厚生労働省の推計によると、2025年までに高齢者の5人に1人が認知症を発症すると予測されています。
厚生労働省 老健局 認知症施策・地域介護推進課 「認知症施策について」
年齢や脳の疾患など、認知症の原因は多岐にわたりますが、正確な原因はまだ明らかにされていません。
その中、特定の性格を持つ人が認知症を発症するリスクが高い可能性があるとされていることはご存知でしょうか。
今回の記事では、性格特性に関する理論(ビッグファイブ/Big Five Personality Traits)を基に、認知症になりやすい性格について解説します。
認知症と性格の関係
認知症と性格の関係については過去に多く研究されてきましたが、研究方法に一貫性がなく、科学的証拠は不十分とされています。
2023年11月に公開された最新研究では、ビッグファイブの性格特性を用いて44,531人のデータを分析し、認知症の発症リスクとの関連性を調査しました。
この研究により、高齢になるほど性格が認知症の発症リスクと関連しやすいことが明らかにされました。
ビッグファイブ【Big Five Personality Traits】とは
ビッグファイブは、人間の性格が5つの性格特性で構成されているとする理論で、数々の研究で活用されています。
ビッグファイブは科学的に信頼されている性格特性理論であり、人格検査や適性検査にも用いられています。
検査は一般的に質問形式で行われ、インターネット上で受けることが可能です。より正確な結果を求める場合は、テストセンターや心療内科で受けることが推奨されています。
ビッグファイブの5つの性格特性には「外向性」、「協調性」、「誠実性」、「神経症傾向」、「開放性」があります。
① 開放性 (Openness)
→ 想像力、創造性、好奇心、冒険心などを表し、高い開放性を持つ人は新しい経験やアイディアを好み、非伝統的で独創的な思考を持つ傾向があります。
② 誠実性 (Conscientious)
→ 自己統制、責任感、几帳面などを表し、誠実性が高い人は計画的で、目標志向的で、信頼性が高い傾向があります。
③ 外向性 (Extraversion)
→ 社交性、活気、楽観主義、積極性などを表し、外向性が高い人は一般的に人との交流を好み、活動的で話し上手です。
④ 協調性 (Agreeableness)
→ 友好性、思いやり、信頼性などを表し、協調性が高い人は他人に対して親切で協力的です。
⑤ 神経症傾向 (Neurotism)
→ 感情的安定性と不安定性を表し、神経症傾向が高い人はストレスや不安を感じやすく、感情が不安定になりやすいです。
これら5つの性格特性にバランスがあることが最適とされています。
一つの性格特性が過剰に高かったり、別の特性が不足していると、認知症を含む生活問題や人間関係に支障を引き起こす可能性が高まると考えられています。
認知症になりやすい性格と特徴とは
ここから、認知症になりやすい性格の特徴について解説します。
研究によると、誠実性・外向性が低い、神経症傾向が高い性格を持つ人が認知症になりやすいとされています。
誠実性・外向性が低い人、神経症傾向が高い人の特徴には具体的に以下が挙げられます。
誠実性が低い人の特徴
→ 整理整頓が苦手
→ 直感・思いつきで行動する
→ 注意が散漫しやすい
外向性が低い人の特徴
→ 一人が好き
→ 思慮深い
→ 冷淡で無口
神経症傾向が高い人の特徴
→ 自己肯定感が低い
→ 感情の浮き沈みが激しい
→ ストレスを感じやすい
研究者たちによると、誠実性が低い性格を持つ人は、目標や決め事を維持するのが難しい傾向があるため、認知症予防に重要な運動習慣や健康的な食事習慣を継続するのが困難になることが考えられるようです。
さらに、誠実性が低い人は直感的に行動することから、スリルを求める活動を好む傾向があり、これが脳震盪(認知症の発症要因の一つ)を引き起こしやすくするとされています。
また、外向性が低い性格を持つ人は、人との交流が比較的少ないため、孤独や孤立を感じやすく、これが認知症のリスクを高める可能性があるとされています。
そして、神経症傾向が高い人は、ストレス耐性が低く感情の波が激しい傳勢があるため、うつ病になりやすく、認知症リスクが高くなりやすいとされています。
