年齢を重ねるごとに気になり始める「コレステロール値」。
コレステロールは人間に必要不可欠な成分であり、正常な値であれば体に害はないと言われています。
しかし、コレステロールが過剰になると心筋梗塞や脳の疾患などの深刻な健康問題を引き起こすとされています。
さらに、コレステロールが認知症の発症にも関係している可能性についてご存じでしょうか?
この記事では、まだ広く知られていない認知症とコレステロールの関係について詳しく解説します。
認知症とは
認知症とは、認知機能が徐々に低下し、日常生活に支障をきたす状態を指す総称です。
現在、根本的な治療法は存在しないため、一度発症してしまうと進行し続ける深刻な病気とされています。
認知症の症状は、初期症状とBPSD症状の2つに大別されています。
初期症状は、認知症の初期段階で見られる症状で、記憶障害、言語障害、判断力の低下などの認知機能の低下が特徴とされています。
一方、BPSD症状は、環境や周囲の影響を受けやすく、初期段階の後に現れることが多い心理症状を指します。妄想、睡眠障害、性格の変化、失言などがその例とされています。
認知症の種類としては、アルツハイマー型認知症が全患者数の約6割を占めるほか、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症など、複数の種類が存在します。
認知症の発症要因としては、高齢、喫煙、アルコールの過度な摂取、脳疾患、心疾患などが考えられています。
コレステロールとは
コレステロールとは、主に肝臓や腸で自然に作られる脂質です。体内のすべての細胞がコレステロールを生成することができると考えられています。
コレステロールには以下の4つの主機能があるとされています。
・細胞の壁を作るための材料として働く機能
・食べ物の消化のために腸内に胆汁をつくる機能
・ビタミンDの生成をサポートする機能
・ホルモンの生成を助ける機能
出典:New Insights into Cholesterol Functions: A Friend or an Enemy?
コレステロールの種類
コレステロールには、LDLコレステロールとHDLコレステロールの2種類があるとされています。
① LDLコレステロール 【悪玉】
LDLコレステロールは、「悪玉」コレステロールとして知られています。
肝臓で生成されたコレステロールを血流に運んだり、ホルモンを産生する機能があるとされています。
LDLコレステロールのレベルが過剰になると、それが血管に沈着し、プラークと呼ばれる脂肪の塊を形成するとされています。
プラークは動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などをはじめとする健康問題を引き起こすとされています。
出典:The Role of Lipids and Lipoproteins in Atherosclerosis
② HDLコレステロール【善玉】
HDLコレステロールは、「善玉」コレステロールとして知られています。
HDLコレステロールはLDLコレステロールを排除し肝臓に流す機能があるとされています。
HDLコレステロールは「善玉」コレステロールと呼ばれている一方、体内に過剰に蓄積すると健康に害を与えると考えられています。
2019年の研究では、HDLコレステロールが高いと体内炎症を引き起こす可能性があることが示されています。体内炎症が慢性化すると、動脈硬化が加速すると考えられています。
また、アメリカの国立医学図書館によると、高いHDLコレステロール値が男性の全死因および心血管死のリスクを増加させる可能性があると報告されています。
出典:Dysfunctional high-density lipoprotein and atherogenesis
出典:Is a High HDL-Cholesterol Level Always Beneficial?
