認知症は、人間の認知機能が徐々に低下していく深刻な疾患です。
認知症を完全に治す治療方法は現在のところ存在しませんが、予防対策を徹底的に行うことで進行を遅らせることは可能であると考えられています。
病気の原因を理解し、それに対する対策をとることが、将来の認知症発症を防ぐ方法の一つとされています。
認知症は、年齢、持病、活動量の低下など、様々な原因が組み合わさって発症することが一般的に考えられ、逆流性食道炎の薬を飲み続けることが認知症につながる可能性が最近明らかになってきました。
この記事では、逆流性食道炎の薬と認知症の関係や、薬以外の改善方法などについて解説します。
逆流性食道炎と認知症の関係
逆流性食道炎と認知症は、一見無関係な疾患のように思われるかもしれませんが、実は共通のメカニズムがあることはご存じでしょうか。
逆流性食道炎による胃酸の逆流は、神経系のパフォーマンスに悪影響を与えることが研究で報告されています。
さらに、逆流性食道炎の進行過程において、サイトカインといわれる物質の産生が重要な役割を果たしているとされています。
サイトカインは、体内の細胞が互いに通信するために利用されるタンパク質の分子であり、病原体に対抗したり、損傷した組織を修復したりするために重要だといわれています。
逆流性食道炎による神経系の炎症とサイトカインのレベルは、認知症の進行においても重要な要因とされているようです。
しかし、逆流性食道炎が後に認知症の発症に関連しているかどうかは、大規模な研究はまだ十分に行われていないため、現時点では明確には分かっていません。
参考:Higher Dementia Risk in People With Gastroesophageal Reflux Disease: A Real-World Evidence
逆流性食道炎の薬の種類
逆流性食道炎は胃酸の逆流によって食道が炎症を起こす病気で、この病気を治療または症状を軽減するために様々な種類の薬が用いられます。
薬の種類 | 商品名 | 特徴 | 市販/処方 | 効果 |
---|---|---|---|---|
M1ブロッカー | ガストール、パンシロンキュアSP | 胃酸分泌を促進するH2受容体の働きを抑えることで胃酸を減らす。 | 市販 | 弱 |
H2ブロッカー | ガスター、アシノンZ等 | 胃酸分泌に関わるヒスタミンのH2受容体を遮断することで胃酸を抑える。 | 市販・処方 | 中 |
プロトンポンプ阻害薬(PPI) | タケプロン、ネキシウム等 | 胃酸の分泌を担当するプロトンポンプを阻害し、胃酸を減らす。最も一般的に使用されている逆流性食道炎の薬。 | 処方 | 強 |
カリウムイオン競合型酸ブロッカー(P-CAB) | タケキャプ | プロトンポンプの働きをカリウムイオンと競合することで抑制し、胃酸を抑える。PPIより有効とされている一方、長期服用の安全性に関する研究は不十分。 | 処方 | 強 |
逆流性食道炎の薬を飲み続けるとどうなる?
M1ブロッカーとH2ブロッカーは、効果が弱いため、食道にやさしい逆流性食道炎の薬とされています。
市販で販売されている薬は長期的な服用は問題ありませんが、PPIとP-CABの薬は副作用が多いと警告されているため、医師と相談し長期の服用は避けることが推奨されています。
現時点では、胃がん、肺炎、骨折、心筋梗塞、認知症などの深刻な疾患を引き起こす可能性があると様々な研究で報告されています。
参考:The risks of long-term use of proton pump inhibitors: a critical review
逆流性食道炎の薬を飲み続けることが認知症につながる可能性
2023年9月に、PPIの服用と認知症との関連を調査した論文を学術誌Neurologyに公開されました。
研究者たちは、平均年齢75歳の5,712人の医療データを分析し、参加者の1,490人がPPIを服用していたことがわかりました。
次に、どれくらいの期間薬を服用していたかに応じて、参加者を4つのグループ、薬を服用していないグループ、2.8年まで薬を服用したグループ、2.8年から4.4年まで薬を服用したグループ、4.4年以上薬を服用したグループに分けました。
年齢、性別、高血圧や糖尿病などの要因を考慮して調整した後、研究者は、PPIを4.4年以上服用していた人は、薬を服用していない人に比べて認知症を発症するリスクが33%高いことを発見しました。
また、4.4年未満で薬を服用していた人は、認知症の発症率が高くなかったとも報告されました。
逆流性食道炎の薬の長期服用が認知症の発症リスクを上げる理由は?
研究者たちは、慢性的な逆流性食道炎の薬(PPI)の服用がどのようにして認知症のリスクを高めるのは明らかでないと指摘しています。
また、PPIの服用が実際に認知症と直接の関連があるのかを判断するのは難しいとされています。
研究者による仮説として、PPIの慢性的な使用は、認知症の発症要因の一つ、アミロイドの生成および代謝に異常をもたらす可能性が考えられています。
さらに、この薬は脳卒中や腎臓病のリスクを高めることが知られており、これらの病気は認知症のリスクを高めると言われています。
薬の服用以外に逆流性食道炎を改善する方法
逆流性食道炎の症状を改善する方法は、薬物療法が主流とされています。
しかし、効果が強い逆流性食道炎の薬を長期的に服用すると、認知症になる可能性が高くなるだけではなく、胃がんや肺炎などの疾患のリスクも伴うと考えられています。
薬の服用以外にも、逆流性食道炎を自然に治療する方法と手術で改善する方法があります。
逆流性食道炎を自然に改善する方法7選
逆流性食道炎は生活習慣を整えることで、逆流症状を大幅に改善できるといわれています。
以下の改善方法7選を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
・逆流を起こしやすい食品を避ける(高脂肪料理、辛い食べ物、アルコール、炭酸飲料、コーヒー、乳製品、グルテン)
・規則正しい生活を心掛ける(睡眠時間や食事のリズムを調整する)
・食べすぎに注意する(腹八分目が目安)
・食後はすぐに横にならない
・上半身を高くして寝る
・早食いはNG、よく噛んで食べ物を飲み込む
・タバコをやめる
参考:9 at-home treatments for acid reflux
生活習慣を改善しても、逆流性食道炎の症状が気になる方は医療機関を受診することをおすすめします。
逆流性食道炎を手術で治療する方法
重度の逆流性食道炎の症状がある場合、以下の手術方法が長期的な治療として考慮されることがあります。
噴門形成術
逆流性食道炎の最も一般的な手術は、噴門形成術(ふんもんけいせいじゅつ)です。手術時間は約2~3時間で、多くの場合、この手術により逆流性食道炎の症状が長期的に改善されるといわれています。
噴門形成術は、食道と胃の接続部を強化することで逆流を防ぐことを目的としています。
噴門形成術は、腹腔鏡手術または開腹手術として行うことができます。腹腔鏡手術では、腹部に数か所小さな切開をし、特別な道具を挿入して手術を行います。開腹手術では、腹部に大きな切開をして手術を進めます。
バリアトリック手術
逆流性食道炎と肥満を併発している場合、医師は肥満療法である「バリアトリック手術」を推奨することがあるようです。
バリアトリック手術は、体重を減らし、逆流性食道炎の症状を緩和するのに役立つとされています。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
逆流性食道炎を完治するだけでは、認知症を完全に予防できません。
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。