
「認知機能低下および認知症のリスク低減WHOガイドライン」では、健康でバランスの良い食事を強く推奨しています。
トランス脂肪酸と食塩は少なく抑え、果物と野菜を豊富に食べることで、健康な食事を目指していきましょう。
親しい人々とのおしゃべり
親しい人々とおしゃべりをすることも、脳を刺激する習慣のひとつです。
ストレスを解消し、安心感や安らぎを得ることもできます。
家族と暮らしている方はもちろんのこと、一人で暮らしている方も、こまめに会ったり電話をかけたりして、おしゃべりを楽しむようにしましょう。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な治療を施すことで、その進行を遅らせられる病気です。
そして、早期発見には定期的に認知機能をチェックすることが重要になります。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。
認知症予防を意識して毎日体操を続けましょう
認知症を予防するためには、毎日こつこつと体操や脳トレ、健康的な食事などを続けることが大切です。
定期的に認知機能の測定を実施すれば、ご自身の状態をより詳しく把握できるようになるでしょう。
※本記事で記載されている認知症に関する内容は、専門家によって見解が異なることがあります。