認知症とコレステロールの関係|2023年に公開された研究
以前では、認知症とコレステロールについての研究が少なく、結果にばらつきがあるため、これらに関係性があることはまだ不明と言われています。
しかし、近年の研究で認知症とコレステロールの関係が徐々に明らかにされつつあります。
2023年5月のデンマークの研究によれば、高いHDLコレステロールがアルツハイマー型認知症の発症リスクを増加させる可能性が示唆されました。この研究では、3万9106人のアルツハイマー型認知症患者と、40万1577人の非患者グループのデータが分析されました。
さらに、2023年10月に公開されたアメリカの研究で、コレステロールのレベルと認知症の関係が検証されました。
この研究では、約18万人の成人(平均年齢70歳)が17年間追跡されました。その結果、極端に高いまたは低いHDLコレステロールのレベルを持つ人々は、正常レベルのHDLコレステロールを持つ人々に比べて、認知症のリスクが7~15%高かったことが明らかにされました。
一方、この研究では認知症とLDLコレステロールの関係は見られなかったようです。
出典:Genetic Associations Between Modifiable Risk Factors and Alzheimer Disease
コレステロールが認知症のリスクを上げる原因は不明
研究者たちは、コレステロールが認知症のリスクを高める原因をまだ特定していないと指摘しています。
認知症とコレステロールの関連性が研究で示されているものの、コレステロールのレベルが認知症の発症を直接引き起こすかどうかは断言できない状況です。
今後、認知症とコレステロールの関係を明確にするために、さらなる研究が必要とされています。
コレステロールの基準値
コレステロールは体内に必要な成分である一方、以下の数値より過剰に作り出されると心筋梗塞や脳疾患などを発症するリスクが上がるとされています。
コレステロールの種類 | コレステロール量 |
HDLコレステロール | 男性:最低40 mg/dL、女性:最低50 mg/dL |
LDLコレステロール | 約100 mg/dL |
コレステロールの合計(HDL+LDL) | 約150 mg/dL |
認知症をはじめとする心疾患や脳疾患を予防するには、医療機関でコレステロール値を定期的に検査し、それをもとに以下3つの方法を取り入れることが効果的とされています。
認知症のリスク低減のためにコレステロール値を安定させる方法
認知症のリスクを低減し、コレステロール値を安定させるには、脂質が多い食べ物を控え、運動習慣をつけ、特定の薬物摂取を控えることが推奨されています。
脂質を抑えた食事
脂質を取りすぎると、コレステロールの値が高くなると考えられています。
以前は、コレステロールが多く含まれている食べ物(卵の黄身、肉、チーズなど)を控えることでコレステロール値を抑えることができると言われていました。
しかし、これらの食品を摂取することは体内のコレステロールの増加と無関係と研究で示されています。
コレステロールのレベルを安定させるには、果物や野菜、魚などがメインの食事方法が推奨されています。
具体的に、食事に取り入れるべき食べ物と控えるべき食べ物を以下にまとめました。
コレステロールを上げる食べ物 | コレステロールを低くする食べ物 |
赤身肉 | オートミール |
乳製品 | 全粒穀物 |
焼き菓子 | 豆類 |
揚げ物 | 野菜 |
バター | ナッツ |
植物油(パーム油、ココナッツオイル) | 果物 |
加工肉 | 魚 |
出典:4 foods not to eat if you have high cholesterol
出典:Prevention and Treatment of High Cholesterol (Hyperlipidemia)
定期的な運動
定期的な運動はコレステロールのバランスを保ち、心血管の健康を維持する効果があるとされています。
また、運動習慣をつけることで高コレステロールの要因の一つである、肥満を予防することも可能とされています。
アメリカ心臓協会(AHA)は、毎週150分の有酸素運動(中レベル)を推奨しています。有酸素運動は、ウォーキング、サイクリング、ダンス、水泳、テニス、ガーデニングなどが挙げられています。
出典:American Heart Association Recommendations for Physical Activity in Adults and Kids
コレステロール値を変動させる薬物を控える
アメリカの国立医学図書館によると、以下の薬物を摂取するとコレステロール値が高くなること示されています。
・心血管系の薬物
・抗精神病薬
・抗てんかん薬
・ホルモン薬
・特定の免疫抑制薬
・糖尿病治療のためのSGLT2阻害剤
・プロゲスチン、アナボリックステロイド、コルチコステロイド
コレステロール値を安定させるには、これらの薬物の摂取を控え、他の治療法を検討することが推奨されています。
出典:NHS inform High cholesterol
認知症を予防する方法10選
認知症の予防は、以下の予防方法を習慣化することが効果的とされています。
1.魚、野菜、果物を中心とした食事を心がける
2.定期的に運動する
3.人と交流する
4.脳を活性化する
5.質の良い睡眠をとる
6.アルコールの摂取を制限する
7.禁煙する
8.持病を管理する(特に高血圧、糖尿病、高コレステロール)
9.定期的に健康診断をする
10. リラクゼーションや瞑想などでストレスを管理する
認知症予防の方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
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MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。