また、ストレス解消として、認知機能の低下を引き起こすアルコールや煙草に頼る可能性が高いと考えられています。
出典:Is Personality Associated with Dementia Risk? A Meta-Analytic Investigation
認知症になりにくい性格と特徴とは
一方、認知症になりにくい性格の人は、外向性と誠実性が高く、神経症傾向が低い人と研究で示されています。
外向性が高い人の特徴
→ 人と活動することが好き
→ 考える前に行動する
→ 積極的
誠実性が高い人の特徴
→ スケジュールに沿って行動する
→ 一度決めた目標を最後までやり遂げられる
→ 継続的にコツコツ努力することが得意
神経症傾向が低い人の特徴
→ 楽観的
→ 困難な場面でも冷静でいられる
→ 不安を感じにくい
研究者たちによると、外向性や誠実性が高い人は、健康に対する意識が比較的高い傾向にあると考えられています。
そのため、健康習慣を維持しやすく、認知機能の保持にも有利であるとされています。
また、神経症的傾向が低い人は精神的な安定性が高いため、認知症のリスクを上げる睡眠障害、アルコールの過剰摂取、精神疾患などになりにくいようです。
認知症になりやすい人が実践すべき予防対策
認知症になりやすい性格を持っていても、必ずしも認知症を発症するわけではありません。
病気の発症を防ぐには、適切な予防対策を行うことが必要とされています。
認知症の予防方法は多種多様であり、自分に合った予防対策を意識的に取り入れることで、発症リスクを低減できます。
以下では、認知症になりやすい性格を持つ人でも簡単に取り入れられる予防対策を2つ紹介します。
① 趣味に没頭する
まず、趣味に没頭することは、認知症予防のための有効な手段の一つです。
誠実性の低い人でも、趣味や好きなことを継続する傾向があるとされています。
例えば、音楽を聴いたり演奏したりすること、絵画や手工芸に取り組むこと、ガーデニングや買い物などの屋外活動に時間を割くことなどが挙げられます。
これらの活動は脳を刺激し、創造性を高め、認知機能の維持に役立つとされています。
また、外向性の低い人にとって、同じ趣味を持つ人との交流はより容易であり、孤立や孤独を防ぐ効果があると言われています。
、趣味に没頭することは精神的な満足感を与え、人との交流を促進するため、認知症になりやすい性格を持つ人でもリスクを低減することが期待できます。
② ストレスを健康的に解消する
次に、ストレスは認知症の発症リスクの一つとされています。
ストレスを感じた際は、アルコールの摂取や喫煙に偏るのではなく、健康的に解消することが重要です。
健康的なストレス解消方法としては、運動、瞑想、ヨガ、深呼吸、趣味、睡眠など様々あります。
特に、瞑想やヨガは心の平静をもたらし、感情のコントロールを改善する効果が高いと考えられています。
これらの解消法から自分に合った健康的なストレス解消法を行うことが大事です。
ストレスの解消を定期的に行うことで、ストレスによる脳への負担を減らし、認知機能の維持に寄与することができます。
認知症は早期発見と定期的なセルフチェックが重要
認知症は予防対策を徹底すると同時に、早期に発見して適切な介入・治療を施すことで、その進行を遅らせられる可能性のある病気とされています。
そして、早期発見には定期的に自身の認知機能の状態変化を把握することが重要になります。
🔰 認知機能検査を実施しているお近くの医療機関は、「認知機能セルフチェッカー」を導入している医療機関リストからお探しください。
MCI段階で発見すれば進行を抑制できる
認知症の一歩前の段階にMCI(軽度認知障害)という状態があります。
物忘れなど認知症に見られる症状が出ているものの、その程度は軽く周囲に影響を及ぼすほどではない状態です。
しかし、軽度とはいえMCIを放置すると、その中の約1割の方は1年以内に認知症を発症すると言われています。一方で、もしMCI段階で適切な治療を施すことができれば、健常な認知機能まで回復する可能性が14〜44%もあるとされています。
つまり、認知症を深刻化させないためには、少しの認知機能の変化に気づき、適切に対応することが有用であると考えられます。