音楽療法が認知症の症状を改善する?エビデンスを基に効果や注意点、やり方などを解説

認知症の症状の改善には、薬物療法の他に薬に頼らない非薬物療法があります。

 

非薬物療法の中でも比較的安易に取り入れられるのが、音楽療法です。

 

音楽療法は、歌を聴く、歌うなど音楽に関わる活動を行うことを指し、認知症患者の記憶障害や気分の浮き沈みを改善することが期待できると言われています。

 

この記事では、認知症の音楽療法について詳しく解説していきます。

 

 

認知症の音楽療法とは

認知症の音楽療法とは、音楽が持つ力を利用した非薬物療法の一つです。記憶障害や気分の浮き沈みの改善が期待されています。

 

音楽を聴くとストレスが解消される、体が勝手にリズムを取るなどは多くの方が経験したことがあるのではないでしょうか。音楽療法では、このように音楽が私たちに与える影響を症状の緩和として用いているのです。

 

エビデンスとして、2013年にスイスのジュネーブ大学とローザンヌ工科大学で行われた研究では、132人の健康な高齢者を対象に音楽の練習と聴取が脳の灰白質を増加させ、認知機能の改善に寄与することが確認されました。この研究では、6ヶ月間にわたって参加者がピアノのレッスンを受けたり、音楽を積極的に聴くことによって、脳の神経可塑性が向上し、特に小脳の灰白質が増加したことが示されました。

 

音楽療法が認知機能の改善に効果的であることは、様々な研究によって明らかにされています。音楽療法には、思い出の喚起ストレス軽減コミュニケーションの促進といった効果があるとされています。ここから、音楽療法の認知症への効果についてより詳しく解説します。

 

出典:Music interventions in 132 healthy older adults enhance cerebellar grey matter and auditory working memory, despite general brain atrophy

 

認知症の改善効果が高いと言われている音楽療法の効果

記憶を呼び起こす

音楽療法は記憶と結びつきやすいという性質があり、記憶障害を発症している方でも、音楽を聴くことで過去の記憶を思い出す可能性が高まります。これは、音楽が脳の複数の領域を同時に活性化するためです。

 

音楽を聴くことで脳の神経ネットワークが活性化され、特定の記憶が引き出されやすくなることが示されています。さらに、音楽が連鎖的に記憶を呼び起こすメカニズムが解明されつつあり、これが認知症患者の記憶障害の改善に寄与する可能性があります。

 

2020年に発表された研究によると、音楽を聴くことが自伝的記憶(過去の個人的な出来事に関する記憶)を呼び起こす力があることが明らかになりました。この研究では、音楽が脳の前頭前野と側頭葉を同時に刺激し、記憶の引き出しを促進することが示されています。

 

出典:Music evoked autobiographical memories in people with behavioural variant frontotemporal dementia

 

ストレスを軽減する

音楽にはリラックス効果があり、不安や痛みを軽減します。音楽を聴くだけでなく、手拍子や楽器の演奏、歌で気持ちを表現することでさらなるストレス軽減が期待できます。

 

2013年のチューリッヒ大学とスイス連邦工科大学の研究では、リラックス音楽を聴くことがストレス反応にどのように影響を与えるかを検証しました。この研究によれば、音楽を聴いたグループは、唾液中のコルチゾール濃度が減少し、自律神経系の回復が促進されることが示されています。

 

音楽はまた、ドーパミンの分泌を促し、ストレスを和らげる効果があることがわかっています。これにより、音楽は認知症患者の心理的な負担を軽減し、生活の質を向上させる手段として有望であると言えます。

 

出典:The Effect of Music on the Human Stress Response.

出典:The rewards of music listening: response and physiological connectivity of the mesolimbic system

 

コミュニケーションの促進

認知症の症状により、うまくコミュニケーションを取ることができず心を閉ざしてしまうケースもありますが、音楽であれば言葉を使わずにコミュニケーションを取ることができます。一緒に音楽を聴く、楽器を教えあう、など誰かと一緒に音楽療法を行うことで効果が高まるとされています。

 

2023年の研究によれば、音楽は認知症患者とその家族や介護者との間で社会的なつながりを強化するツールとして機能することが確認されました。この研究では、音楽を介した経験の共有が、認知症患者の孤立感を軽減し、社会的な関係を深める効果があることが示されています。

 

認知症の改善効果が高いと言われている音楽療法のやり方と種類

音楽療法には、受動的音楽療法能動的音楽療法の2種類のやり方があります。この療法を受ける方の状態や目的によって使い分ける必要があります。

 

認知症の受動的音楽療法とは

受動的音楽療法では、音楽を聴くことで症状を改善します。これは比較的簡単に取り入れることができ、多くの方に適用できる方法です。具体的には、以下のような活動が受動的音楽療法に含まれます。

 

【音楽鑑賞】

自宅で好きな音楽をスピーカーやヘッドフォン、イヤホンで聴くことが一般的です。リラックス効果を得るためには、クラシック音楽や自然の音を取り入れた音楽が推奨されます。

 

【ライブ演奏の観賞】

コンサートホールや地域の音楽イベントに参加することで、生演奏の迫力や臨場感を楽しむことができます。認知症患者にとって、生の音楽は特に強い感情的な反応を引き起こすことが多いです。

 

【音楽療法士によるセッション】

音楽療法士が選んだ音楽を聴くセッションも有効です。専門家が患者の状態や好みに合わせた音楽を選び、リラックスや記憶喚起を促します。

 

例えば、ある研究では、毎日30分間お気に入りの音楽を聴くことで、認知症患者の不安や興奮状態が顕著に改善されることが示されました。また、特定の曲を繰り返し聴くことで、安心感を与える効果も確認されています。

 

H4:認知症の能動的音楽療法とは

能動的音楽療法では、歌を歌う、楽器を演奏するなど、自発的に音楽活動を行うことで症状を改善します。これにより、患者自身が積極的に音楽と関わることができ、身体的および精神的な刺激を受けることが期待できます。具体的な活動例は以下の通りです。

 

【カラオケ】

カラオケは歌うこと自体が楽しいだけでなく、記憶力や発声練習にも効果的です。好きな曲を選んで歌うことで、ポジティブな感情を引き出すことができます。

 

【楽器演奏】

ピアノ、ギター、ドラムなどの楽器を演奏することで、手先の器用さや協調性を高めることができます。簡単な楽器であれば、リズムに合わせて演奏することも可能です。

 

【合唱】

地域の合唱団や音楽サークルに参加することで、他の人との交流も図れます。集団で歌うことは、社会的なつながりを強化し、孤立感を軽減する効果があります。

 

【ダンス】

音楽に合わせてダンスをすることで、身体を動かす楽しさを再発見できます。これは身体的な運動にもなり、全身の健康を維持するのに役立ちます。

 

例えば、ある介護施設では、週に一度のカラオケセッションを実施し、参加者の気分の改善や社交性の向上が見られました。また、楽器演奏のクラスでは、初心者でも簡単に演奏できる打楽器やウクレレを使用し、楽しみながら音楽と触れ合うことができました。

 

音楽療法は、その多様なアプローチにより、患者の個々の状態や好みに合わせてカスタマイズできるため、非常に柔軟性のある治療法です。受動的音楽療法と能動的音楽療法を組み合わせることで、より効果的な治療を提供することが可能です。

 

認知症の改善効果が高いと言われている音楽療法の効果の持続性は?

音楽療法には認知症症状の改善効果がありますが、その効果を持続させるためには日常的に音楽療法を行うことが推奨されています。

 

単発的な音楽療法や短期間の取り組みでは効果が一時的に終わってしまう可能性があるため、継続的な実施が重要です。

 

研究によると、定期的な音楽活動が認知症患者の認知機能や気分の安定に寄与することが示されています。例えば、2023年に発表されたジュネーブ大学の研究では、62歳から78歳の被験者を対象に6ヶ月間の音楽療法を実施し、音楽を定期的に聴いたり演奏したりすることで脳の灰白質の減少が抑制され、認知機能の低下が遅れることが確認されました。このような結果からも継続的な音楽療法の重要性が強調されています。

 

日常的な取り組みとしては、朝の音楽鑑賞や昼のリズム運動、夕方の楽器演奏などが効果的です。患者一人一人に合った方法で音楽療法を受けることが重要とされています。

 

音楽療法の効果が一生涯続くことは難しいかもしれませんが、定期的な音楽療法を続けることで効果を長期間維持することが可能だと考えられています。


出典:Music interventions in 132 healthy older adults enhance cerebellar grey matter and auditory working memory, despite general brain atrophy

 

認知症の改善効果が高いと言われている音楽療法を行う際の注意点

音楽療法を実施する際には、使用する音楽の種類音の大きさ、そしてセッションの長さに気をつけることが重要です。これらの要素が適切でない場合、音楽療法の効果を損なったり、逆効果を招くことがあるため、慎重に選択しなければなりません。

 

使用する音楽

音楽療法において、使用する音楽の選択は非常に重要です。ある人にとって心地よい音楽が、別の人にとってはネガティブな感情を呼び起こす可能性があります。例えば、特定の曲が過去のトラウマと結びついている場合、その曲を聴くことはストレスを引き起こし、療法の効果を妨げる可能性があります。したがって、音楽を選ぶ際には、以下の点に注意することが大切です。

 

個人の嗜好を考慮する

患者が好む音楽や馴染みのある曲を選びましょう。個人の好みを尊重し、その人にとって心地よいと感じる音楽を提供することが重要です。音楽は世代や文化によって異なるため、患者が特に懐かしいと感じる曲を選ぶことが効果的です。

 

ジャズやクラシック音楽の活用する

ジャズやクラシック音楽の特有のリズムやメロディにはリラックス効果があると言われています。これらの音楽は、ストレスを和らげる効果が期待できるため、音楽療法に適しています。

 

音楽療法士のアドバイスを取り入れる

プロの音楽療法士に相談し、患者の状態に適した音楽を選ぶことも一つの方法です。専門家が選曲をサポートすることで、より効果的な音楽療法を実施することができます。

 

音の大きさ

音楽療法では、音の大きさも重要な要素となります。加齢に伴う聴力の低下は、認知症の有無にかかわらず多くの高齢者に共通する問題です。音が聞こえにくいと、音楽療法の効果は減少する可能性があります。さらに、2022年の研究では、大音量の音に長期間さらされると、認知症の進行が加速することが示されています。そのため、音の大きさには特に注意が必要です。

 

適切な音量を設定する

音量は個々の聴力に合わせて調整する必要があります。音楽が心地よく聞こえる程度の音量を心掛け、過度に大きな音量は避けるようにしましょう。

 

静かな環境の確保する

背景ノイズを最小限に抑えることで、音楽に集中できる環境を作り出すことが重要です。テレビやラジオの音を消すなど、静かな場所で音楽を楽しむ工夫をしましょう。

 

個人用デバイスを使用する

ヘッドフォンやイヤホンを使用することで、外部の音を遮断し、より集中して音楽を楽しむことができます。ただし、音量が過剰にならないように注意が必要です。

 

出典:A new dementia treatment with quieting focus, subtle sound vibration, and intentional shared silence: Introducing Resonant Silence Technique: Innovative practice

 

音楽療法の長さ

音楽療法の時間の長さも、患者にとって適切なものである必要があります。認知症の患者は集中力が低下しがちで、長時間の音楽療法はかえってストレスになることがあります。また、2020年の研究では、音楽だけでなく沈黙にもリラックス効果があることが示されています。適切な休憩を挟むことで、音楽療法の効果を最大限に引き出すことができると考えられます。

 

短時間で行う

音楽療法の時間を適度に設定し、長時間にわたる音楽療法は避けるようにしましょう。一般的には、30分から1時間程度が効果的です。

 

適切な休憩を取り入れる

音楽療法の最中に短い休憩を取り入れることで、患者の集中力を保つことができます。音楽を聴く合間に静かな時間を設けることで、心身のリラックスを促進します。

 

個々の反応を観察

患者の反応を観察し、疲れを感じた場合には音楽療法を終了することが重要です。患者の状態に応じた柔軟な対応が求められます。

 

 

出典:Chronic Noise Exposure and Risk of Dementia: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis

 

以上のように、音楽療法を効果的に行うためには、使用する音楽の種類や音量、セッションの長さに注意を払い、個々のニーズに合わせたアプローチを心がけることが大切です。

 

どこで音楽療法を受けることができる?

音楽療法は、専門の音楽療法士がいる病院や医療センター、福祉施設などで受けることができます。これらの施設では、認知症を含むさまざまな疾患を持つ方々に対して、音楽療法が提供されています。音楽療法には、集団で行う方法と個別に行う方法があり、それぞれのメリットがあります。

 

集団音楽療法では、複数の参加者が一緒に音楽活動を行うことで、社会的なつながりを強化することができます。例えば、合唱や楽器演奏、音楽を通じたゲームなどが一般的です。この形式では、参加者同士が音楽を通じて交流し、コミュニケーション能力や協調性を高めることが期待できます。特に、高齢者施設やデイケアセンターなどでは、集団音楽療法が広く行われており、参加者の社会的孤立を防ぐ効果があるとされています。

 

一方、個別音楽療法では、音楽療法士が個々の患者に対して個別にプログラムを提供します。これは、患者の好みやニーズに応じてカスタマイズされた音楽体験を提供することで、より深いリラクゼーションや感情表現の促進を図ることが目的です。個別音楽療法では、患者が好きな音楽を選んで聴いたり、自分のペースで楽器を演奏したりすることができ、特定の目標に合わせてセッションが調整されます。この方法は、特に認知症が進行している患者や個別の注意が必要な場合に適していると言われています。

 

音楽療法を受けるためには、まず医療機関や福祉施設に問い合わせて、音楽療法のプログラムがあるかどうかを確認することが大切です。音楽療法士の資格を持つ専門家がいるかどうかも確認し、自分の状況や希望に合った療法を選ぶことができます。また、地域のコミュニティセンターやNPO団体などでも、音楽療法のワークショップやセミナーが開催されていることがあります。これらの機会を利用して、自分に合った音楽療法を見つけてみてはいかがでしょうか。

 

音楽の力で生き生きした生活を続けましょう

音楽には認知症を改善する効果があるとされています。音楽療法であれば、音楽を通した自己表現や他者とのコミュニケーションを楽しみながら、認知症の進行を緩やかにすることが期待できます。

 

まとめ

  • 音楽療法は音楽が持つ力を利用した認知症の非薬物療法
  • 音楽療法には二つ種類がある
  • 受動的音楽療法は音楽を聴いたりする受け身的な療法
  • 能動的音楽療法は自分自身で音楽を演奏したりする行動的な療法
  • 音楽療法には、思い出の喚起、ストレス軽減、コミュニケーションの促進といった効果がある
  • 音楽療法の効果を持続させるためには、休憩と療法のバランスを考慮しながら継続的に行う
  • 行う際には、使用する音楽、音の大きさや長さに気をつける
  • 音楽療法は、集団か個別で行える

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